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Golden Sunset  作者: 飇 Tsumuzi-Kaze
2/5

第2話 〜キッカケ〜


 公園を後にした俺は、足早に自宅へ向かう。すっかり辺りは暗くなっていた。


 エレナさん。俺は彼女のことが気になって仕方がなかった。脳裏に彼女の姿が染みついている。俺にとって衝撃でしかなかった。


 しかし、もたもたしている場合ではない。そろそろ麻美もバイトを終え、晩御飯を届けに来てくれる頃だろう。もしかすると、麻美が心配するかもしれない。こんなにも遅くまで外出したことなんてないからだ。



 

 家に帰宅すると、部屋の明かりがついていた。俺より麻美の方が早かったようだ。


 急いでドアの鍵を開け、家に入る。


 台所へ向かうと、すでに麻美は晩御飯の用意をして待っていてくれていた。


「おかえり、今日は遅かったね」


「ただいま。ちょっとね……」


「ふーん、そう。もう用意できてるから、食べてね」


「うん、ありがとう」


 俺は椅子に座り、黙々と飯を食べ始める。いつもに比べ気まずい空気が流れる。


 麻美が俺の方をジーッと見てくる。


「な、なに?」


「ううん、なんかあった?」


 やたらと俺のことを気にしているようだ。“あの人”にあったことを言うべきか。


「実は……公園で変な人に会ったんだよ」


「変な人?」


 ぽかんとした顔をする麻美。当然の反応だ。


「うん。金髪で、身長が高くて……」


 あの光景を思い出す。


暗くてよく見えなかったが、夕日に照らされる彼女は神秘的だった。


 どこかの国から来たようだけど、こんな辺鄙な町に何をしに来たんだろうか。謎が深まるばかりだ。


「亮太?」


「あぁ、ごめんごめん。なんでもないよ」


 どうやら黙り込んでたらしい。


「そう、とりあえず早く食べちゃってね」


 そう言うと麻美は洗い物を始める。俺も目の前にある料理を平らげることに集中することにした。









「ふう、ごちそう様。今日もありがとな、麻美」


「ううん。それじゃあ、また朝に来るからね。おやすみ」


「おう、おやすみ、また明日」


 玄関まで麻美を見送った後、俺は自室に戻りベッドに寝転がった。


 なぜかいつもより疲労感に襲われ、気づけば俺はそのまま眠りの世界へ誘われていた。




 







「お……、りょ……ん」


 何かが聞こえる。


「おきて、りょうたくん」


 誰かの声が俺の頭に響く。


「起きて、亮太君」


 その声に導かれるように俺はゆっくりと目を開く。


「ここは・・・どこだ?」


 突然の出来事で俺は呆気にとられる。


 さっきまでベッドで眠っていたはずなのに、そこには悍ましい光景が広がっていた。


「なんだよ・・・これ」


 誰かが住んでいたであろう住居が何物かによって破壊されていた。それは、夢にしてはあまりにも生々しく、思わず吐き気を催す。周りを見渡すが、どこも悲惨な状態だった。この場所で戦争でも起こったのかと彷彿させられる、そんな状態だ。


 思わず俺は声を上げる。


「だ、誰か!」


「誰かいないんですか!」


 その声は虚しく響く。焦りを覚えた俺は気づけば走り始めていた。


 誰かいないかと繰り返し叫ぶが返答はない。段々と黒い靄が俺の心を蝕み始めていく。


 そしてついに絶望と恐怖に襲われ耐えられなくなった俺は、その場に崩れ落ち、そのまま意識を手放していった。













「亮太、起きて。朝だよ」


 聞き慣れた声が聞こえて思わず飛び起きる。


「……大丈夫?すごい魘されていたけど」


 麻美は心配したような顔で俺の顔を覗き込んだ。


 全身から汗が止まらない。相当魘されていたようだ。


「あぁ、気分が悪くなる夢を見た」


「そう、でも大丈夫。わたしがいるから」


 そう言って麻美は俺の頭をなでる。いつもだと恥ずかしくて耐えられないが、今だけは麻美に甘えることにした。





「落ち着いた?」


「あぁ、ありがとう。大分落ち着いたよ」


「そう、よかった。それじゃあ朝ごはんにしよう。準備して降りてきてね」


「わかった」


麻美が部屋を出たあと、俺はすぐに着替えて台所に向かった。








 目覚めた時に比べ、身体はかなり軽くなっていた。麻美の料理のおかげだろうか。


 今日も無言の食事が続いたが、いつもと違うのは麻美が俺のことを気にして、何度か声かけてくれたことだろうか。


「ごちそうさまでした」


「今日もこの後バイトだから、昨日みたいな感じでよろしくね」


「あぁ、わかった」


「それと」


 麻美は、ふいに俺の頬を両手で覆い。


「無理だけはしちゃダメだよ」


「あ、あぁ」


 今までこんなことをしなかったから戸惑う。


「それじゃあ、行ってくるね」


 そして吹き抜ける風のようにその場からいなくなっていた。















 家を出た俺は、今日も日課の散歩を始める。


 まだまだ暑さは引かない。今日も蝉は元気に鳴いている。上を見ると、高く高く永遠に広がった青空がそこにあった。


 相変わらず立ち止まっているだけで汗が流れてくる。そんな暑さに負けずに町中を歩く。


 新しい発見なんて期待していないのに、この町に良いところなんてないのに。そう今までは思っていたが、昨日のエレナさんとの出会いで少し考え方が変わった。


「この町を散歩していると面白い発見がたくさんあるわよ!私が元々いたところにこんなにも素晴らしい場所なんてなかったからね……」


 昨日の彼女の言葉を思い出す。やけに夕焼けが似合う女性が、顔は笑っていたが明らかに寂しそうな声で言い放った。それが心の中にずっと離れないでいる。


 この辺鄙な町を素敵な町だなんて、相当な変わり者だ。でもなぜか俺はそれが嬉しかった。


 自分でも思うが、とても単純だ。それでも俺が住んでいる町を褒めてくれることはやっぱり嬉しいものだ。


 

「なーにニヤけた顔してるんですか、先輩」


「!?」


 突然、背後から声をかけられビクッとする。誰だと勢いよく振り返ると、そこには懐かしい奴がいた。


「なんだ、誰かと思ったら風子か」


「お久しぶりです、先輩!」


 彼女の名前は山代風子(やましろふうこ)。俺と小中学校が同じで、後輩になる。


 昔は亮ちゃんと呼んでくれていたが、中学生になった途端、俺のことを先輩呼びし始めた。

 

 風子は、活発な女の子って印象だ。身長は麻美よりも高いから160センチぐらいあるだろう。どうやら中学生の時から水泳を始めたらしく、俺より引き締まった身体をしていて少し焼けている。それに髪型も女子にしては短く、いかにもスポーツ女子って感じだ。

 

「それにしても久しぶりに会ったっていうのに、なんだとは失礼なんじゃないですか?」


「ごめんごめん」


「まったく……。それにしても何してるんですか」


「ああ、ちょっと散歩で」


「散歩でこんなところまで来たんですか?」


「え?」


 風子が何を言ってるか理解できなかった。


「え?じゃないですよ。ここ、うちの高校ですよ」


 そう言われた俺は目線を風子から少しずらす。そこには歴史がありそうな雰囲気で、年季の入った校舎がそびえ建っていた。


「あれ、こんなところまで来てたのか」


「えぇ!?無意識でここまで来たんですか?」


「みたいだな」


「みたいだな、じゃないですよ。こんな山ん中に建つ校舎にボーっと歩いてくるなんて、1周回って心配しますよ。何考えてたんですか」


「い、いや本当に無意識でここまで来たんだ」


 風子の高校から俺の家までずいぶんな距離がある。それこそ歩いていくのは面倒で、基本バスか自転車を使うのが普通だ。それぐらい町のはずれにこの学校が建っている。


 俺自身、こんなところまで歩いてくるなんて思わなかった。無意識でエレナさんのことを考えながらここにたどり着いたことを考えると、冷静に気持ちが悪くなり、俺自身、俺のことが嫌いになる。それにこのことを風子に察されると面倒くさいことになりそうだ……。


「ふーん、まっ、いいですけど」


 どうやら詮索されなくて済むようだ。安堵で思わず息を吐くと、


「あ、そうだ!」


 なにかひらめいたかのように風子は突然大きい声を出す。


「この後、部活終わったら久しぶりに先輩の家に遊びに行っていいですか?」


「は!?ダメにきまってるだろ。晩御飯の支度をしてくれる麻美にも言わないといけないんだし」


「えぇ、晩御飯なんてどこかで買ってから行くんで、どうかこの通り!」


 顔の前に手を合わせて全力でお願いされるとなかなか断りづらくなる。ついに折れた俺は、渋々いいよと許可を出す。


 許可が出た風子は幼稚園児のようにはしゃいでいる。その姿はどこか懐かしさを感じさせられる。


「あ、先輩!」


「ん?」


 目をキラキラさせ、俺に提案する。


「あたしの部活、見に来ませんか?」


 ……。


「はあ?」









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