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046.次は足手まといになりたくないから。

 探査蝙蝠を使ってステヴィアさんを私のいる場所まで誘導し、どうにか再開を果たした。


「よかったです、無事で」


「そちらも何事もなかったようで安心しました。おふたりの足跡を追っていたのですが、途中で途切れていましたので何かあったのではないかと気がかりでしたので」


 地面が泥濘んでいたから足跡がはっきりと残っていたのが幸いしたらしい。


 あの暗がりの中で痕跡を追って付近までステヴィアさんが来ていたからこそ私は偶然にも探査蝙蝠で彼女を見つけられた。


 それはいいのだけれど、ひとつ気になることがあった。


「ステヴィアさん、もしかして夜通しで」


 そう尋ねた直後に見せた表情から概ね察せられた。


 私もひとり置いていかれた状況だったら徹夜してでも合流しようと足掻いた気がするし、そもそも眠れないだろうから当然の行動かもしれない。


「昨日だけは無理をしてでも夜明けまでは探そうと決めていましたので。それが実を結ばなかった場合は、河沿いを強引に進んでおふたりを先回りしてお待ちするつもりでした」


「そういえばクミンさんも河沿いで落ち合うことになるだろうって言ってました」


「闇雲に真夜中の森を探すのは愚策でしょうしね」


「あたしはあんたがそんな愚策を選ぶとは思わなかったがね」


 私達の会話に割り込むようにして簡易建物から顔を出したクミンさんが開口一番にステヴィアさんへと言葉を投げかけた。


「確かに以前の私でしたらそうしていたでしょうけれどね」


「以前、ならね」


 クミンさんはどことなく含みのある言い方をしながら大きく欠伸をしていた。


「んで、どうするよ。あんた全然寝てねぇみてぇだし、今日の出発は午後からにするか?」


「お構いなく」


 私はステヴィアさんの発言に黙っていられず声を上げる。


「危険な魔物とやりあって夜通し動き回ってたんですよ。絶対に休んでください。あとで昨日の無理が祟ったらどうするんですか」


「だとよ」


 私の発言に便乗するようにクミンさんはステヴィアさんに本日の午前中の方針に関して再度意見を求める。


 しばしの沈黙の後、ステヴィアさんはこちらの意向に押し切られる形で「わかりました」と休息を取ることを了承してくれた。


「んじゃ、あたしは今のうちに食料の確保でもしときますかね。日が昇り切ったら起こすからよ、それまでは休んでな。無理させちまったのはあたしにも責任があるしな」


「あの状況では、あれが最善手でしたのでお気になさらず」


「あんたがそういうんならそうさせて貰うわ。きっちり休んでくれよ、そんじゃな」


 それだけ言い残すとクミンさんは一切の躊躇もせずに森の中へと入って行った。


 河辺と違って周りはどこもかしこも似た景色ばかりで方角とかわかんなくなっちゃいそうだけど『直感』があれば問題なく戻って来れるのかな?


 何というか『直感』便利過ぎじゃないかな。


 単独でならどこまでもあの調子で進んでいっちゃいそうだし、よく私達の同行を認めてくれたものだよね。


 完全にクミンさんの姿が見えなくなり、ステヴィアさんは昨晩私が夜を明かした簡易建物の隣に寝床を確保する。


「そうだステヴィアさん、おやすみの前にひとつだけお願いいいですか?」


「何でしょうか」


「お願いっていうのは、昨日の夜にロディが食べちゃったところを直して欲しいんです」


「わかりました」


 即答したステヴィアさんはクミンさんが使用している簡易建物に手を触れると『錬成』で即座に修復をしてくれた。


「ありがとうございます」


「いえ、ロディオラの食事を用意するのは私の役目でもありますからね」


 こういうところなんかを考えるとステヴィアさんの方がよっぽど私よりロディの家族みたいだよね。


「直したのにまた食べられちゃったら困るので、あとは私の方でロディをそっちに連れて来ますのでステヴィアさんは休んでてください」


「えぇ、では、おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 ステヴィアさんが簡易建物に入ったので、私はロディと卵を回収して少し間を空けてから彼女が休む場所へと音を立てぬように静かに入る。


 定位置に卵を下ろし、私は横になっているステヴィアさんを起こさないように忍び足で外へと出た。


 待ってる間どうしてようかと考えたけれど魔法の練習をしてるくらいしかやることのなかった私は、昨日と同じ状況になったときに少しは役に立てるように幻影で私達の身代わりとなる分身をつくるなどしていたけれどどうにもしっくりと来ない。


 分身を用意しても結局それを操っている私は無防備なことには変わりなく、逃げるだけの時間を稼げるとは到底思えなかったのである。


 だったら他にやれることって何だろうかと考えた末にひとつのアイデアが浮かんだ。


 思い付きを早速試すべく私は自分の身体がすっぽりと収まる不透明な立法体の幻影で囲う。


 次に探査蝙蝠でやってるのと同じ要領で全身を覆っている立法体で周辺の撮影し、撮った映像は直接立法体に投影する。


 投影する際には撮影した面と投影した面は反面の物を選択した。


 これで目論見通りにいったのなら私の姿は外からは見えなくなってるはず。


 探査蝙蝠を飛ばし、外から私のいる位置を撮影させて手元に画面を投影させようとして周囲が真っ暗で何も見えず確かめようがなくて困ってしまった。


 私自身は『反響定位』があり、視覚に頼る必要がないので真っ暗な箱に閉じ込められてるような今の状態になってても何不自由なく行動可能で身を潜めて動くことも難しくない。


 本当なら画面になってる立法体をマジックミラーみたいなものでつくれればいいんだろうけれど、今の私では無理なのでとりあえずはこれでよしとする。


 成功してるのかどうかをどうやって確認しようかと悩んでいたけれど、よくよく考えたら私自身が立法体の中から出ればよいのだと気付いて魔法を維持したまま外へ。


 真っ暗闇から朝の陽射しの降り注ぐ場所へ出て眩しさに目を細め、手で庇をつくって光を遮る。


 目が明るさに慣れたところで背後を振り返り、魔法の立法体がある場所に特に何も見受けられずに成功してるのか首を傾げてしまう。


 何も見えないってことは成功してるのかな?


 私は手を伸ばし、立法体の中へと腕を差し入れる。


 すると腕は宙空で途切れてしまう。


 反対側からはどう見えてるんだろう?


 これだと私の腕が途切れた状態で映されてそうだよね。


 改善しようと思ったら画面を立法体じゃなくて私自身の身体の表面に映像を投影するとかしなきゃかな。


 形が複雑になっちゃうからかなり制御が難しくなっちゃうかもしれないけど、不可能ではないよね。


 全身を覆っちゃうと確かめられないので、私は自分の左腕だけを魔法で覆って立法体にしたのと同様の手法で映像を投影させる。


 結果、左腕は途中から辺りの景色と同化するように消えていた。


 直後、脳内で通知が鳴り、メッセージが届く。


『【魔法】『光学迷彩』を習得しました』


 そのメッセージを受け取ったとこで私は求めていた内容の魔法が完成したのだと理解した。

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