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028.そちらの事情はなんですか。

「いや、おかしいだろ」


 それが私達が今居る場所の成り立ちや環境を聞いたクミンさんが発した第一声だった。


 もちろんアンジェリカさんのことは伏せて話した。


「なんだよ死体が消えるってよ。どう考えても普通じゃねぇよ」


 その発言に私は首を捻る。


 ステヴィアさんから聞いていた話から世界的に当たり前なんだと思っていた。


 でも、どうやらそうではないらしい。


「ですが事実です。この土地では何百年も昔からそうなのです」


 クミンさんは腕を組んで唸りながら考え込み、やがて何かに思い当たったのか苦々しかった表情を変えた。


「なぁ、竜ってここを中心にどこに進んでっても必ず現れんのか?」


「えぇ、どこから現れるのかはわかりませんが一定の区域の外に行けないよう常に見張られています」


「あんたさ、あたしと同じで不死身なんだろ。強引にでも竜が通せん坊してるとこ抜けたり出来なかったのか」


「無駄でしたね。切り抜けた先で彼らの魔法を受け、彼らが護っている境界線を超える前の位置にまで転移させられてしまいましたので」


 ステヴィアさんの発言を耳にしたクミンさんはやはりとでも言いたげに大きく頷いた。


「やっぱこれあれなんじゃねぇかな。あたしの雑頭で考えるようなことだから的外れかもしんねぇが、ここってダンジョンの外じゃなくてダンジョンの一部なんじゃねぇか」


「ここがダンジョンの一部ですか……そう言われてみるとそんな気もしてきますね」


「だろ。絶対そうだと思うぜ。あたしの『直感』がそう告げてる」


 クミンさんが広大なダンジョンを踏破出来たのも『直感』技能スキルのお陰だったのかな。


 それはそうとして外野で話を聞いてるだけってのもどうかと思うので私からもクミンさんに質問を投げかける。


「クミンさんの暮らしてた土地ではどうだったんです。交配装置コウノトリの使い方だとか、死者の弔い方だとかって」


「そういや、こっちから聞いでばっかでこっちのことなんも話してなかったな。交配装置コウノトリに関しちゃこっちとそう変わんないと思うぜ。ここと同規模の集落がいくつもあったし、人口もそこそこ多かったから日に使える人数は制限されてたな。使用者は抽選で選んでたが、それでも数ヶ月待ちなんてことがざらだったな」


 ここの土地って、クミンさんからしたら狭いのかな。


 でもこれまでの発言からしてクミンさんの故郷もダンジョンよりは狭いんだよね、たぶん。


「んで、死人に関してだが弔おうにも遺体がまともに残るのことが少なくてな。手首から先だけを壺に収めて古代文明の遺跡地下に保管されてることが多かったな。交配で再利用出来かもしれねぇってな理由でな」


「遺体が残らないって、ここと同じじゃないんですか」


 クミンさんは嫌なことを思い出したようで顔をしかめながら答えた。


「ここと違って遺体が消滅するわけじゃねぇよ。喰われんのさ、厄草やくそうの種にな。しかもご丁寧に手首から先だけ喰い残されてな」


 わざと手首だけ残されてる?


「その厄草ってやつどうにも出来なかったんですか」


「魔法の塊なのかなんなのかわかんねぇが、種が飛ぶまで触れれねぇんだよ。種が飛んだら最後、肥料として喰い尽くされるまで手の打ちようもねぇと来たもんさ。飛ぶ前なら火属性の魔法で焼き払えはするんだがな。どこにでも生えやがるから根絶やしにするのも難しいのさ。火属性持ちも滅多に生まれねぇしな」


 貴重な火属性持ちなのに集落を離れちゃってよかったのかな。


「なんであたしが厄草の除草作業しねぇでダンジョンなんかにって顔だな」


 ステヴィアさん相手じゃなくても表情読まれてる辺り、私って私が思ってる以上に顔に出やすいんだな。


「気になりますよ、そりゃ」


「まぁ、あれだ新天地を求めてたのさ。平穏に暮らせる場所を探してな。少なくともダンジョンには厄草が生えることはなかったからな」


 魔物の話題が絡んだことでステヴィアさんは興味深げにクミンさんの話に食い付く。


「それでですか、貴女の身体に生息地の全く異なる複数の魔物が混じっているのは」


「そういうこったな。魔物と交配でもしなきゃ、魔物の巣窟になってるダンジョン内じゃ生きてけねぇからな。ただ交配装置コウノトリは地上にある古代文明の遺跡内にしかねぇから危険を冒して地上に上がる必要があって困りものだったがな」


「そこまで交配が進んでしまうと生殖行為によって生体の数を増やすことも難しいでしょうから交配装置コウノトリを頼らざるを得ないのですね」


「全員が全員別々の種族みてぇなもんだからな」


 何かと問題は多かったみたいだけど、ダンジョンで生活して行けてたのになんで最下層にまで潜ったんだろ。


「一応ダンジョンで生活は出来てたんですよね? なんでわざわざ危険を冒してまで下の階に」


「理由は単純だな。交配装置コウノトリが使えなくなりそうだったからさ。世界樹の根に古代文明の遺跡ごとダンジョンまで侵食され始めてな」


 そこで一旦区切ったクミンさんは深く息を吐き、静かに続きを口にした。


「しかも厄介なことに厄草の発生源はどうも世界樹みてぇなんだよな」

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