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040.記念撮影です。

 戻って来たばかりのステヴィアさんに動画保存板を出してもらって、クミンさんに日中私達が何をやっていたのかを説明する。


「風使いって身近に居なかったからかも知れねぇが、こういう使い方は初めて見るな」


「クミンさんの生まれ故郷には写真はあるんですよね? あれはどうやって撮ってるんです」


「お前さんが持ってた写真はありゃたぶん、無属性のやつが造った魔導具か何か使ったんじゃねぇかな。あたしの世代にゃ、無属性はいねぇからわかんねぇけどな」


 クミンさんの言っていることが本当なら私の【道具箱アイテムボックス】に入ってた写真はアンジェリカさんが造った魔導具で撮ったってことでいいのかな?


 それならそのとき使った魔導具が【道具箱アイテムボックス】に入ってても良さそうなのにさ。


「にしても風属性の付与魔法でこんなもんが造れんならもうちょい面白いことやれそうだな」


「面白いこと?」


「あぁ、こいつぁ要するに幻影を封じ込めてるようなもんなんだろ。お前さんは自分の姿を幻影で造ってたが、そいつを瓶詰めした空気に投影してやりゃどうなるよ」


 なんだろ瓶詰人形ボトルドールって言ったらいいのかな。


「珍しいお土産くらいにはなりそうですけど」


「だろ。だったらよ写真よりすげぇもん残せそうじゃねぇか。それなりに高度な魔法の技量が必須だが、記念撮影した姿を全方位から眺められるもんを瓶詰めで残せるんだしよ」


 クミンさんは想い出を残すって行為に対して深い思い入れがあるのか、やたらと楽しげに話す。


「それなら試しに私達で撮影してみますか?」


「そいつぁいいね。だがよ、そっちの……」


 歯切れ悪く言ったクミンさんの視線はステヴィアさんに注がれている。


「私も問題ありませんよ」


 ステヴィアさんは表情なく同意を示すと右手に固く栓のされた透明な瓶を【道具箱アイテムボックス】から呼び出して私に差し出して来た。


 私はそれを受け取って早速撮影することにしたけれど、日中と違って今度は3Dで投影しなければならないのでどうしたものかと、しばし考える。


 私自身の身体を幻影で投影したときは、感覚的に姿を型取れていたけれど、他人の身体となると中々に難しい。


「とりあえず焚き火を囲む感じで座りましょうか、なるべく記念撮影っぽくしたいのでステヴィアさんももっとこっちに寄ってください」


「では、アン。こちらをお使いください。それと貴女も。さすがにひとり地べたに座っているのも気になってしまいますので」


 ステヴィアさんはちっちゃな椅子を取り出して私達に手渡す。


 それを受け取りながら私とクミンさんは「どうもです」「はいよ」てな感じで軽い感謝の言葉を返して椅子に腰を下ろした。


「それじゃ、早速撮影したいところですけど。自分の姿や蝙蝠以外を立体的に投影するは初めてのことなのでちょっとだけ待って貰ってもいいですか」


「別に構わねぇよ。魚が焼けるまでまだ結構かかりそうだしな」


「アンの思うようにやってください。必要であれば魔力的な支援を致しますので」


「うん、ありがとう。ひとりでやってみて無理そうならそのときはお願いするね」


 ぱちぱちと焚き火が爆ぜる音に耳を傾けながら考えを巡らせた末に思い付いたのは、前後左右に4匹の探査蝙蝠を配置して『反響定位』で立体的な情報を鮮明に取得するという手法だった。


 『反響定位』だけだと形は完璧に読み取れても色調が私のイメージで着色されてしまうので、その辺りはきっちり探査蝙蝠達に撮影して貰う。


 探査蝙蝠1匹で『反響定位』を併用した情報収集と撮影させるだけでも午前中はいっぱいいっぱいだったけれど、日が暮れる頃にはステヴィアさんの魔力的な補助があったとはいえ10㎞以上先の遠隔地にまで糸を伸ばすことに成功していたので少なからず成功させる自信が胸の内に湧き上がっていた。


 気持ち的な準備も整った私は四方に探査蝙蝠を飛ばし、それぞれから『反響定位』による情報を取得して瓶の中に焚き火の炎の揺らめきまでも含めて再現する。


 まだ色はなく、白い煙のようなもので3人の姿が形取られている。


 そこへ私は探査蝙蝠で撮影した映像から読み取った色を正確に配置させていく。


 決して大きくはない瓶の中に映し出したこともあって、細部の造形は少し甘いけれど、3人がそれぞれ誰であるかの判別は難しくはない程度には作り込めた。


 あとはこれに魔力を注ぎ込んで焼き付けるだけなんだけど、この時点で私の魔法操作に費やせる能力は限界に近かった。


「ステヴィアさん、クミンさん。焼き付けお願いします。これ以上の魔力を絞り出そうとすると幻影の形が崩れてしまいそうなので」


「おう、任せときな」


「お任せください」


 そんなふたりの返事と共に大量の魔力が瓶の中に注ぎ込まれ、私が渾身の力を振り絞って投影した立体映像が鮮明に録画される。


 3人の力を結集した立体映像の録画はクミンさんの「魚焼けたみたいだし、もういいか?」との言葉で終了した。


 完成した私達の旅路を記録した1本の瓶を魚を腹部からかぶり付くクミンさんへと差し出す。


「これはクミンさんに」


 クミンさんは差し出された瓶を一瞥すると魚を一気にバリバリと骨まで食べ尽くしてから「あんがとよ」と言って大事そうに瓶を受け取ってくれた。

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