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Golden Sunset  作者: 飇 Tsumuzi-Kaze
3/5

第3話 〜オモイデ〜


 燦々(さんさん)と降り注ぐ陽光が水面をキラキラと輝かせて、それは一つの宝石のようだ。


「あたしの部活見に来ませんか?」


 こんなことを言われた俺は、別に見るつもりは全くなかったが、風子の勢いに負けてしまい部活動を見学している。


風子は昔から泳ぐことが好きで、川に行ってもずっと泳ぎ続けていたほどだ。中学生になってからは水泳部に入部して他の人に負けないように必死に練習をしていた。それは俺も知っている。よく麻美と風子の練習を見に行っていたからだ。


 それにしても、プールだなんて久しぶりに見た。俺の通っていた高校にはプールがなかったし、大学にそもそもプールが存在しているかすら知らない。だから見るのは中学生以来になるだろう。


 しかし、さっきから何人かの部員がひそひそとこちらの方を見てお喋りしている。まぁ無理もない。いつもの部活動に突然見も知らぬ人間が現れたら警戒するにきまっている。


 俺は申し訳なさそうにしながら、プールサイドで様子を眺めていた。


 見学していると、4人がスタート台に立った。どうやらタイムを計測するらしい。その中に風子の姿があった。


水泳部員の1人が掛け声をあげる。


「テイクユアマーク!」


その声で周りの緊張がグッと高まる。俺は思わず唾を飲み込んだ。


 大きな笛の音で一斉にスタートした。


 さすが水泳部員、泳ぎ方がとても綺麗で見惚れてしまうほどだ。しかし、1人の泳ぐ姿が目に入った瞬間口が開いてしまった。


 風子の泳ぎがまるでイルカに変身したかのようだ。


 気づけば猛スピードで25mを泳ぎ切り、既にターンしていた。


 風子の泳ぎは素人の眼でもわかるくらい別格で、ほかの子たちも十分速いはずなのだが、風子は群を抜いて速かった。


 1番でゴールした風子のタイムは28秒を切っていた。どうやらこれは全国高校生レベルらしい。俺の知らない間に風子は成長していた。それは自分のように嬉しいが、どこか遠い人間になってしまったという寂しい気持ちにも駆られていた。







 風子たちは練習を17時に切り上げ、ミーティングを少ししてから終わるのでそれまで学校の前で待ってほしいと頼まれた。


 門を出ると、夕日の光が目に入る。山から見る夕日は町で見る景色とはまた違った雰囲気を感じた。目を閉じると風や虫の音が聞こえてくる。とても心地がいい。


 ふとあの光景を思い出す。




 『エレナさん』




 彼女との出会いは俺に多大な影響を与えたみたいだ。金色に輝くあの髪は本当に印象的で、いつまでも俺の胸に刻まれている。


 また会いたい。


 気づけばそんなことを思っていた。なぜだかわからない。ただ、笑顔の中に隠れていた本当の感情が、ずっと俺の中で違和感として残っていた。本当の感情なんてただの勘違いかもしれないが、でも最後に見せてくれたキラキラと輝くあの笑顔がなぜ切なく感じたのか、気になって仕方がなかった。


「先輩?」


「あぁ、風子か」


「はい、お待たせしました!……なんかつらそうな顔してますけど大丈夫ですか?」


「そんな顔してたか?」


「はい、先輩すごい寂しそうです」


 エレナさんのことを考えているとどうやらそんな顔になるようだ。


「寂しそうか……。大丈夫、何ともないよ」


「ホントですか?うーん。あ、そうだ!先輩、手を出してください!」


「ん?ああ、何するんだ?」


「いきますよー!」


 俺の手に風子は手を重ね握り始める。そして……。


「闘・魂・注・入!!!!!」


 全力で俺の手を握った。


「い、いだあああああ!」


「んー!!!」


 風子の力はとてつもなく強かった。手が粉砕するかと思うぐらいに……。


「きゅ、急に何するんだよ!」


「おまじないですよ。昔、不安なことがあったら麻美ちゃんと3人でよくしたじゃないですか」


「あ・・・。確かにそうだったな」


「なのでこうやって先輩が元気になるようにおまじないをしたんです」


「だからって力の加減ってのをな……」


「でも先輩、元気になったでしょ?」


「え?」


 風子は優しく微笑んだ。そう言われてみれば、いつの間にかさっきまで抱えていた切ない感情はどこにもなかった。俺のことを思って風子は元気づけてくれたのか。


 やっぱり、成長したんだな……。


「風子」


「なんですか、先輩」


「ありがとう」


 感謝の気持ちを伝えると突然後ろに向いた。


「いいんですよ、先輩が元気じゃないと私も嬉しくありませんから」


 そしてまた俺の方に向き直し、


「それじゃ元気になったってことで、そろそろ先輩の家に向かいますか!」


「うん、そうだな」


「よーし、しゅっぱーつ!」


 風子は、風や自然の声に負けないほど大きく元気な声を発した。それは、さっき俺を感心させた逞しく成長した姿ではなく、懐かしく微笑ましいあの頃の姿がそこにはあった。




 









 バスに乗って町に戻ってきた俺たちは、途中風子の晩御飯を買っていき、家に着くまでの10分程度を話しながら帰っていた。


「風子、見ない間に泳ぐの上手くなったな」


「ホントですか?ありがとうございます!」


「あの頃と比べ物にならないよ」


「先輩が最後に見に来てくれたのって中学のときですから、そりゃ成長してますよ!」


 ニカッと満面の笑みを見せる。昔からそうだが、風子はとても素直だ。なにかあればすぐ顔を見ればわかる。心情がここまでハッキリしている人間なんているのかってレベルだ。でも、変に隠されるより、こうやってわかりやすい方が付き合っていくのも気が楽でいい。だから俺は風子と話すのが嫌いではない。


「先輩に褒められる日が来るなんて考えられませんでしたねー」


「なんだよそれ、今まで褒めたことがないみたいな言い方」


「実際褒められたことなんて1回もないですよ!」


「そんなことないだろ」


「いいや、そんなことありますって!」


「なに怒ってんだよ、耳が真っ赤だぞ?」


「お、怒ってません!」


 昔から怒ると耳が赤くなる風子。本当にわかりやすいな……。


「でも、水泳をここまで続けているなんて思わなかったよ。お前の性格的に途中でやめると思っていたけど」


「え?あ、あははは。……あたしも不思議です、なんでこんなに続けられているんでしょうね」


 そう言って風子は空を見上げる。


「理由もわからないなんて変な奴だな」


「……」


「風子?」


「……」


 空を見上げて黙り込んでいた風子は突然。


「うーん、忘れちゃいました!」


 またニカッとした顔で俺を見る。ただその笑顔には、なぜだかわからないが、どこかで見たあの違和感と似たものを感じた。









「うわー!先輩の家だ、懐かしいなぁ……」


 感動しているのか、家の前で立ち止まる風子。なかなか動こうとしない。


「風子、ほら入るぞ」


「はーい!」


 玄関のドアを開く。ただいまーと声を上げると、風子もそれに続いた。すると、その声に反応した麻美が奥の部屋から出てきた。


「ただいま麻美」


「おかえり」


「お久しぶりです、麻美ちゃん!」


「え?」


 突然、俺の背中から子供のように出てきた風子に麻美は少し驚いているようだ。それもそうだろう。


「風子ちゃん、久しぶり。でもなんでいるの?」


「晩御飯食べに来ちゃいました!一応買ってきています」


 ニカッとした笑顔で惣菜袋を見せつける。


「そう……。ならもう準備は済んでるから二人とも台所に来てね」


「いいんですか!?」


「せっかく来てくれたんだから、いいよ」


「ありがとうございます!」


 風子は満面の笑みで俺にVサインを送る。まったく……。














「麻美さん、相変わらず料理が上手ですね!」


「うん、ありがとう」


 部活終わりの風子は相当お腹を空かせていたのか、すごい勢いでご飯を平らげていた。


 晩御飯を食べ終わると、昔に戻ったように3人で思い出話を始めた。


「2人ともなんだか変わりましたねー!」


「風子は何も変わってないな」


「そ、そんなことないです!」


 こんな感じで他愛もない昔話をしていたが、麻美は一言もしゃべろうとしない。それに気づいたのか風子は麻美に話しかける。


「麻美ちゃんって、あの時から先輩のお世話をしているんですか?」


「うん」


「そうなんですか……」


「……」


 突然重い空気が漂う。そういえば、なんで麻美はここまで俺の世話をしてくれているんだ?


「風子ちゃん、もう夜も遅いけど時間は大丈夫?」


 俺が考え出そうとしたのと同じタイミングで麻美は口を開いていた。時計を見ると、もう21時になろうとしている。この町は照明が少ないせいで夜道は完全な暗闇と化す。その心配をしたんだろう。


 風子もそれに気づいたようで、「それじゃあそろそろ」と言いながら鞄を手に取っていた。


「また来ますね先輩!麻美ちゃん、ごちそうさまでした!」


「次来るときは事前に連絡して来いよ」


「えへへ、すみません……」


 ペロッと舌を出して謝る風子。


「それじゃあ、お邪魔しました!」


 俺たちに一礼して風子は家を出た。


「騒がしいやつだったな」


「風子ちゃんらしいね」


 麻美はそっと小声で呟いた。


「あ、そうだ。麻美」


 そういえばさっき気になったことを麻美に聞かないといけない。


 ……麻美は何を思って俺にここまで世話をしてくれているのかってことを。








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