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043.何でそんなことを?

 クミンさんが全員に『宿火』を施す。


 何をしたんだろうかと鑑定してみると私の身体能力が向上されているのがわかった。


 直後に「んあ?」とクミンさんが間の抜けた声を上げた。


 それに対してステヴィアさんが何に対して声を上げたのか察したらしく、即座に反応を返す。


「私には属性耐性がありますので支援系の魔法であっても効果を受けることはありませんのでお気になさらず」


 以前、ステヴィアさんのステータスを確認したときにそんな技能スキルがあったことを思い出す。


「そういうことかい」


「貴女はアンを連れて先に行ってください。雷獣の対処は私ひとりで受け持ちますので」


「悪りぃな」


 そこで会話は打ち切られ、ステヴィアさんの両手に長さ40㎝くらいの針が複数出現する。


 針はこれまでステヴィアさんが使用していた大きな縫針ではなく、針の頭の部分に金平糖みたいな飾りの付いたまち針のようで、腕輪と針の間に糸は繋がっていなかった。


 ステヴィアさんが雷獣へとまち針を投擲するのと同時に私はクミンさんに腕を引かれ、走り出すことになっていた。


 急な状況の変化について行けず、集中力の欠けた私は探査蝙蝠とともに映像を表示させていた画面も消失させてしまう。


 腕を引かれながらの最初の数歩は足を縺れさせるようにして転びかけたけれど、どうにか体勢を立て直す。


 背後で雷獣が威嚇するように放った雷鳴と似た吼え声が、お腹の底にまで響き渡って来る。


 ちらりとひとり立ち止まったまま雷獣と相対するステヴィアさんに目を向け、足を止めてしまいそうになる。


 けれど邪魔にしかならないとわかりきっていたので、視線をステヴィアさんから外してクミンさんとともに深く暗い森の中の奥へと逃れるべく全力で足を動かし駆け込んだ。




 一体どれくらい走り続けたんだろう?


 『疲労回復』の効果とクミンさんが私自身に施した身体能力の向上によって息が上がる様子もなく、私は地面の泥濘みにたびたび足を取られながらも全速力で走り続けていた。


 遠くから雷鳴が響き渡って来る。


 まだステヴィアさんは雷獣を相手に立ち回っているのかもしれない。


「悪いが雨が止むまでは足を止めてくれるなよ」


「はい」


 それからは前を走るクミンさんの背中を見失わないように無言でひたすらに足を動かし続けた。


 そこからさらに数時間、日が暮れてしまったんじゃないかと思えるくらいに景色が黒ずむ。


 さすがにこのまま走り続けるのは危険なんじゃないかと思ったけれど、クミンさんが足を止める様子はなく、雨脚も強まるばかりだった。




 既に日付が変わってしまったんじゃないかってくらいに時間が経ち、ようやく雨脚は弱まったけれど雨が止む気配はない。


 もう遠くから雷鳴が聞こえて来る様子はない。


 きっとステヴィアさんが対処してくれたんだと思う。


 だったらもう走り続ける必要はないんじゃないだろうか。


 このままだとステヴィアさんとの距離が離れるばかりで合流が困難になってしまうような気がしてならない。


 そんなことを考えていると目の前を走っていたクミンさんが、泥濘む地面を強く踏みしめて立ち止まった。


 何の前触れもなしに止まるものだから私は慌ててブレーキをかけたけれど、泥濘む地面をずるずると滑って樹にぶつかった。


 ぶつかった樹が滴らせていた雨水が一気に落ち、静まると木の葉を打つ雨音がしなくなっていることに気付く。


「やっとだな」


「雨止んだみたいですね」


「あぁ、最悪夜通し走り続けることになるかと思ったが、さすがにそこまでではなかったな」


「それはいくらなんでも無茶が過ぎますよ」


「そうでもしなきゃ撒けねぇって『直感』が訴えかけてやがったからな」


「雷獣ってそんなにしつこい魔物なんですか」


「一度標的にされちまったらアレが身体に蓄えてる雷を全部放出させちまうか、雨が止むまでは逃しちゃくんねぇな。あたしらはやっこさんと違って属性の相性が悪過ぎて対処のしようがねぇから逃げるしかねぇしな」


「それで雨が止むまでは走り続けることに」


「まぁ、昨日夜通し森を進んでりゃ遭遇することはなかったんだけどな」


「えっ?」


「言っただろ。そうでもしなきゃ撒けねぇってよ」


 クミンさんの口振りからすると彼女が撒こうとしてたのが雷獣じゃなくてステヴィアさんってことになりそうなんだけど、そんなことをする理由が全くわからない。


「ステヴィアさんを撒きたかったってことでいいんですか、その発言って」


「あぁ、そういうこったな」


「何だってそんな」


「その辺の話は歩きながらでいいだろ。今日の寝床に使えそうな場所探さなきゃなんねぇしよ」


「それはそうですけど、このまま先に進み続けたらステヴィアさんと合流するのが余計に難しくなっちゃうんじゃ」


 私がそう告げるとクミンさんは「平気、平気」と手をひらひらとさせ「とりあえず付いて来な」と手招いた。


 ひとり真夜中の森に取り残されでもしたら私ではどうしようもないので仕方なくクミンさんの後に続く。


「わざと逸れさせた私が言うのもなんだが。数日間は河辺を進まないって昨日話しといたし、森の中で再会すんのは無理でもそのうち河辺で合流することになるんじゃねぇかな」


 意図的にステヴィアさんを撒いたらしいけれど、どうやら合流する気はあるのだとわかって少なからず私は安堵した。


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