035.洗濯機要らず?
ロディが食事をしている横で私は今更のように着替えも何も用意していないことに気付く。
身の回りのことは全部ステヴィアさんに任せっきりにしてたからそんなことにすら頭が回っていなかった。
いや、前世でもお母さんに着替えとか用意して貰ってたりとか頻繁にあったからそんなことに気が回るような感じではなかったけどさ。
それはそれとして2日間も同じ服を着っぱなしっていうのは前世の生活習慣からしたら結構キツイものがある。
私はロディから視線を外してステヴィアさんの方へと向き直り、ダメ元で「ステヴィアさん、着替えとかって」と尋ねかけたところで私の視線の先では寝間着やら何やらをステヴィアさんが【道具箱】から取り出して整えているところだった。
明日の着替えも用意済みなようで、私が今着ている服と同じものが一式揃っている。
「申し訳ありません。昨夜、浴場を用意すると約束しましたのに都合が付かず」
「あ、うん。それは仕方ないよ。だって急にあそこを出発することになっちゃったし」
「その代わりといってはなんですが」
と言ってステヴィアさんは【道具箱】から新たに金盥を取り出し、クミンさんに発熱効果を付与して貰った鉱石を投入すると水をなみなみと注ぎ込んでいた。
注がれた水は直後に湯気を立ち昇らせる。
まるで注ぎ込んだ水が初めからお湯だったんじゃないかってくらいに湯沸かしかかった時間は短かった。
「私が身体を清めさせていただきますね」
ステヴィアさんはタオルっぽい布地をお湯に浸してしっかりと絞り、ちっちゃな椅子を取り出して金盥の側に置いた。
そこに座れってことらしい。
私はどうしようかと迷ったけれど「それじゃあ、お願いします」とちいさく頭を下げながら告げた。
とりあえず下着姿になったけれど、他人の前で真っ裸になるのは恥ずかしく、躊躇っているとバスタオルサイズの布地を渡された。
それで前を隠すようにしてブラだけを外し、ステヴィアさんに背を向けてちっちゃな椅子に座る。
丁寧な手付きで温かく柔らかい布地で身体を拭ってくれて随分とすっきりとした。
背中というか私自身では完璧には拭いきれなそうなところを清めて貰った私は、さすがに全身をそうして貰うのは恥ずかしかったので「あとは自分でやるね」って申し出て身体を拭くのに使っていた布地を受け取った。
「外で待っていましょうか?」
私が素肌を見られるのを恥ずかしがっているのがわかっているからかステヴィアさんはそう提案してきた。
「いや、そんな大丈夫だよ」
恥ずかしいからって身体を清めてる最中ずっとステヴィアさんをひとり寒空の下に放り出すのはちょっとね。
「すぐ、すぐ終わらせちゃうから」
まだ清められていない所を手早く拭った私は
、用済みになった布地をステヴィアさんに手渡してまっさらな下着類を身にまとい寝間着に袖を通した。
「着てた服とかはどうすればいいのかな」
「こちらへ」
ステヴィアさんが手を差し出して来たので、おずおずと着ていたものを手渡す。
するとステヴィアさんは使用済みの衣類に魔法を施していた。
「何をしたの?」
「付着していた余分な物を布地と同じ素材に変化させて傷んでいた箇所を補修と補強したんです」
そういえばステヴィアさんって汚物塗れだった居住地跡を魔法で綺麗にしてたし、それくらい出来ても不思議じゃなかったね。
「ですがこのまま継続して使用するというのも抵抗があるでしょうから一度洗濯しておきますね」
ステヴィアさんは今から洗濯し始めそうな勢いだったので待ったをかける。
「わざわざそこまでしなくても大丈夫だよ」
「さすがにそれは」
「ステヴィアさんの魔法で汚れ自体は落ちてるんだよね?」
「そうなのですが」
「もし気になるようだったら自分で洗うから大丈夫だよ。それよりステヴィアさんが身体を清めたりだとかする時間も必要だろうし、私のことばかりで時間を使わせちゃう方が気になっちゃうしさ」
「それならお気になさらずに」
ステヴィアさんは胸元に手を添えて自分自身に魔法を施す。
直後、ステヴィアさんは左手を握り込む。
何だろうかとステヴィアさんの左手に視線を注ぐと彼女は苦笑する。
「これは元が不浄なものですので、そう視線を注がれますと気恥ずかしいですね。今すぐ廃棄して来ます」
ステヴィアさんは簡易建物の外へ出て行く。
どうやらステヴィアさんは衣類に付着した汚れや体表面の老廃物なんかを別の物質に作り変えて左手の中に集めたらしい。
それとさっきの反応でわかった。
汚れなんかを清潔なものに作り変えてたから私は気にしないって言っちゃったけど、ステヴィアさんからしたらやっぱり元になった物が物だけに気になるっぽい。
いや、まぁ、いくら私が割りかしズボラだったとしても全く気にならないって言ったら嘘になっちゃうけどさ。
私は何となくステヴィアさんが魔法を施してくれた衣類を手にとって臭いを嗅いでみた。
2日間も気っぱなしだったものだけれど特に何か臭うといったことはなかった。
魔法で清掃された家畜の落し物塗れだった居住地跡が一切臭わなくなってたくらいだから当然といえば当然かな。
でもこれならわざわざ身体を清めるのにお湯とタオルなんて使わなくてもよかったんじゃ。
とも思ったけれどさっきの魔法を私自身の身体に使われたらと考えるとかなり抵抗感があった。




