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037.前世の知識もたまにはね。

 そろそろ出発しようと促してくるクミンさんの声を扉越しに聞き、ロディが乗っかった卵を背負い私達は簡易建物を出る。


 外に出るとクミンさんが一夜を過ごした簡易建物は既に【道具箱アイテムボックス】に収納されていた。


 ステヴィアさんが私達の簡易建物を収納するのを待って出発する。


 河辺に戻り、今日も1日河沿いを下流に向かって進む。


 昨日とは違って私達の会話は最低限の意思疎通のみで、それぞれが違った興味の元に散策しているような状態だった。


 先頭を歩くクミンさんはそこらに自生している植物を手慰みに採取しては、匂いを嗅いだり食んだりして気に入ったものがあれば見かけるたびに追加で採取して【道具箱アイテムボックス】に適当に放り込んでいた。


 最後尾のステヴィアさんはというと今まで通り魔物を観察しながら足を踏み入れる予定のない薄暗い雑木林に視線を走らせる程度で抑えていた。


 そんなふたりの間を歩く私は、糸を繋いだ探査蝙蝠で周辺を撮影した映像を手元に投影しながらどうにか動画や静画を保存する方法はないかと頭をひねっていた。


 長いこと糸を繋いだ探査蝙蝠に映像を転送させ続けていたけれど、一向に成果を得られずに魔法を維持し続けるのに必要な集中力も途切れて来たので、一度魔法を切って魔力が回復するのを待ちながら知ってる情報をまとめながら考えに耽る。


 スマホみたいに撮ったものをそのまま保存出来れば簡単なんだけど、撮影してる探査蝙蝠の魔法を解除した途端に映像って途切れて消えちゃうんだよね。


 でもクミンさんの『宿火』なんかは効果を鉱石に留めてたし、私が履いてる靴の効果も消える気配ないから似たようなものが施されてるのかな。


 もしかして火属性だけの特性だったりする?


 そう思った私は歩む速度を落としてステヴィアさんの横に並ぶ。


「お疲れですか?」


「ううん、違うよ。ちょっと聞きたいことあってさ」


「なんでしょうか」


「私が履いてる靴って特殊な効果が付与されてるみたいですけど、これってクミンさんと同じで火属性のアンジェリカさんがつくったものなんですか?」


「つくられたのは違いますが、あとから『疲労回復』の効果を付与されたのそうですね」


 なんで『疲労回復』にだけ言及するんだろ?


「『重量軽減』の効果もそうなんですか」


「そちらは初代のアンジェリカ様だと思いますよ。靴を造られたときに付与されたのかと」


 その解答から火属性じゃなくても効果を付与することが出来る可能性が上がったけど、それだったらステヴィアさんがクミンさんにわざわざ魔法の付与を頼んだりしないよね。


「魔法で特殊な効果を付与したりって特定の属性の人しか出来なかったりするんです?」


「さまざまな効果をとなると火属性の方に限定されるでしょうね。私の場合だと魔法耐性を上昇させるような効果くらいしか付与出来ませんから」


 魔法の付与は出来るけど火属性以外は効果が制限されちゃってるのね。


 じゃあ、無属性が唯一付与出来るのが『重量軽減』ってことでいいのかな。


「風属性だとどんな効果が付与出来るんです?」


「風属性が干渉するのは大気ですし、物体そのものに効果を付与するように働きかけるのは難しいかも知れませんね。3代目アンジェリカ様も試しておられませんでしたから」


 固体に働きかけるような属性じゃないと無理なのね。


 水属性なら液体じゃないと効果付与するの無理だったりするのかな。


 気体に効果付与したとしてもすぐにそこら辺に散っちゃいそうだし、それならもしかしたら空気を瓶詰めしたら映像とか音を保存したり出来そうじゃない?


「ステヴィアさん、空っぽで透明な容器とか持ってたりしませんか? 蓋がしっかり閉まって中から空気が逃げなそうな感じの」


「それでしたら私の『錬成』ですぐに用意出来ますよ。大きさや形にご希望はありますか?」


 好きな形に出来るんなら瓶じゃなくて、映像を保存するのに適した物にしたいね。


 そう考えたときに脳裏に浮かんだのはスマホだった。


 あれの画面って液晶とかなんだっけ、仕組みとかよく知んないけど液晶の代わりに空気入れて風魔法を付与出来れば、画像とか映像を保存させられそうだよね。


 保存容量とかは封入した空気の量とかで変わってくるのかな?


 いや、まだ出来るかわかってないんだから先に保存出来るかを試すべきだよね。


 それなら注文する形はスマホみたいなのでいいかも。


 全部透けちゃってると画面と景気とが混ざってちゃんと見れないだろうし、現にさっきまで私が探査蝙蝠の映像を手元に投影させてたけど薄暗い遺跡の中で使ってたときと違ってかなり見辛かったしさ。


 それを解消するのに画面を明るくしようとすると余分に魔力持ってかれるらしくって探査蝙蝠と繋げてる糸を維持するのが難しくなってたんだよね。


 私は身振り手振りを交えてどうにかこうにかステヴィアさんにスマホの形状を説明し、河辺に転がってる石ころを『錬成』で望んだものに近い材質に加工して貰う。


 そこから何度かの細かい修正の末に試作品第1号が完成した。


 私はスマホもどきを受け取って早速実験しようとしたのだけれど、そもそも魔法の付与のさせ方がよくわからなかった。


「ステヴィアさん、魔法の付与ってどうやるんですか?」


「自身の魔力を対象の物体に焼き付けるようなイメージでしょうか」


 だから付与魔法の自由度が高いのが火属性なのかなって感じのイメージだね。


 とりあえず私は焼き付ける映像や写真を撮影するために探査蝙蝠をスマホもどきと糸で繋いで飛ばす。


 早速スマホもどきの画面部分に転送された映像が投影された。


 すると隣から私の手元を覗き込んでいたステヴィアさんが感嘆の声を上げる。


 ここまでは問題ない。


 問題はここからである。


 私は投影された映像を封入された空気に焼き付けるように魔力を注ぎ込む。


 約10秒間くらい魔力を注ぎ、もう充分だろうと判断した私は探査蝙蝠から転送されてくる映像を切断した。


 いつもなら接続を切った瞬間に映像が途切れるのだけれど、今回は映像が投影され続けた。


 その映像は魔力を注ぎ込んでいた間に撮影していたもので、画面内では同じ映像が繰り返し再生され続けていた。


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