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008.強がりますよ、今だけは。

「今、勢いで行くって言っちゃったんだけど。そのコウノトリがある場所って遠いのかな?」


「それなりに距離はありますが、ここからなら早朝に出発すれば夕刻には到着しますよ。ただ施設は渓谷の奥深くにありますので崖下に降りなければなりませんし、ここ数年は全く人の手が入っておらず街道は荒れ放題になってるでしょうから道のりは険しいものになっているかもしれませんが」


 アンジェリカさんが周辺の住民を根絶やしにしちゃった弊害はそういうところにも出ちゃってるのね。


「加えて今では交配装置コウノトリ付近は魔物の巣窟と化しているやもしれません。私が全力を尽くして御守りするつもりですが、万全とは言えませんので多少の覚悟はしておいてください」


「大丈夫だよ。だってアンジェリカさんの才能タレントで死ぬことはないんでしょう?」


「確かにアンが死ぬことはありませんが、痛みを感じないわけではありません。肉体に外傷はなくとも魂は痛みを感じるのだと思ってください」


 それって死ぬような傷を負ったら、その痛みをずっと引きずることになりそう。


 私が犬に噛まれたお尻も傷が治ってもずっとチクチクしてて変な感じだったんだよね。


 あれとは比べ物にはならないんだろうけどさ。


「うん、わかった。それでなんだけど獣道を抜けるようなことにもなるだろうし、新しい服を用意して欲しいんだけど。今着てるひらひらしてるようなのじゃなくて、犬に噛まれても破けないくらいには厚手で頑丈な生地でスカートは避けて欲しいんだ」


「犬、ですか」


「えーっとね。私さ、犬にお尻を噛まれたのが原因で死んじゃったんだよね。だからそういったものを用意して貰えると安心出来るかなって」


 私の死因を耳にしたステヴィアさんは、何とも言えない顔をしていた。


「わかりました。ですが、そういった衣類の作製経験が御座いませんので少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか。今から作業に取り掛かれば翌朝までには何とか用意しますので」


 つくったことないものは魔法でも造るの難しいのかな。


 さっき柏手ひとつで造った椅子とかは、私が座ってたのと同じ椅子だったしね。


「じゃあ、私は食事の残りを片しとくよ。全部が全部ステヴィアさんに頼りっきりじゃ申し訳ないしね。あとお風呂とトイレの場所教えて」


 若干の迷いを見せたステヴィアさんだったけれど、私の申し出を快く受け取ってくれた。


「では、お願いしますね。それとお風呂はアンの部屋の向かいで、お手洗いはこの部屋の正面になります。お風呂は常にお湯が湧いていますのでお好きな時間にお入りください」


 源泉掛け流しってやつ?


 近くに火山でもあったりするのかな。


 それとも魔法で水を温めてたりとかかな。


 そういえば2代目のアンジェリカさんって火属性だったらしいし、なんかそういう道具とか開発してそう。


「それならここ片付けたらお風呂入ることにするよ。明日早いだろうしね」


「何かわからないことがありましたらアンの部屋の隣が私の部屋となりますので、そちらに」


「うん」


「それでは私は縫製作業に入らせていただきますね」


 ステヴィアさんがダイニングを後にした私は冷めたスープを具だけ残して飲み干し、残したものは不本意だけれどキッチンの隅に置いてあったゴミ箱に廃棄した。


 使用済みの器は水の張られた桶の中で洗って片付けた。


 大体のことは見ればどうにか出来そうな感じだったので生活に不自由するといったことはなさそう。


 お風呂も前世と大して変わるものでもなかったので早々と済ませた私は、部屋のクローゼットで見繕った寝間着に着替えてからステヴィアさんの部屋のドアをノックした。


 作業中に邪魔かなと思わなくもなかったけれど、寝る前の挨拶くらいはしておきたかった。


 というのは建前で本当のところはステヴィアさんが居なくなっていないか少し不安だった。


 いきなり見知らぬ土地に放り込まれて唯一言葉を交わせるのがステヴィアさんだけなのだから私としては結構寂しかったりするのだ。


 やがてドアが開き、ステヴィアさんが顔を見せたので安堵で胸をなで下ろす。


「どうされました?」


「寝る前にさ、ステヴィアさんの顔見ときたくて。その、ちゃんと部屋にいるかなって」


 ステヴィアさんは相好を崩し、私と目線を合わせるように屈む。


「眠れるまで側に居ましょうか?」


「大丈夫、大丈夫だよそういうのは。子供じゃないんだからさ。寝る前の挨拶くらいはしときたかったんだ。ただそれだけ、ホントそういうことなんだからね。それじゃ、おやすみなさい。夜通し作業するなんて無理はしないでね」


「ご心配ありがとうございます、作業も終盤ですのでまもなく終わりますよ。それではおやすみなさい、アン」


「うん」


 部屋に戻ると急に恥ずかしくなってきた。


 何というか、かなり子供っぽいことしちゃった気がする。


 あれじゃ、寂しいですって言ってるようなものだよね。


 熱くなる頰を押さえ、ベッドの上に転がる。


 恥ずかしさで火照る身体はお風呂上がりで充分に温まっていたこともあり、ほんわかとした眠気に包み込まれる。


 なんだか身体がぽかぽかとしていて今なら安心して眠れそうだ。


 なんて思っている内に私は深い眠りに落ちていた。

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