表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/50

049.貴女の望みはなんですか?

「それって何代目のアンジェリカさんなんですか」


 何で知っていたことを伏せていたのかは問わない。


 今まで黙っていた理由を追求しても意味なんてないし、必要ならいつかステヴィアさんの方から話してくれるだろうしね。


「初代の。本来のアンジェリカ様ですよ」


「あんたはこの辺りを竜を使って隔離した事情はそついから聞いてんか?」


「世界樹を焼き払うだけの能力ちからを手にした魂を選定するためですね。あの竜を討ち滅ぼせる程度の能力ちからさえないのであれば、隔離されたこの地で肉体を保護しながら次の魂が宿るのを繰り返し待つだけのことですから」


「あんたはそのお目付役だって訳か。最終的な目的はあたしと同じみてぇだから手を貸すのはやぶさかじゃねぇが、あんたは元々そんな気はねぇみてぇだな」


 クミンさんはステヴィアさんの立ち回りに対して不信感が募っていたからか、遠慮なんて微塵もなく追求する。


「私の役目はあくまでもアンジェリカ様の身体をお守りすることでしたから」


「今回そうしねぇのは何故だ。危険だってわかりきってる場所にそいつを連れて来た理由はなんだ。事前に竜に関する情報を伝えることもしてねぇみたいだしよ」


「……」


 それまで即座に言葉を返していたステヴィアさんは口籠る。


「黙るなんざあんたらしくねぇな。いつもみたく都合のいい理由を並べたてりゃいいだろうによ。正直、あんた相手にはあたしの『直感』はまともに機能してねぇみてぇだから誤魔化されたところでわかんねぇからな」


 その険悪な空気に耐えかねて私は、両手を打ち鳴らす。


 前触れもなく鳴らした大きな音でふたりの視線を引き寄せ、重たい雰囲気を雑に散らしてから口を挟む。


「対話は必要だとは思いますけど、そういった議論は後回しです。今は竜をどうにかする手段を考えましょう」


「あぁ、そうだな。話を戻すか。竜が魔法だってははっきりした。だがどうやって死後も魔法が維持されてるんだ。魔法を行使した人物は、肉体こそ残っちゃいるが、とうの昔に死んじまってんだろ」


「大地に魔法の所有権を移譲されたのですよ。あの竜を維持しているのは、広大な大地そのものなんです。この土地で生きている生物は意識することなく、総じて大地に魔力を供給させられています。ですから全ての生物が死滅しでもしない限り、あの竜が自然消滅することはありません」


 1ヶ月歩き続けた土地全てを消し去るなんて到底無理だし、そもそも自分自身も竜を維持する電池代わりにされてたんじゃどうにもならないんじゃ。


 死体が消えちゃってたのもそれが理由っぽそうだしさ。


 もしかして先代のアンジェリカさんは人間を根絶やしにすることで竜への魔力供給源を断とうとしたのかも。


 だとすると先代のアンジェリカさんご神罰の検証をしようとしてたっていうのはステヴィアさんの作り話って可能性も出て来ちゃうよね。


 この世界での私の情報源ってステヴィアさんとクミンさんのふたりだけだから嘘付かれてたとしても事実確認しようがない。


 あとは生まれ変わってから過ごして来た1ヶ月の経験だけ。


 そもそもこの土地から離れることをステヴィアさんは望んでいるのかもわからない。


 わからないけれど、立ち止まったままではいられない。


「ステヴィアさん。ステヴィアさんはここから離れることを望んでますか?」


 私の問いに関してステヴィアさんは、何度か口を開いては閉じるのを繰り返した。


 そんなステヴィアさんの元に近付き、私は彼女の両手を包み込むように握る。


「それとも帰りますか? あの場所へ」


 少し高い位置にあるステヴィアさんの顔を真っ直ぐに見据え、新たに言葉を投げかけた。


 こんなことをしても本当の意味では説得されてくれるとは思っていない。


 ただステヴィアさんがクミンさんの『直感』を誤魔化せていたのは、彼女が持つ技能スキルの『自己催眠』が作用しているような気がしていたので、何とかなるような気もする。


 ステヴィアさんは言葉を口にすると同時に、それが嘘であったとしても『自己催眠』で真実だと思い込んでいるような節があった。


 だから私からお願いすれば『自己催眠』でステヴィアさん自身は、私が望むように技能スキルで思い込んでくれるんじゃないかと思っての行動だった。


 この身体がステヴィアさんにとって最も大きな存在であるアンジェリカさんだからこそ可能だと思った。


 ズルイとは思う。


 でもステヴィアさん自身は現状を打破したいと思っているような気がしてならなかったので、無理矢理にでも先に進ませた方が立ち止まったままでいるよりもハッピーエンドに近付けるとはずだと私は判断した。




 長い沈黙の末にステヴィアさんは意を決したように私の目を見つめ返し、力強く告げる。


「行きましょう。あの向こう側へ。いずれ竜とは決着を付けなければなりませんし、おそらくそれが今なのだと思います」


 この言葉がステヴィアさん自身の決断によるものか、それとも『自己催眠』によって私の都合がいいように思い込んだ結果なのかは私には知りようがないけれど、一歩でも先に進んだことだけは確かだった。

続きが気になる更新がんばれってなったらブクマとか評価してみてね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ