表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/50

032.私も一緒に連れてって。

「待って、待って」


 私は慌ててクミンさんを引き止める。


「んあ?」


「私も目的地は一緒だから同行させてもらいたいんだけど」


 咄嗟のことだったので私はステヴィアさんの同意も得ずにそんなことを口走っていた。


 それがわかっていたからだろうクミンさんはステヴィアさんの方をちらりと見てから私に視線を戻す。


「目的は? あたしと同じってこたぁねぇだろ」


 反射的に引き止めてしまっただけに明確な理由を提示出来ない。


 口から出任せに適当な理由をでっち上げたところでクミンさんの『直感』で簡単にバレてしまうのは明白なので言葉に詰まってしまう。


 だったら嘘にならない程度に目的をぼかして、それとは別に私が同行するメリットを示す他ない。


「さっき写真を見せたじゃないですか。あれに写ってるのって私であって私じゃない私なんですけど、故郷がどこかわかったんならやっぱり確かめておきたいと思って」


 私の言葉に嘘はないからかクミンさんは複雑な表情をして判断に困っているようだった。


 実際、アンジェリカさんの生まれ故郷で私の目的に則したものが見つかるかも知れないし、どちらにしろ世界全土を回るくらいのことをしないといけない気はしてるのでいつかは行くことになると思う。


 それならダンジョンの踏破を可能とする『直感』を持ってるクミンさんについて行くのは最善な気がするんだよね。


「それとなんですけど、私って『鑑定』持ちなんです。きっとクミンさんの助けになれると思うんですよ、だから」


 そこまで言った辺りでクミンさんは、もう充分だとばかりに押し黙るようジェスチャする。


「お前さんの主張はわかった。わかったが、そっちのあんたの意見はどうなんだい?」


 クミンさんは私からステヴィアさんへと視線を移し、じっと見据える。


 さっきから成り行きを見守るように口を閉ざして控えているけれど、私達の行動方針の主導権を実際に握っているのがステヴィアさんだと察しての追求だろう。


 それに私は事実を知っているわけではないので本当かどうかわからないけれど、クミンさんはステヴィアさんに不意打ちのようにして一度殺されているらしいから何かと思うことはあるのは間違いない。


 自分を殺した相手と諍いを起こさず同室にいること自体が異常な状況だけに、それをよしとして対話していたクミンさんの心情を想像するのは私には難しく、固唾を呑む。


 どこか重たい空気の中、ステヴィアさんは普段通りの調子で口を開く。


「私はアンの方針に従うだけですよ」


「あー、そうかい。で、そっちの準備にはどのくらいかかるよ」


 クミンさんはあっさりと同行を認める発言をする。


 拍子抜けするほどにあっさりと話が進み、私は戸惑う。


「アン、何かあった方がいいと思うものはありますか」


 働かない思考を無理矢理に巡らせて、私は自分の腕の中に抱えている卵の表面を2度3度と撫でてから告げる。


「この子を連れてくのに、この子を入れて背負える鞄とかあったらいいかなって。ずっと抱えて移動するのは厳しいと思うので」


「承知しました」


「話しはまとまったか。こっちにはあんまし時間はねぇから早めに頼むぜ」


「1時間程お待ちいただけますか」


「はいよ。そんなら待ってる間にあたしは飲み水の確保でもしてくるかな」


 そう言うとクミンさんは河へ行き、ステヴィアさんは「少々お待ちください」とだけ言い残して作業をするために別室に向かった。


 ひとり部屋に残された私は特にやれることもなく、寄合所の外に出て壁に背を預けるとぼんやりと青空を仰ぐ。


 今から旅のお荷物になってしまいそうな気配をひしひしと感じてしまう。


 前世でアウトドアなんてしたこともないし、役立てる知識も何もない。


 多少使えるようになった魔法もクミンさんの『直感』があれば用済みになってしまいそうである。


 なんてネガティブなことを考えていると、こつこつと何かが壁を叩く音が耳に入った。


 何の音だろうかと音の出所に目を向けると黒い魔物の雛が寄合所の壁を突いているのが目に入る。


 どうやら食事中らしい。


 ステヴィアさんが見たら喜びそうだな。


 なんて思いながら雛の食事風景をしばらく眺めていたけれど、雛はかなり少食なのかもう満腹だとばかりに壁を突くのをやめてきょろきょろと辺りを見回す。


 次はどこに行こうかと迷っているらしい。


 私はしゃがみ込んで、その姿を微笑ましく見守っていると雛と目が合ったような気がした。


 すると雛はとことこと私に寄ってくると未熟な翼をぱたぱたと羽ばたかせて私の膝の上に乗っかろうとジャンプする。


 20㎝くらい飛び上がってたけれど、それでは私の膝の上にまでは届かず何度も失敗しては挑戦を繰り返していた。


 ステヴィアさんのスタンスとか見てると野生動物に構うのはあんまりよくないんだろうなとは思いながらも私は、雛がどうにか飛び乗れそうな高さに手の平を差し出す。


 その意図を察したのか雛は私の膝ではなく、手の平の上にどうにかこうにか飛び乗るとそこから更にジャンプして膝の上に移動し、そこから更に私が抱えていた卵の上に登る。


 そこに至ると雛は満足したのか卵の上に座り込み、うとうととしはじめたかと思うと眠り込んでしまった。


 私は仕方なく、なるべく揺らさぬよう地べたに腰を下ろし、ステヴィアさんたちを待ってる時間を雛と一緒にひなたぼっこして過ごすことにした。




 ぽかぽかとした陽気に当てられていつの間にやら私も眠り込んでいたらしく、私は肩を揺さぶられて目を覚ました。


「アン、準備が整いましたよ」


 ステヴィアさんの声を耳にしながら私は目をこする。


「ごめん、寝ちゃってたみたい」


「それは良いのですが……」


 歯切れの悪いステヴィアさんの様子が気になり、彼女の方に目を向ける。


「どうしたんですか?」


「いえ、何と申しますか。邪目石鶏がアンの抱えていた卵を自分の子だと思い込んでしまったようでして」


「えっ」


「元々そういった習性があったことは知っていたのですが、まさか人間の卵でも同様の反応を示してしまうとは」


 私は自分の抱えていた卵に目を落とすと雛は卵の上に座り込んで眠っていたのではなく、卵を温めていたらしい。


「どうすればいいのかな」


「生態的にどんな環境にも適応出来ますので同行させても邪魔にはならないとは思うのですが、引き離すとなると殺処分するしか」


 かなり稀少な魔物だって話だし、ステヴィアさんの心情的にはこのまま連れて行きたいところなんだろうな。


 でも卵を自分の子だって思っちゃってるんなら私から奪おうと攻撃してきたりしないのかな?


「卵を自分のものにしようと攻撃してきたりなんかは」


「それはあり得ません。アンのことも卵同様に家族だと思い込んでいるでしょうから」


「そうなんですか」


「えぇ、ですから害はないと思います」


「餌なんかは」


「その辺に転がっている石などを私の『錬成』で加工してやればどうにか」


 何ていうかステヴィアさんの反応が捨て猫を拾って来た子供みたい。


「ステヴィアさんがそう言うんなら」


「ありがとうございます。アンならそう言ってくれると思ってました」


 私が困った事態を招いちゃったはずなのにお礼を言われてむずむずとしてしまう。


 それにしても出発前からよくわからない旅のお供が増えてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ