006.これってラスボスなんじゃないですか?
えーっと、これって冤罪みたいなものだよね。
しょっぱい死に方して生まれ変わった直後に神様に冤罪かけられるってどうなのさ。
でもこの身体が悪いことしたから冤罪ってわけでもないのかな?
とはいっても私の責任じゃないし困るよ。
なんか身体乗っ取っちゃって申し訳なく思ってたけど、これはもう負い目とか感じる必要ないよね。
あ、でも止むに止まれず罪を犯してしまった可能性もなくもないから決め付けるには早いかな。
私と違って先代のアンジェリカさんは、この世界の知識とかあったはずだし、なにより生まれ変わるのはこの身体なんだから下手に罪を犯したら困ったことになるのは自分自身だったわけだしさ。
それにステヴィアさんがとても大切にしている人だし、何より彼女がアンジェリカさんに対して後ろめたさのようなものを抱いている気がしてならないしさ。
だとしたら何か事情があったのかも。
「ステヴィアさん、アンジェリカさんって罪を犯したら才能にデメリットが付くってことは知ってたんですか? 成り行きで私が身代わりみたいなことになっちゃってますけど、本当ならアンジェリカさんが神様の罰を受けることになってたわけですよね」
「もちろん知ってらっしゃいましたよ。ただ迷信に近い内容ですから確証のある情報ではありませんでしたね。ですが才能のデメリットは神罰として昔から世間一般では広く流布されている共通認識ではありましたが」
なんていうか迷信が事実じゃなかったとしても才能にデメリットがあることが知られただけで差別とかされそうだなぁ。
下手したらご近所の人達から常に監視とかされてまともに生活も送れなくなりそう。
そんな可能性があるってわかってるのにわざわざ罪を犯すようなことしないよね。
「もしかしてアンジェリカさんが悪いことしなきゃいけなくなった事情があったんですか?」
何か深い事情があったのなら仕方ないと思うことにして、私はそれを受け入れるためにステヴィアさんに理由を尋ねる。
するとやはり言い難いことなのか、表情の変化が乏しいステヴィアさんがわかりやすいくらいに眉根に皺を寄せて口元を歪めた。
「アンには申し訳ないのですが」
そう前置きされ、他人に聞かせられるような内容ではないのだと察した。
「言い難いのでしたら別に──」
「いえ、問題ありません。アンにも知る権利はありますから」
個人的な事情を詮索する発言を取り下げようとした私の発言をステヴィアさんは神妙な顔つきで遮った。
「率直に申し上げますと先代アンジェリカ様は故意に罪を犯されました。理由は単純でして神罰の迷信が真実であるか否かの検証ですね」
「何でまたそんなことを」
「それは先代アンジェリカ様が開花された才能が鑑定だったことからもわかると思いますが、探究心の旺盛な方だったんです。加えて通常なら才能は特殊な生まれをした者でもふたつまでしか開花することがないのですが、アンジェリカ様の場合は不老の才能によって肉体が朽ちることなく、死した魂が再び返り咲く器が現世から失われることなく存在し続けでいたことも神罰の検証を可能とする一因となっていたのです」
「出来るからやったってことですか」
「そういうことになりますね」
どうも先代さんは困ったことにマッドなタイプだったみたいだね。
「具体的に何をやったのかわかんないですけど、よく殺されませんでしたね。不老の才能って、歳をとらないだけで死なないわけじゃないですよね。現に何度も死んでますし」
「えぇ、2代目のアンジェリカ様が同じことをなさっていたら殺されていても不思議ではありませんでしたね。ですが3代目のアンジェリカ様が開花なさった霧化によって事実上殺されることは不可能となったのです。先代のアンジェリカ様は鑑定でその事実を知ったからこそ凶行に及んだのだと思われます」
寿命が来るまで死ぬことも殺されることもなくなったからデメリットのある才能を開花しても問題ないって考えちゃったのか。
「それに誰かに殺される以前に先代アンジェリカ様は危険因子を徹底排除するために目撃も含めて根絶やしにしておられましたので」
目的のために大量殺戮しちゃってるの……この身体。
これじゃ吸血なんて才能開花させて吸血鬼になっても不思議じゃないよ。
というかなんでステヴィアさんはそんな危険人物に仕えてるの?
話してる感じからして嫌悪感を抱いてるみたいだし、この身体を死後も保護してる理由なんてないよね。
「ステヴィアさんの話を聞いてると、この身体を大事にする理由なんてないみたいなんですけど」
思ったことを率直に告げるとステヴィアさんは苦笑いを浮かべた。
「確かにそうですね。私が大切にしたかったのは一番最初のアンジェリカ様の身体でしたからね。彼女の死後、不老の才能の影響で全く朽ちることない身体を目にしていたら、いつかまた目を覚ましてくれるかもしれないと埋葬することもなく一緒に過ごしてしましたしね」
そこで一呼吸置き、ステヴィアさんは再び話を続けた。
「それがよくなかったんでしょうね。アンジェリカ様の命日から5年余り経った頃、お目覚めになられたのです。もちろん私は喜びました、再び彼女と健やかな日々を過ごせるのだと。記憶こそ失われていらっしゃいましたが、蘇ってくださっただけでも幸福でした。それが私を盲目にしてしまっていたのでしょうね」
深いため息を漏らし、ステヴィアさんは伏し目がちになり自嘲する。
「2代目のアンジェリカ様が亡くなられても同様に遺体を見守り、やがて3代目のアンジェリカ様を迎えていました。本当のアンジェリカ様ではないとわかっていながら私は現実から目を背けていたのです。そして先代のアンジェリカ様と邂逅し、私が慕っていたアンジェリカ様とは別人なのだと思い知らされたというわけです」
「そんなに後悔してるのならなんでアンジェリカさんの遺体をそのままにしてたんですか」
「もう、どうすることも出来ないからですね。才能は死後も肉体が朽ちぬ限り残り続けますので」
死んでても殺せないってことなのね。
だとしたらステヴィアさんが今もアンジェリカさんの身体を保護してるのは、次に宿る人物にアンジェリカさんの身体を好き勝手させないよう監視するためなのかな。
才能を削除でも出来ればいいんだろうけど、もし私の次が先代のアンジェリカさんと同じような人になったら吸血を使って実質不老不死になるわけだし、完全に手を付けられなくなりそう。
完全にRPGのラスボスだよね、これって。