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Golden Sunset  作者: 飇 Tsumuzi-Kaze
4/5

第4話 〜カゾク〜


「なぁ、麻美。少しいいか?」


 俺は意を決し、麻美に問いかける。


「麻美はなんで俺にここまで尽くしてくれるんだ?」


「……」


 麻美は黙っている。言いたくないんだろうか。確かに俺は今までこの話には触れてこなかった。この話をすると今の関係が崩れてしまいそうな気がして。それでも聞かないといけない気がした。今の俺たちの関係をはっきりさせたかったからだ。


「ねぇ、亮太」


 ついに口を開く麻美。俺はなぜだか鼓動が早くなっていた。1回1回の鼓動がとても苦しい。ただ麻美がここまで俺に尽くしてくれる理由を聞くだけなのに、なんでこんな緊張するんだよ。


「う、うん」


「その理由を話すのは明日でもいい?」


「え……?」


 予想外の回答にひっくり返りそうになった。


「どうして?」


 単純に理由を聞いたら、少し笑みを含めて、


「まとめる時間がほしいから」


 こんなことを言われたら何も言い返せなくなってしまう。それにこんな麻美を見るなんて初めてかもしれない。……これは素直に麻美の意思を尊重しよう。


「わかった。明日のいつにする?」


「うーん、夕方あたりかな。16時ぐらいに来るね」


「16時ね、了解」


「あと、明日は朝ごはんの支度はしないから頑張ってね」


「うん、大丈夫」


「そう……。じゃあ、わたしは行くね。また明日、おやすみ」


「うん、おやすみ」


 挨拶を済ませると麻美は家を出て行った。緊張から解放された俺は思わずため息を漏らす。


 喉の渇きを覚え、水道水をコップに注ぎ一気に飲み干す。……少し落ち着いてきた。


 「麻美……」


 あいつがあんな顔をするなんて。麻美のことをわかった気になっていたが、どうやらそんなことはなかったらしい。麻美が今までどういう想いを秘めていたのか、明日知ることになる。


 今日はもう寝てしまおう。










「もうこんな時間か」


 気づけばもう朝になっていた。夜は全く眠ることができなかった。


「朝ごはんは……そうか麻美がいないのか」


 麻美が朝いないことへの違和感を覚える。そりゃそうだ、毎朝当たり前のように俺の朝ごはんを用意してくれていたのに、それがなくなると……。


 日頃、麻美が俺に対してしてくれていることがどれだけありがたいものか、麻美がいないこの朝に初めて身に染みた。





 

 

 


 麻美のことを考え続けているといつの間にか椅子に座ったまま眠っていたらしい。


「今何時だ……」


 時計を見ようとすると、背後から。


「もう16時だよ」


 麻美の声がした。振り向くと、やれやれとした顔で俺の方を見ていた。


「ご、ごめん。寝ちゃってたみたいだ」


「珍しいね」


「ちょっと眠れなくて……」


「そう……」


 少し気まずい空気が流れる。そんな空気を麻美が打ち消した。


「亮太は、わたしがどうしてこんなにも亮太のお世話をしているのか気になるんだよね」


「うん……」


「それじゃあ先に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


 聞きたいこと……。段々と不安になってくる。この場から逃げ出してしまいたいと思い始めてきた。

 

「亮太は、わたしとの関係についてどう思う?」


「麻美との関係……」


 麻美との関係。俺は今まで麻美は仲のいい幼馴染だと思っていた。だけど、いつの間にか俺の世話をしてくれて、麻美なしじゃ1日が不安になってしまった。


 しかし、これは間違えてしまうと取り返しのつかないことになる。何の根拠もないが、なぜかそう思っていた。


 慎重になって俺は麻美に答える。


「大切な……家族かな」


 俺が感じてることを伝えると麻美は、


「そう……」


 と答えて窓の外を見た。俺もそれにつられて外を見る。


 外はメラメラと燃えるような茜色の空をしていた。夕日は金色に輝き、その光景は今の状況には似合わない、そう感じた。


 景色を見ていると麻美が口を開く。


「亮太のことをお世話しようと思ったのは……亮太のお母さんが亡くなった日」


「え……?」


 予想外の回答が飛び出した。俺は少し混乱する。


「でも、なんで!」


 俺は声量は気づけば大きくなっていた。


「あの日、亮太すごく悲しそうな顔をしていて。今にも壊れそうで……。わたしが守ってあげなくっちゃって。亮太あの時言ってたよね。なんで母さんが死なないといけないんだって。わたし、それを聞いて、いてもたってもいられなくて……。ごめんなさい、迷惑だったよね」


 麻美が今まで俺に隠していたことを告白してくれた。迷惑だなんて思ったこともない。俺がこうして今を生きられるのはすべて麻美のおかげじゃないか。それを伝えようとするが。


「そんなことない……」


 たったこれだけの言葉しか出なかった。自分の弱さに段々と腹が立つ。麻美が勇気を振り絞ってくれたのに、俺はそれに全力で答えてあげることができなかった。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 麻美が涙を流す。こんな麻美は見たことがない。今まで素っ気ない感じだと思っていたのに、こんな一面があったのか……。


「亮太……」


 俺は無意識に麻美の背中を撫でていた。……言わないといけない。俺の思っていることを。


「麻美、俺は迷惑だなんて思ってないよ。むしろとても感謝してる。麻美がいなかったら、俺は今ここにいなかったと思う。上手いこと言えないけどさ、俺は麻美がこうやって世話をしてくれて本当の家族のように思ってるんだ、さっきも言ったけどね。だから、もう泣かないでくれ」


「うん……」











「ごめんね、みっともない姿見せちゃった」


「ううん、俺の方こそごめん。今まで不安だったよな。でももう大丈夫だから」


「亮太……」


「また……明日からきてくれないか?」


 そう言うと、麻美は目を大きく開き、少しばかりの涙を浮かべて嬉しそうに答えた。


「喜んで……」


 その笑顔は、あの夕日に負けない、そんな一輪の向日葵を見ているようだった。








麻美と別れた後、ドッと疲れが襲い、そのまま吸い込まれるように眠りの世界に吸い込まれてしまった。


 



 「亮太、起きて。朝だよ」


 聞き覚えのある声が聞こえ、ゆっくりと瞼を開ける。


 そこには、麻美がいた。いつも見る光景。俺はなぜか心が軽くなる、そんな感情に包まれた。そこに麻美がいることが、俺の心に安らぎを与えてくれているのだろう。当たり前がこんなにも幸せで大切なことなんだと、昨日の出来事がきっかけで気づくことができた。麻美に感謝しないとな。


「おはよう、麻美」


「おはよう。朝ごはんできてるから食べに来て」


 いつも通りの会話、麻美も大分落ち着いたようだ。俺は身体を起こし、台所へと向かう。








「ごちそうさま、今日も美味しかったよ」


「そう、それはよかった」


「今日はバイト?」


「うん、そうだよ。だからそろそろ行くね」


「わかった」


「今日はどこか行くの?」


 今日はどうしようか。昨日は日課の散歩ができなかったから外に出ようかな。


 そういえば、エレナさんは最近どうしているだろうか。会って話したいこともある。しかし、エレナさんがどこにいるかさっぱりわからない。大変だけど、町中を歩いて探すか。


「今日もいつも通り町を歩いてるよ。あ、でも少し遅くなるかもしれない」


「そう……気を付けてね」


「うん」


「それじゃあ、行ってきます」


「いってらっしゃい、頑張れよ」


 麻美を見送った後、俺も服を着替え外に出た。







「暑い……」


 相変わらず外は地獄のような暑さをしている。太陽はこれでもかと言わんばかりの光を放ち、蝉の大合唱は耳が壊れるんじゃないかと思わせる。たらたらと滝のように流れる汗は止まる気配を見せない。


 そんな中をエレナさんに会うために歩き続ける。


 道の両端に広がる田んぼや、こじんまりとしたスーパー、昔よく遊んだ川などにも行ったりしたが、どこにもエレナさんの姿はなかった。


 気づけば空は茜色に染まり、段々と涼しくなっていた。エレナさんに会えないと半ば諦めモードになっていたが、ふとあることに気づく。


「そういえば、公園」


 俺としたことが、エレナさんと初めて出会った公園にまだ足を運んでいなかった。


「あの時も確かこんな時間だったな。行ってみるか」


 公園にいなかったら、その時は諦めよう。








 公園に到着すると、ちょうど公園で遊んでいた子供たちが家に帰ろうとしていた。


 「エレナさんいるかな」


 公園に入り、辺りを見渡す。しかし、どこにもエレナさんの姿はなかった。


 ここもダメか。気持ちが落ち込んでしまい、今までの疲れが押し寄せる。よく考えれば休憩なしでずっとエレナさんのことを探していた。


 近くのベンチに座り込む。顔を上げると、夕日がキラキラと輝いていた。ここから見る景色は本当に美しい。マイナスな感情もこの景色を見れば浄化されそうだ。


「綺麗だな……」


 ぼそっと呟く。


「ホント、ここから見る景色は美しいわよね……」


 自分ではない声。ずっと探していた声。


 気づけば、俺の隣にはずっと会いたかった人が座っていた。


「エレナ……さん」


 俺の顔を見て優しく微笑むエレナさん。まるで時が止まったかのような感覚に陥る。


「やっほ。久しぶりだね、亮太君!」


 風に(なび)いたその髪は、夕日に照らされ、黄金色に輝いていた。



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