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036.ひとつくらいはそんなところも。

 ふたつのマットレスを並べて敷き、あとはもう寝るばかりとなる。


 ブランケットを受け取り、マットレスの上に座り込む。


 転がらないようにとナップサックに入れて部屋の隅に置いていた卵はどうしようかと思ったけれど、食事を終えて満腹となったロディが乗っかって既に眠り込んでいたのでそのままそっとしとく。


 卵を抱えて眠ったとして、その上に乗っかったロディを落っことさないよう眠るのは難しそうだしね。


 下手したら眠ってる間に身体で押し潰しちゃいそうだしさ。


 私は横になり、ブランケットを被って隣にいるステヴィアさんに話しかける。


「ステヴィアさんって、河を下った先に行ったことあるんですよね。そのときってどのくらいのところで竜に遭遇したんです?」


「徒歩で約1ヶ月程行ったところだったと思いますよ」


「そのときもこんな感じだったんですか」


「いえ、あのころはこういった簡易の建物を用意する術は持ち合わせていませんでしたし、人間との交流も持っていなかったころでしたのでテントなどもなく、樹上で一夜を過ごすなんてことを繰り返していましたね」


 まだアンジェリカさんと出会う前のことなのね。


 テントを使ってなかってことは河にいかだを浮かべて下ってくなんてこともしてないよね、たぶん。


「ステヴィアさん、河をいかだで進んだりって出来ないですかね」


「やめておいた方がよいかと。下手をすると獰猛な水棲生物に取り囲まれて水中に引き摺り込まれることになるでしょうから」


 やっぱりそんな感じになっちゃうのね。


 昼間に見かけたワニっぽいやつとかかな。


 靴のお陰で疲れを感じることはないけど、1ヶ月もこの感じで進むとなると大変かも。


 やることもなく、ずっと似た景色の中を歩き続けることになるだろうしさ。


 明日からは魔法の練習を兼ねて探査蝙蝠を使って色々とやってこうかな。


「明日も1日歩き通しだろうし、そろそろ寝るね。おやすみなさい」


「はい、おやすみなさいませ。良い夢を」


 私はブランケットを頭まで被り、真っ暗な中で自分の吐息を感じながら眠りに就いた。




 翌朝、目覚めるとやはりというか隣にステヴィアさんの姿はなかった。


 着替えを済ませて簡易建物の外に出ると隣の簡易建物で一夜を明かしたクミンさんが朝食として丸焼きにした蜥蜴っぽい生き物を丸齧りしているところだった。


「おはようございます」


「んあ、はよう」


「ステヴィアさんどこに行ったか知ってますか?」


「あのひとなら食べれそうな木の実でも探しに行ったんじゃねぇかな。直に戻って来ると思うぞって噂をすれば」


 クミンさんが視線で示す先に目を向けるとステヴィアさんが楚々とした歩みでこちらに戻って来ているところだった。


 私は小走りにステヴィアさんに駆け寄る。


「おはよう、ステヴィアさん」


「おはようございます、アン」


「今日は何してたんです?」


「付近に生息している魔物の観察ですね。以前この辺りに来たのは随分と前のことですし、生態系が変化していないかなどを知りたかったものですから。新種もいるかもしれませんしね」


「記録付けてたりするんですか」


「姿をスケッチしたり、習性などを記述して紙に残していいますが、撮影魔導具などもありませんから正確に記録しきれないのが悔やまれますね」


「見せて貰ってもいいですか」


「構いませんよ」


 ステヴィアさんは【道具箱アイテムボックス】からバラけぬようにしっかりと綴られた紙束を取り出す。


 私はそれを受け取り、ぱらぱらと中を流し見る。


 文字を読めないかもと思ったけれど、そんなことはなく。


 見たこともない文字っぽいのに何となく意味が掴めてスラスラと読めた。


 ただ一点だけ反応に困ったのが、およそ欠点のなさそうだったステヴィアさんが絵は不得手っぽいってことくらい。


 描かれてる魔物の違いが余りわからなかったりするくらいの描き分けで、私がちっちゃいときにクレヨンなどで描いてた絵とどことなく似ていた。


「これって何冊くらいあるんですか」


「200冊は越えているかと」


 これまで聞いて来た話からして400年くらいはステヴィアさん生きてるらしいし、それくらいあっても全然不思議じゃないね。


「ありがとうございます」


 紙束を返しながらいつかステヴィアさんにカメラをプレゼント出来れば喜んで貰えそうだなと胸の内にメモを残す。


 いや、いっそのこと私が探査蝙蝠に転送させた映像をそのまま保存出来たらいいのかも。


 道中にやることを新たに見出した私は早速どうにか映像を保存出来ないかと思考を巡らせる。


「いえ、興味を持っていただけて嬉しい限りです。それよりも朝食はどうされますか?」


 私は自分のお腹をさすり、全く空腹を感じていなかったけれど1日の始まりだし朝食はきちんと摂ることにした。


「お水を1杯だけいただけますか」


「かしこまりました」


 腰を落ち着けるために簡易建物の中に入り、寝具一式を片付けた私達は寝起きで壁を啄むロディと共にゆったりと朝食を摂った。


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