029.私達のルーツ。
世界樹がクミンさんたちを元々の居住地から追いやった原因だと聞かされ、私は隣に座っているステヴィアさんの顔色をちらりと伺った。
ステヴィアさんは何か思うところがあるのか、口元に手を当ててテーブルの上に視線を落としていだけれど、わずかな逡巡の後に口を開く。
「ひとつお伺いしたいのですが、貴女の生活していた土地で生まれる方々は特定の属性に偏っていましたか?」
「金属性が大半だったな。しかしなんだってそんなこと聞くんだ」
「いえ、もしかしたら私が昔仕えていた方の故郷が貴女と同じなのではないかと思ったもので」
「あんた不死身なんだよな。それってどんくらい前の人なんだ」
「約400年前の方ですね。その時代に起こった出来事で言い伝えられていることなどありませんか」
「400年前つったら大厄災かな。確か当時全く見慣れない植物だった厄草を採取して育成してた人間がいたらしくてな。厄草って、シャボン玉みてぇな色合いで透き通ってて見た目だけは綺麗だから当時の人からしたら観賞用として育てたつもりだったんだろうな。害があるなんてわかんなかっただろうしよ。そんで厄草を育成することに成功しちまって御屋敷の温室いっぱいに咲かせちまっだらしいんだよな。そっから先は、まぁ、想像出来んだろ」
想像通りの顛末を迎えたんなら集落は阿鼻叫喚の地獄絵図だったんだろうね、パニックホラーみたいな感じでさ。
ただ聞いていて違和感を覚えたんだけど、それがなんなのか、ぱっとは出てこない。
ステヴィアさんも私と同じような感覚を抱いたようだったけれど、彼女は私と違ってそれがなんなのか明確に気付いていたようで、その点をクミンさんに尋ねる。
「厄草は種が飛散するまで触れることは出来ないのではなかったのですか」
「あぁ、そのことか。厄草の育成に成功した人物は高名な魔導具製作者だったらしくてな。厄草を採取することを可能とする鉢だのなんだのと造ったらしいんだよ」
「その方の属性、無属性だったのではありませんか?」
「だな。私の住んでる土地じゃまず産まれないからかなり珍しかったらしいぜ。普通の魔導具って金属性のやつが道具を造って、そいつに火属性のやつらが特殊効果付与したもんばっかだかんな」
「その方は大災厄後どうされたのです」
「そこまでは伝わってねぇな。状況が状況だから厄草に喰われちまったんじゃねぇか。生きてたとしたら生き残った他の住民から槍玉にあげられてただろうしよ」
ふたりの会話を横で聞いていてステヴィアさんが到ったであろう結論を私は察したけれど流石にそれは話が出来過ぎなんじゃないかとさえ思えた。
「そうですか。ではもうひとつ質問を」
「いいぜ、なんでも聞いてくれよな」
「厄草の発生源が世界樹だと仰っていましたが、何か根拠があるのですか?」
「古代文明の遺跡が世界樹の根に侵食されたって話はしたよな。そんでよ、通れなくなった通路をまた通れるようにって邪魔な根を切り捨ててってたんだが、どうも根の切り口から溢れ出た樹液が染み込んだ場所から厄草が芽吹いてきやがったのさ」
「厄草は世界樹が自己防衛のために創り出したものなのでしょうか」
「あたしらの見解でもそれに近い結論になったな。いや、正確には厄草は人間を喰らって損傷した世界樹の修復だとか世界樹果の材料にしてんじゃねぇかってな」
人間を食べて別の人間を果実の中に創り出してるって話が本当に事実だったとしたらアンジェリカさんの持ってた写真に写ってたステヴィアさんのそっくりさんってもしかして大災厄で厄草に食べられちゃって、その身体を材料に今のステヴィアさんが世界樹果の中で造られたんじゃ。
「現に世界樹果産まれのやつは昔に厄草に喰われちまった誰それの生き写しだって感じのやつがちょこちょこ居やがるらしいんだよな」
「概ね理解しました。おそらく私は大災厄で厄草に食べられてしまった方の複製体なのでしょうね」
「あぁ、そういうことか。そんでその手の質問をしてたってわけかい」
「えぇ、その可能性は高いかと。アン、例の写真を出して貰えますか」
「あ、はい」
聞きに徹していたので、こちらに話を差し向けられるとは思わず軽くどもってしまう。
私はステヴィアさんの言葉を受けて【道具箱】から私とステヴィアさんのそっくりさんが写った写真を取り出してテーブルの上に載せた。
「こちらの景色に見覚えありませんか」
ステヴィアさんは写真をクミンさんに差し出す。
写真に目を落としたクミンさんは感嘆の声を漏らし、小さく一度頷く。
「あんたの想像、間違ってねぇかもな。この場所には、よーく覚えがある。ガキの頃よくこの辺りで遊んでたからな。転送条件はわかんねぇが、あたしの故郷とここは間違いなく転送装置で繋がってるってことだな」




