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030.みんなで一緒にってわけにはいかないらしい。

「偶然ここに導かれたってわけじゃなさそうだが、あっちに戻る方法がわかんねぇんじゃどうにもなんねぇな」


「仮に戻る方法が見つかったとしても、今は戻ったところで仕方ないのではありませんか」


「まぁ、そうなんだけどよ。厄草の対処法が見つかったわけでもないしな。だからって放置してたら厄草の分布域が拡大してくばっかりだろ。それに向こうに残されてる仲間も心配だしな」


「お気持ちはわかりますが、そもそも貴女のお仲間もこことも貴女の故郷とも違う場所に転送されてしまった可能性もあるのではないですか」


「そこなんだよな。同時に転送装置に入ったはずなのにあたしひとりだけ別の場所に転送されちまってよ。他のみんなは全員別の場所に転送されたのか、その場から転送すらされなかったのかすらあたしの『直感』でもわかんねぇんだよな」


「探索されていた方々全員が転送装置を使用なさったのですか」


「まさか。どこに繋がってんのかわかんなぇからあたしを含めた数名が先行して使用したのさ」


「その後、こちらのダンジョン最下層に来られた方はいらっしゃらなかったのですよね」


「1ヶ月は転送装置付近に滞在してたが、何かが転送されて来る気配すらなかったな」


「その探索に当たっていた方々の属性はどうなのですか。貴女は地元では数少ない火属性のようですが、同行していた方々の属性の内訳はどうだったのです?」


「属性、属性かぁ。そいつは条件としてあり得そうだな。厄草対策であたし以外の火属性持ちは集落に残ってたしよ。他に同行してたやつはひとりを除いて全員金属性だな」


「残るおひとりの属性は」


「水だな。しっかし、属性で転送先を選り分けられてた可能性があるとなるとそいつもあたし同様に別の場所にひとり飛ばされちまったことになるな」


 そこで一旦会話は途切れる。


 原因はクミンさんが待ったをかけるジェスチャをしたからだ。


「悪い、食事を摂る時間をはさませて貰っても構わないか。何かと身体の都合もあってな」


 渋い顔をしたクミンさんは右腕をむず痒そう掻いている。


 クミンさんの右腕に目を向けると蕁麻疹っぽい発疹で真っ赤になっていた。


 私は改めてクミンさんを鑑定して『復活』の才能タレントの詳細を確認すると私は内容を読み違えていたようで、食事を摂ることで発疹が出たりするのではなく、食事を摂らなかった場合にそららの症状が出るようだった。


「こちらで用意しましょうか?」


「いや、いい。別に毒を盛られる心配をしてるとかじゃねぇからその辺は気にしないでくれ」


「わかりました。アンはどうされます? 昨日の昼以降なにも口にされてないでしょう」


 水を向けられた私は、自分のお腹を軽くさすり全く空腹感がないことを不思議に思いながらも一応なにか口に入れておいた方がいいだろうと食事を頼むことにした。


「お願いします」


「わかりました」


 私達のやりとりが終わったのを見計らってクミンさんが口を挟む。


「悪りぃ、ここって調理場とかあるか?」


「廊下に出て右手奥の扉がそうです」


「はいよ。んじゃ、ちっとばかし席を外させてもらうぜ」


 クミンさんの発言に疑問を抱く。


 食事の用意をするならステヴィアさんもキッチンに行くとは思わないのかな?


 私は水を口にするだけなので、わざわざキッチンを使う必要はないのだけれど、その辺りも『直感』で察してるってことなのかな。


「ステヴィアさんは食事を摂られたのですか?」


「はい、早朝の清掃作業前に少々」


 その発言が本当なのか嘘なのか判断出来ないけど、わざわざ嘘をつく理由もないだろうから大丈夫だよね、たぶん。


 ただ気になるのは何だかんだで私ってステヴィアさんが食事してるとこ何故か一度も見てないってことなんだけど、何か理由があるのかな?


 『不死』の才能タレントにはそういったことに関するデメリットの表記は見当たらないから単純に人前で食事するのが苦手ってだけなのかもしれないけどさ。


 私の前にことりとマグカップが置かれたので、それを手に取って「いただきます」と軽く呷る。


 ほのかな柑橘系の香りが心地よく、ほんの少しだけ口にするつもりだったのだけれど、ひと息に全て飲み干してしまった。


 空になったマグカップをステヴィアさんに手渡すとおかわりの有無を問われ、私は「もうお腹いっぱいだから」と断った。


 食事と言っていいのかさえ疑問を抱きたくなる私の手早い食事を終え、そこからクミンさんが戻って来るのを待っている時間が思った以上に延びたことでさすがに違和感を覚えた私達は調理場に足を運んだ。


 調理場に入ってすぐクミンさんの姿が見当たらず、美味しそうな匂いの漂う室内を見回しながら奥に踏み込んでいくと調理台の陰に隠れるようにして彼女は床に倒れ伏していた。


 慌てて駆け寄ろうとしてステヴィアさんに手で制され、問いかけるように視線を向ける。


「迂闊に近付くのは危険です。何か潜んでいるかもしれませんからアンはここでお待ちください」


 私はクミンさんの才能タレントの詳細を告げようとしたけれど、ステヴィアさんが言うように何か得体の知れないモノが潜んでいる可能性も考慮して『反響定位』の知覚制度を上げるように意識を集中する。


 調理場全体を細かく知覚したけれど、不衛生な印象の強いアレな虫も潜んでいないくらいにここは生き物の気配がなく、クミンさんの心音も感じ取れず死亡しているのは間違いないようだった。


 用意が間に合わずに食事を摂り損ねて『復活』のデメリットで死亡してしまったのかと思ったけれど、料理が盛られていたらしき跡の残った皿が調理台に置かれたままになっているところを見ると食事は済んでいたらしい。


 それなら使用した食材に問題があったのではないかと使用済みの皿を鑑定してみると毒物が検出された。


「ステヴィアさん、クミンさんが食べた料理に毒が入ってたみたいです。たぶん私と同じで才能タレントのデメリットに関係するものだとは思うんですが……」


 クミンさんのステータスに表記されてる【生命力】の数値に変化はないから完全に死亡したってことはない、はず。


「どういった才能タレントなのですか」


 私が才能タレントの詳細を告げるとステヴィアさんは納得し、問題ないと判断したようだった。


「ここに寝かせたままにしておくのは忍びないですし、横になれる場所に運びましょうか」


 ひょいっとクミンさんの身体を軽々と抱え上げたステヴィアさんは別室に設えられた横長のソファに彼女を寝かせる。


 ステヴィアさんは私にクミンさんを見ているように言い残すと放置されたままの食器類片付けに調理場へと戻っていった。


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