033.お向かいさんのご飯事情。
私は卵の上に座り込んで眠る雛を落とさないように、そっと立ち上がる。
「この子って卵の上に乗っけたままで大丈夫ですかね。歩いてる途中で落ちちゃったりなんかは」
「それなら問題ありません」
準備に抜かりなしとばかりにステヴィアさんが自信満々で今しがた仕上がったばかりの一品を差し出す。
それは私の服に合わせたのかデニム生地で造られたナップサックで、抱えている卵を入れても幾分か容量に余裕が余裕がありそうだった。
まるで初めからこの事態を想定していたような代物である。
もしかして最初っからそのつもりだったのかな?
昨日、ステヴィアさんが話してくれた雛の習性を思い返してみると魔力を含んだ巣を餌として食べるってことだったし、周辺にある古い建物群よりもステヴィアさんがついさっき『錬成』で整えた寄合所には豊富に魔力が含まれているのは明白だしさ、雛がよりよい餌を求めて寄ってきてても不思議じゃないよね。
卵関連の習性も知ってたみたいだし、それとなく誘導してたりしたのかも。
何となく気になって雛を鑑定してみる。
【名 称】ロディオラ
【レベル】3
【属 性】土
【筋 力】★☆☆☆☆☆☆
【耐 久】★★☆☆☆☆☆
【敏 捷】★☆☆☆☆☆☆
【技 巧】★☆☆☆☆☆☆
【魔 力】★★☆☆☆☆☆
【抵 抗】★★☆☆☆☆☆
【才 能】『成長』
【技 能】
【魔 法】『石化邪視』
【生命力】109568
生命力の桁が私達より一桁多いけれど、そんなことよりも名称が邪目石鶏でなかったことが気になった。
てっきり種族名が名称として充てがわれてるものだとばかり思っていた。
魔物って生まれたときから固有名付いてたりするのかな?
「その子、ロディオラって名前みたいですね」
雛の名前をステヴィアさんに告げると彼女はどことなく嬉しそうにしていた。
「ロディオラさんですか、良い名だと思います」
大層気に入った様子でステヴィアさんは指先で雛の頭をそっと撫でる。
するとロディは垂れていた頭を持ち上げてふるふると首を振り、眠気を覚まそうとしていたけれど、すぐにまぶたを重たそうに閉じてこっくりとうな垂れていた。
「お腹いっぱいでまだ眠たいみたいですね」
「そのようですね。もうすぐ出発ですし、この子は起こさないように卵を鞄に入れてしまいましょうか」
ステヴィアさんがナップサックの口を卵のサイズに合わせてつくってくれていたのですっぽりと中に収まる。
ナップサックの口は緩めに締めて卵の上に乗ったロディが目を覚ましたときに中が真っ暗にならないようにした。
私は卵を収めたナップサック背負う。
肩紐は変に喰い込まないように幅広になっていたのでそれほど肩の一部に負担がかかるようなことはなく、抱えていたときよりも随分と楽になった。
そんなことをしていると飲み水の確保に行っていたクミンさんが戻って来るなり「準備はいいな、出発するぞ」と私が背負っているナップサックを見ながら言った。
土地勘はステヴィアさんの方が上だろうけれど、今回の目的はこのエリアの脱出にあるので私達は先を行くクミンさんの『直感』に従って足を動かす。
迷いなく歩みを進めるクミンさんは、居住地跡を抜けると真っ直ぐに河川敷を目指しているようだった。
河川敷に到るとクミンさんは河沿いに下流へと向かって行く。
そのルート選びにステヴィアさんは若干訝しげにしていたけれど、口を出すようなことはなかった。
どれくらい歩いただろうか、太陽がかなり高くに昇った辺りでクミンさんは一度休憩を取ろうと提案し、私達は河辺に転がる岩の上に腰掛けた。
「飯はお互い別個でいいか? ここ1年でかなり悪食になっちまってな」
「鑑定、必要ですか?」
「手持ちの食材は全部一度食ったことのあるやつだし、問題ないぜ。毒物は『復活』後に即捨ててってんかんな」
「そもそも何で毒物が食材に」
「こっちに転送されて以降は、食料尽きちまって現地調達だったからな。食えそうなもんは片っ端から食ってってたんだよ。まぁ、ダンジョン産の植物なんざ魔物から身を守るためなのか基本毒持ちばっかでよ、厄介で仕方なかったわ」
「それだけ毒を摂取されたのなら毒耐性の技能が発現しても不思議じゃないでしょうに」
「あたしもその手の技能が欲しいところだけどよ、その辺は才能の影響だろうな。まぁ、食事以外で死なない程度の毒を食らえばそのうち発現すんのかもな。死んじまったら『復活』で食らった毒は身体から消えちまうしな」
なんて言いながらクミンさんは【道具箱】から適当な食材として肉まんくらいの大きさの昆虫を取り出し、手元で炎を出して雑に炙り焼いてバリバリとスナック菓子のように食べていた。
その様子からいろんなものダンジョン内で過ごしていた1年間で食べてたんだろうなとありありとわかった。




