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虫の操者のお姫様  作者: 色獅子 A ハック
一章
3/5

三話 自己紹介

 甘く鼻腔をくすぐる匂いが私を眠りの世界から引き上げた。朧気に開いた目を擦りながら体を起こそうとして頭を何かにぶつけた。

 それは木を何本も交差させて組まれていて、その上に大量の葉がのせられていた。これのお陰で顔に直射日光が当たる事が無く、太陽光で目が覚める事が無かったのだろう。

(いたたた..あれ...?こんな物あったっけ?)

 ぶつけた事でバランスを失った木組みは崩れ落ち、私に降りかかる。今の状況が全く分からないまま、呆けながら辺りを見回していると、穏やかて優しい声が火の向こうから聞こえてくる。


「おはようお姫様。よく眠ってたね、こんなところで。まったく、死にたいのかい?」


「.........誰?」

 火を挟んだ向かいにいたのは女性。見た所20代半ばといったところだろう。美しい顔と豊満な胸に目がついつい吸い寄せられる。そして明らかに森の中を歩き回るのには適さない黒のドレスは異質さを放っている。

(この人誰だろう?普通の人間ではないのは確かだなんだけど。でも私をお姫様と呼ぶからには私の事は知っているって事で良いのかな。)

 ふと、思い出したかのように自分のナイフを探す。が、見つからない。

「探しているのはこれかい?」

 目の前の謎の女性はニヤニヤと笑いながら胸の谷間からナイフを取り出す。チラッと少女に見せるとまたナイフを谷間にしまった。

「返して!」

 怒気を強めて迫るが女性はニヤニヤ笑ったままだ。

「返して欲しかったら奪い取ってみな、ここにしまってるからさ」

 トントンと自身の胸を人差し指で叩きながら笑っている。

(はあっ?何考えてんの?胸の中にナイフ隠すとか。どうやって取り返せって言うのよ。胸に手を突っ込めって事?というかやっぱり胸でっか!何を食べたらあそこまで大きくなるんだろう。良いなぁ....あぁ違う!そうじゃなくて!)

 突然の出来事に少女の頭は全然働かないでいた。

(なんだろうこの怪しい人?でもこの人から敵意は感じられないな。悪意は感じるけど。というか相手の意図が分からない。何を考えて私に近づき私に構うのか。)

「寝顔も可愛かったけど困ってる顔を可愛いわ~」

 そう言うと女性はまるで取ってみろとでも言わんばかりに、たわわな胸を押し上げて少女に迫り返してくる。

「~~~~~~~~!」

(近い!でかい!)

「赤くなった顔も良いわぁ~~」

 そう言うと女性はススッと少女の左隣にすり寄ってきた。手にはいつの間にか木製の皿を持っている。中には赤い液体。とても甘い香りがする。どうやら起きてからしていた甘い香りはこれから発せられているらしい。

(なんなんだこの人?)

 少女分からないことを考えているとキュルルルと言う音がお腹からする。

「あらあら、可愛いお腹の音ね。はいこれ食べて」

 有無を言わさぬ勢いで女性が器を押し渡してくる。少女は拒否も出来ず器を受け取る。

「そんなに不安そうな顔をしなさんな。安心して良いよ、毒なんか入ってない。私手作りの木の実のジャムさ。そこに転がってる木の実につけて食べるといい。いい匂いしてるだろ?味はそれ以上さ。」

 訝しんでいた少女の顔を見て女性は言う。半信半疑に木の実を一つ手に取り少しだけつけて一口かじった。


「美味しい......」

 匂い以上の甘さがあり昨日食べた木の実の何倍も美味しい。気づいた時にはその木の実は食べ終わっていた。

「はははっ!良い食べっぷりだね。気に入ってもらえたみたいだ。」

「ええ、とても美味しかったわ。とりあえず礼を言わせて貰うわ。ありがとう。」

 少女は女性の真意は全く掴めないが善意は受け取った。少女自身も警戒心をかなりほぐすことができていた。

「ふふっ、どうやら落ち着けたようだね。ようやく話が出来そうだ。これはもう返していいかな」

 女性は胸の谷間からナイフを取り出し少女に手渡した。ほのかに温もりを感じるそのナイフをポケットに丁寧にしまう。


「それで、もう一回聞くけど貴方は誰?」

 最初に聞いたものの答えの返って来なかった問をもう一度少女は投げかける。

(私に対して危害加える気が無いということはよく分かった。今の所悪い人では無さそうだ)

「あぁ、私としたことがまだ名前を名乗ってなかったね」

 一呼吸置いて女性が続ける。

「私はクリューエル・インス・アリエッタ。

インスの名を継ぐものさ。気軽にアリエッタと呼んでね」

 そう名乗ったアリエッタはいかにも「凄いだろ?」という顔で少女をを見る。

 が、

「聞いたことの無い名前だけど何か凄いの?」

「ふぇっっ!私の事知らないのか!嘘でしょ....」

 言葉を聞くだけで少女はアリエッタと名乗る人が動揺していることが分かる。そんなに衝撃的な事だったのだろうか。

 「嘘だと言われても知らない物は知らないわよ。というかこんな森の奥深く、人なんか来るはずもないところにいる人の事なんて知ってるわけがないでしょう?」

 少女にはっきりと知らないと言われたからか、アリエッタはしょんぼりとうなだれている。少女はなぜか悪いことをしてしまった気分になってしまった。

 アリエッタはブツブツと呟やくように

「私結構頑張ってきたんだけどなぁ」

と気落ちしながら話す。

「アリエッタ、貴方は何をした人なの?」

 もしかしたら名前を覚えていないだけで凄いことをした人なのかも知れない。そう思った少女は尋ねる。

「えぇっと....確か国を3つか4つ滅ぼしたね。場所は覚えてないけど」

「はぁっ?」

 思わず素っ頓狂な声が少女から溢れ出る。もし水でも飲んでいたら全て吹き出していただろう。

(嘘でしょ....)

 にわかには信じられない話。本当の事だったら、人一人が国を滅ぼした話やそのような人物の事を聞いた事がないわけがないはずだ。

「ほんとの事なんだけどなぁ....」

 本日二回目の訝しんだ顔を見てアリエッタはポツリと言う。

「それ一体いつの話?」

 (もしかしたら少し昔の話かも知れないわ。それなら私も知らないのは納得出来るし)

 そう思った少女は更に質問をする。ただし少女が図書館で読んだ記録の中には国が3つも4つも滅んだ記述は無かったはずだ。

「う~んいつだっけ?詳しくは忘れちゃった。100年はたったと思うけど。」

「知ってるわけないでしょっ!」

 思わず殴りかかりそうになる気持ちを少女は何とか抑えつける。

 (まさか100年も前のことだったなんて、知ってるわけがない。私の国は両親が結婚と同時に移って来たところからはじまる。精々50年位が国の歴史だ。それよりも倍の時間も昔の事、記されているとしても内の国にその本はないだろう。

 あれっ?てことはこの人少なくとも100年は生きているって事?全くそうには見えないんだけど。実は思ってた以上にとんでもない人なのかも....)

 そんな少女の心中などつゆ知らず、

「そうかぁ....やっぱり知らないのか....」

 ハァ....と大きく溜息をアリエッタはついて足下の赤い木の実を一つ、ちびちびと食べていた。


「それで、貴方の名前は何て言うの?」

 木の実を食べ終えたアリエッタは思い出したかのように聞いてくる。

「あれ?知らないの?」

「えぇ、知らないわ?貴方と会うのは今日が初めてで名前を聞いた覚えが無いし。それとも、名乗ってたっけ?私、女の子の名前なら忘れない自信あるんだけど」

「いいえ、名乗ってないわ。でも最初に私に対してお姫様って読んだから私の事知ってるもんだと思ってた」

 (どうやらあの時のお姫様はどうやら比喩表現だったようね。となるとアリエッタは私を個人的に姫と見たということなのかしら。それは....一女の子として嬉しいな。)

「その言い方からすると貴方本物のお姫様だったの?」

 アリエッタは心底驚いているようで目は見開き、口はポカーンと開いている。無理も無い、森の中に一人でいる少女がどこかの国の姫だなんて私がその立場ならまず信じれ無いだろう。

「私はドレオ・フロディーテ。ドレオ皇国第一王女....だった者よ。」

 少し語尾を濁しながら名乗る。

「...だった者?それってどういう?」

 (まあ、気になるよね)

 当然の結果アリエッタはその部分を聞いてくる。

「....逃げ出したの、嫌になったから。具体的な事は聞かないで欲しい」

「分かった。貴方が臨むなら聞かない。それより、私は貴方を何て呼べばいい?」

「ありがとう。呼び名は何でも良いわ。アリエッタ、貴方が呼びたいように呼んで」

「あら、そう?なら姫と呼ばせて貰おうかしら。貴方はドレオ皇国からしたら姫ではもう無いかも知れないけど、私からしたら姫だからさ。まあ、嫌でもそう呼ぶけどね!」

(姫....か、何でも良いとは言ったけどまさかそう来るとは.........でも良いか)

 少しばかり考えて答えを出す。

「良いわ。姫で」 

「おっ、本人からの了承も得られた。それじゃ宜しく、姫!」

 そう言ってアリエッタは笑顔で手を差し出す。その手を受け取りフロディーテも笑顔で言う。

「こちらこそ宜しく、アリエッタ」

 二人は堅く握手を交わす。

 



 その直後、フロディーテの体は中を舞った。

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