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009.そんな笑顔に魅せられて。

 生まれ変わって初めての寝覚めは上々。


 私は欠伸をしながら思い切り伸びをして身体を起こす。


 お風呂場で顔を洗って部屋に戻ろうと廊下に出ると同じタイミングでステヴィアさんが自室から顔を出した。


「おはよう、ステヴィアさん」


「おはようございます、アン。昨日、ご注文いただいた衣装が一応仕上がりましたので早速着用していただけますか?」


「うん。それじゃ、すぐに着替えて来るからちょっと待ってて」


 手渡された服を受け取り、私は部屋に戻る。


 この世界に生まれ変わって初めて手にする私の私物である。


 他は基本的にアンジェリカさんのお下がりだしね。


 わくわくしながら折り畳まれていた服を広げてみると、それはデニム生地のオーバーオールだった。


 山道の中を歩くのに向いているのかはともかく、私の注文した条件は満たされていた。


 それがよく出ているのはお尻の部分で、他よりも頑丈になるよう手が施されていて下半身の防備は充分である。


 とりあえず袖を通すことにするけれど下着にオーバーオールだけというわけにもいかないので、クローゼットから比較的に厚手の生地のブラウスを選び出す。


 それだけだと虫刺されなどが気になるので枝葉に引っかかったりしなさそうな生地の丈の長いカーディガンを上から羽織る。


 森の中を歩くのには似つかわしくない格好かも知れないけれど、今ある服の組み合わせでは最善とは言わないまでも比較的マシな方だった。


 部屋に鏡がなかったので窓ガラスに薄っすらと映った自分の姿に及第点を出した私は、ステヴィアさんの待つ廊下に勢い込んで踊り出す。


 その勢いのままに私は廊下の真ん中でくるりと回って着こなしをステヴィアさんに確認して貰う。


「どうかな?」


 私の頭より少し高い位置にあるステヴィアさんの顔を不安げに上目遣いで見上げ、控え目に尋ねる。


 多少あざとい気もしたけれどやっぱりここは褒められたいしね。


「大変よくお似合いですよ」


「そっか、ありがと。この服大切にするね」


「そうしていただけるのは作者冥利に尽きますね」


 いつか別の形で私もステヴィアさんにお返しが出来ればいいけれど、今は差し当たっての問題解決が優先だよね。


「それで今からコウノトリに出発することになるんだよね?」


「少々待っていただけますか。今、外出用の靴を用意しますので」


 そう言い残すとステヴィアさんは自室の向かいの部屋に入って行く。


 少し遅れるようにして後を追った私は、ひょこりと部屋の中を覗き込む。


 するとそこは物置だったようで様々な物品が所狭しと並んでいた。


 そこでふと疑問が浮かぶ。


 部屋のどこにも外へ出るドアが見当たらないのである。


 ここが玄関だとばかり思っていたので首を傾げざるをえなかった。


 もしかして外に続くドアってステヴィアさんの部屋からしか行けないとかなのかな?


 昨夜は入口で対応されたので部屋の中の様子をはっきりとは見れなかったのでその可能性が高そうだ。


 なんてことを考えているとステヴィアさんが、やたらと頑丈そうなゴツい靴を手に私の所に来た。


 見た目的にかなり重そうで長距離をこれで歩くとなると疲れそう。


「この靴なら長時間山道を歩いても疲れにくいと思いますので」


 予想と反する答えを耳にして、私は不思議に思いながら靴を受け取る。


 受け取る際に重いだろうと身構えて力を入れていた私は、予想外の軽さに少しばかり両手を変に上げる形となった。


 手の上に乗せられた靴は羽のように軽く、まるで重さを感じさせない。


 もしかしてと思って靴を鑑定してみると『重量軽減』や『疲労回復』などの効果が付加されていた。


 さすがは魔法のある世界だね。


 前世の世界でこんな物を作れたら大儲け出来そうなんて俗なことを考えてしまった。


 履いてみると靴のサイズはピッタリで、考えるまでもなくアンジェリカさんのお下がりだとわかる。


「うん、いい感じだよ」


 視線を足元に落として爪先でとんとんと床を叩き、変に隙間が出来ないか改めて確認する。


 これなら靴擦れする心配はなさそう。


 視線を上げステヴィアさんの顔を見ると、どこか懐かしそうに目を細めていた。


 その表情に私は疎外感を覚える。


 頭ではわかっていてもやっぱりこういうのはね。


 出逢ってからたった1日の私じゃ、ステヴィアさんがアンジェリカさんと積み重ねてきた年月の差をどうやっても埋め合わせられないのだと思い知らされるよ。


 今は他人の想い出に私が土足で踏み込んでるような状態だし、疎外感を覚えるのも仕方ないね。


 こればっかりは時間が必要だろうし、即解決っていうのは難しいから長い目で見据えて行かなきゃかな。


「それでステヴィアさん、外にはどこから出るんですか? 私はてっきりこの部屋が外に繋がってるんだとばかり思ってたんですけど」


「それなんですが、侵入者対策で玄関などは設けていないんです」


 玄関がない?


 言っていることはわかるんだけど、言っている意味がよくわからなかった。


 頭一杯に疑問符を浮かべる私を見てステヴィアさんは、くすりと笑う。


 私に向けられた笑みにさっきまで感じていた疎外感が薄れる。


「これから準備しますので、とりあえずこちらへ」


 案内された先はダイニングとトイレがある方の廊下の突き当たりだった。


 私が気付かなかっただけで隠し扉とかあったのかな?


 などと考えている私の目の前でステヴィアさんは壁面に手を触れさせた。


 すると壁面は逃げるように遠く離れて行く。


 かと思うと新たに現れた通路が音もなく変形し、下へ下へと続く階段が物凄い速度で造られていった。


「さ、出発しましょうか」


 そんな言葉とともにいたずらっぽい笑みを見せられた私は思わず胸が高鳴った。


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