025.世界一周することになりそうですね。
私はこちらの音が相手に届かないようにしてからステヴィアさんへと向き直る。
「相手との音のやりとりを切りました。これからどうします? 向こうの方、別のダンジョンからここにたどり着いたらしいのですが」
「崖向こうの土地を知っていらっしゃるのでしたら直接お話を伺いたいところですね」
「その方向で話を進めるとして、どこに招きます?」
「居住区に寄合所がありますので、そちらに案内しましょう。アンは魔法で相手の方を誘導していただけますか」
「それじゃ、向こうの方との音のやり取りを再開しますね」
「では、私達も同時に移動しましょうか」
ステヴィアさんは「こちらへ」と進む方向を示し、歩き出すよう手で促した。
私は歩き出す直前に卵の存在を思い出し、ステヴィアさんにちょっと待つように手で示して水車小屋に戻る。
足早に布団の上に乗っけていた卵を抱えて外に出て、ステヴィアさんの元に駆け寄って正体不明の相手との通話を再開させた。
「腰を落ち着けてお話をする場を設けますので。そこにいる子についてきてもらえますか?」
『はいよ。ついてきゃいいんだな』
「はい、お願いします」
もう探査蝙蝠を変身させておく必要はないかな。
余計なことに魔力を持ってかれて案内してる途中で探査蝙蝠が消えちゃっても困るしね。
探査蝙蝠を元のデフォルメされたまるっこい蝙蝠に戻すと相手は感心したように声を上げた。
『随分器用なんだな』
「風って割と自由度が高いみたいなので」
『あたしの周りにゃ風使いって居なかったからわかんねぇが、そういうもんなのかね』
「だと思いますよ、ただ私も私以外の風属性のひとに会ったことがないので、わかんないんですけどね」
『そうなのかい。にしてもお前さん妙な趣味してんな』
「何の話です?」
『そいつだよ。やたらまるっこいがこの辺に住んでんのかい、その蝙蝠』
「あぁ、その子ですか。まんま蝙蝠だとかわいくないじゃないですか。だからまるっこくしたんです」
『かわいいかねぇ。まぁ、攻撃的な見た目で脅してくるような相手じゃなくてよかったと思うべきかね』
暗にかわいくないと言われてしまった。
元が蝙蝠だし、仕方なないかな。
「脅すってダンジョンを踏破したひとをですか?」
『気に障ったかい?』
今の発言、皮肉として受け取られちゃったっぽいね。
「何というか顔の見えない相手と話をするのって難しいですね」
『確かにな。ちょいちょい言葉が行き違ってるみてぇだな』
この世界には電話とかないみたいだし、相手からしたらこういう状況ってかなり特殊だよね。
警戒されてても仕方ないし、そっち方面で言葉から受ける印象のズレを修正しよ。
私の言葉選びがマズかったってのもあるんだろうけど、敵意があると思われちゃったら厄介だもんね。
なるべく友好的な印象で顔を合わせたいしさ。
「変に拗れかねないですし、顔を合わせるまで話すのはやめときましょうか」
『いや、気にしなくていい。下手に会話を避ける方が面倒だわ』
会話続行ですか、そうですか。
「それならいいんですけど」
『乗り気じゃなさそうだな。でもまぁ、あたしの話に付き合っちゃくれねぇか。長いことダンジョンでひとりだったもんでな、話し相手がいるってのは久しぶりだからよ』
別のダンジョンの最下層にある転送装置までは仲間と一緒だったみたいなこと言ってなかったっけ?
最下層から地上に出る出口は潜るときとは違って、脱出は容易だってステヴィアさんに聞いてた気がするんだけど。
「ここのダンジョンに飛ばされてどれくらいなんです?」
『んあー、そうだな。最下層で転送装置をうだうだ1ヶ月くらい調べて、そっから10階層上の出口までどんくらいだっけかな。たぶん1階層を抜けるのに大体1ヶ月くらいかかったんじゃなかったかな』
「真っ直ぐ出口目指してたんですよね?」
『もしかしてお前さん、ダンジョンに入ったことねぇのか』
「ないですね。話だけは聞いたことあるんですけど」
『だろうな。ダンジョンってのはお前さんが思ってる以上に広いぜ。地上なんて目じゃねぇくらいにな』
私はステヴィアさんに目配せすると彼女はこくりと頷いた。
「彼女の言う通りですね。ダンジョンはひとつの階層が約6000㎞四方あると言われていますから出口がわかっていたとしてもかなりの時間を要することになります」
6000㎞?
それって私が前世のとき過ごしてた国よりも広いんじゃないの、正確な数字とかよく覚えてないけどさ。
そんな広さのダンジョンのどこかにある下層への入口が同じ場所に留まってないってなると踏破するのは無茶過ぎるよ。
「それが10階層もあるんですか」
「はい」
世界一周が40000㎞とかじゃなかったっけ?
全部の階層合計したらそれよりも距離があるよ。
それが地下にあるって、どういうことなの。
でもそれを踏破しちゃったひとが居るんだよね、相手の話が本当ならだけど。
それとも潜った場所はここのダンジョンと違って下層の入口が動かないタイプだったのかな?
何にしても相手の体験談が貴重な情報源には違いなかった。
嘘かどうかは私には判断つかないけど、その辺はステヴィアさんが判断してくれるだろうしなんとかなるよね、きっと。
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