034.本日の宿泊地はこちらです。
私がステヴィアさんから果実水が注がれたマグカップを受け取っているとクミンさんがなんとなしに尋ねてくる。
「お前さんらは食事を摂らないのか」
「私は身体が水分以外受け付けないので」
私の回答からクミンさんは私も神罰を与えられているのだと察したようで、それ以上話を展開させずにステヴィアさんへと会話の対象を移した。
「あんたは?」
「食べずとも死ぬことはありませんので」
そんなステヴィアさんの発言を聞いた私は彼女の顔を覗き込む。
「もしかして私が目を覚ますまえから何も食べてなかったりするんですか」
「いえ、木の実や山菜などをたまに食してはいましたよ。ただ生まれが生まれですから共喰いしているようで、あまり気が進まなくて口にすることはほとんどありませんでしたが」
一応人間ではあるけれど世界樹果生まれだから植物を口にするのは躊躇われるのかな。
それに加えてステヴィアさんって魔物好きみたいだから生き物のお肉とか口にするの忌避感があって食べれなそうだし、今の私と似たような食事ばかり摂ってたのかも。
用意されてる飲料のフレーバーが豊富だったりするのは案外その辺が関係してそうだね。
「理由がなんであれ、全員食事に難ありみてぇだな」
「そのようですね」
会話はそこで途切れ、充分な休憩をとった私達は誰が言うでもなく立ち上がり、歩みを再開していた。
夕暮れ時には別の河と合流する地点に到達する。
より広く緩やかな流れとなった河の幅は優に100mを超えているようで、対岸は今まで一切人間が立ち入ったことがないんじゃないかってくらいに植物が鬱蒼と生い茂っていて見通しが悪く、妙な不気味さがあった。
この辺りになると上流では澄んでいた水も泥で濁っていて飲み水として使うには抵抗のある色合いになっていた。
河面を眺めながら歩いていると時折なんかワニっぽい生き物が目だけをカタツムリのようににょっきりと水上に出しだ状態で泳いでいたり、斧みたいな嘴をした鳥が水面に嘴を振り下ろして水中の獲物をぶつ切りにしてから食べている姿などが見受けられた。
今までならステヴィアさんが生き物の解説を入れてくれてただろうけれど、クミンさんの歩調に合わせて進んでいる最中だからか発言を控えているようだった。
日暮れも近いこともあり、私達は今日の寝床を確保出来そうな場所を求めて少しばかり足を早める。
河辺は飲み水を求めてやって来る野生動物が多く、そんな場所で野宿なんてしたら夜中に襲撃される恐れがあったので私達は一旦河から離れた。
ちょうど良い空き地などないかと思って私は探査蝙蝠を方々に放って周辺の地形を探り、いい感じに開けた場所を発見したのでふたりをそこへと案内する。
「地形を把握すんのにお前さんの魔法は便利だな」
「クミンさんにも『直感』があるじゃないですか」
「あたしの『直感』は別に探し物を見つけ出す能力じゃねぇし、んな使い方は出来ねぇよ。あくまでも求めているものに近いものを強く感じ取ってるってだけだしな」
なんて答えながらクミンさんは【道具箱】から1人用のテントを取り出して組み立てる準備に入る。
私は卵を背負っている以外に荷物を持っていないので、寝床はどうするのかとステヴィアさんに目を向けると彼女は【道具箱】から出した各辺3mくらいある立方体の石材をどすりと地面の上に置くと『錬成』で箱型の簡易な建物に変形させていた。
「便利なもんだな」
「土属性と違って石材を持ち歩かなければなりませんので【道具箱】の容量をかなり圧迫してしまいますけどね」
「あぁ、大地には干渉出来ないんだっけか」
「はい。もしよろしければ貴女の寝床も用意しましょうか?」
「条件は? ただってわけじゃないんだろ。ここじゃ金なんて意味ねぇし、何要求するつもりなんだ」
話が早いとばかりにステヴィアさんは薄く笑むと手の平大の石で出来た球体を取り出してクミンさんに差し出す。
「この鉱石に発熱効果を付与していただけませんか」
「用途は?」
「お風呂用ですね」
「はいよ。そんじゃ、それ用に温度調整するわ」
ステヴィアさんから丸い石ころを受け取ったクミンさんは『宿火』を使って魔法の効果を付与していた。
「ありがとうございます。貴女が火属性で助かりました」
「ま、出来ること出来ないことはお互いにありやがるしな。適材適所だろ。こっちも材料用意した方がいいか?」
「いえ、問題ありません」
と言ってステヴィアさんは各辺2mの石材を出して手早く加工していた。
「随分と容量でかいんだな、あんたの【道具箱】」
「そうなのですか?」
「いや、まぁ、あんただしな。なんか納得かもな」
ステヴィアさんの反応にクミンさんは苦笑しながら出しっ放しだったテントを片付ける。
「んじゃ、あたしはもう寝るわ。おやすみ」
「おやすみなさいませ」
「おやすみなさい」
欠伸をしながらクミンさんが即席建物に入り、扉を閉める。
それを見届けた私達も隣に建てられた即席建物に入った。
中は真っ暗なんじゃないかと思っていたけれど、天井は透明な素材になっていて星空が一望出来た。
私は背負っていたナップサックを下ろすとロディがひょいっと中から飛び出す。
翼をばたばたとさせながら着地するとぶるぶると全身を震わせて身体をほぐし、翼の付け根を嘴で軽く突くなどしてから壁にとことこと近付き食事をしはじめる。
問題ないのかなとステヴィアさんに目を向けると彼女は愛おしそうにロディの様子を眺めていた。
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