007.ハッピーエンドを目指します。
これはもうどうしたらいいんだろうね?
私としては運命を悲観して、新たな人生で悲劇を演じる気はさらさらないんだけどさ。
やっぱりさ、不幸にも死んじゃって生まれ変わった先でも報われないっていうのはちょっとね。
私はさ、死ぬときは笑って死にたいんだよね。
だから私が関わった以上は意地でも悲劇を喜劇にしてやるんだからね。
憂いを帯びたステヴィアさんの哀しげな表情も素敵だとは思うよ、でもね最初に顔を合わせたときにみせてくれたささやかな笑みの方が魅力的だったからね。
だから取繕われた笑顔じゃなくて本当に意味で心から満面の笑みを浮かべて欲しいって思うし、見てみたいじゃん。
なので私はステヴィアさんの目的の手助けをしようと思うんだよね。
正直出会ったばっかりだし、ひととなりも全然わかってないんだろうけど私の直感と第一印象は最高点叩き出してるからね。
そうやって気持ちばっかり先走ってて助ける方法なんてわかんないし、この世界のこと何にも知らないけど、私がアンジェリカさんの身体を間借りしてる今だからこそ出来ることってあるだろうしさ。
ただ不安要素でもあるんだよね、私がアンジェリカさんの身体の中に居るってことがさ。
だってさ、こういうパターンって漫画とかだと数年後に本物のアンジェリカさんが目覚めて私と身体の主導権の取り合いとかになったりするじゃん。
そこがね、どうなのかなってとこなんだよね。
「ステヴィアさん、もしもの話なんですけど。アンジェリカさんっていつもは4年から5年の間隔で目覚めてたんですよね。それで今回は1年足らずで私が代わりに目覚めちゃったわけじゃないですか。それでなんですけど3・4年後に私と成り代るようにしてアンジェリカさんがこの身体で目覚めるってことあり得ますか?」
「ないとは言い切れないですね。複数の魂がひとつの身体に競合したといった事例は少なからずあったとかと思います。そういった方は属性を複数宿していたとのことでしたが」
「一応あるんですね、そういったこと。でも魂なんてどこから来るんですかね? 私は別の世界から来ちゃったみたいな所がありますけど」
「人々の魂は月の世界で夢を見ているといわれていますね。その中には当然死者の魂も含まれているとか。ですから魂はこの世界と月とを交互に巡っていると昔から考えられています」
その考え方だと本当にアンジェリカさんの魂がこの身体で蘇ってても不思議じゃないかも。
性格は違ってたみたいだけどさ。
でも魔法のあるような世界だし、生まれ変わりとか普通にありそうだよね。
そういえば魔法に関係することだけど魂を複数宿してた人が属性が複数あったってことは、魂によって属性が違ったってことだよね。
過去のアンジェリカさんたちの属性もそれぞれ違うのかな?
「ステヴィアさん、さっきの複数の魂を宿してた人が属性も複数持ってたって言ってましたけど、アンジェリカさんたちの属性ってみんなバラバラだったんですか?」
「アンジェリカ様の属性ですか。順番に無・火・風・無でしたね」
同じ属性が一度も連続してないし、普通に当人が数年を経て蘇ったんじゃなくて別人の魂が宿ってるのは間違いないのかな。
「まだ聞いてなかったですけど、そもそも属性っていくつあるんですか」
「無・火・風・水・土・金・木の7つですね。この辺りの土地は土属性の方が多く住んでいらっしゃいましたので、私もアンジェリカ様もここでは割と珍しい属性持ちでしたね」
急に身体の中から魂が現れるのも不自然だからやっぱり話の通りに月から来てるのかな?
神罰の伝承もホントっぽかったし、本当にそのうち月からこの身体にアンジェリカさんの魂が飛んで来て入り込んで来ても不思議じゃないかも。
何を目印に飛んで来てるんだろ。
やっぱりアンジェリカさんの身体なのかな。
それならもうひとつアンジェリカさんの身体を用意したらそっちに次に入り込む予定の魂が入ったりしそう。
SFっぽい画面を空中に出す技術とか魔法とかあるし、クローン造ったりする方法とか普通にありそうだよね、この世界。
「ステヴィアさん、質問です」
「なんでしょう」
「アンジェリカさんと全く同じ姿をした身体をもうひとつ用意したらこの身体に宿るはずだった魂が空っぽの身体の方に引き寄せられたりとかしないですかね。今この身体って私が使ってるから満員みたいなものですし、空いてる身体があるならそっちに流れていきそうな気がするんですけど」
ステヴィアさんは口元に手を当ててしばし黙考し、軽く首を捻ってからちいさく一度頷いて私に視線を戻した。
「おそらくアンの想像通りの結果になると思います。これまで自身の複製体に魂が宿ったという事例は報告されてはいませんが、それは宿るべき魂が生存状態にあるからではないかと前々から言われているのです。しかしアンとアンジェリカ様の場合は、肉体に宿ることの出来る魂が現時点で複数存在していることが証明されています。宿るべき肉体が複数存在しているのなら魂が空の器に流れてもなんの不思議もありません」
話ぶりからしてクローン造るのは無理じゃなさそう。
「その複製体を造るのってすぐに用意出来るものなんですか。ステヴィアさんが魔法で椅子を新しく造ったみたいに」
「魔法では無理ですね。古代文明の遺跡にある交配装置と呼ばれている施設を利用する必要があります。本来はふたりで使用して子を授かるものなのですが、単独で使用すれば複製体を造ることが可能だったはずです」
「それならこの身体が妙な方に乗っ取られる可能性を少しでも下げるためコウノトリに行きましょう」
そう提案するとステヴィアさんは、わずかながらも状況解決の糸口が垣間見えたのか、どことなく表情が明るくなったように見えた。