024.昨日、引っ越してきました。
ただ知覚しているものが人間と言っていいのかわからない。
確かに人型ではあるのだが、何故か背中に天使っぽく翼があったり、頭から角が生えていたりするのである。
その人物(?)の歩いてきたのは古代文明のある方向だと言うこともあって、昨日ステヴィアさんが対処した相手の仲間っていう可能性も在りそう。
何にしても人型ではあるのには変わりないので、会話を交わしてみる価値はある。
先にステヴィアさんに判断を仰ぐべきか迷ったけれど、彼女が居なければ何もすることが出来ない人間になってしまいそうな気がした私は独断で正体不明の相手に接触を図ることにした。
とは言っても実際に私自身がのこのこと相手の前に出向かうようなことはしない。
もし危険な相手だったらシャレにならないしね。
なのでここは探査蝙蝠に頑張ってもらう。
私は探査蝙蝠の姿を私そっくりに変身させ、相手の元に向かわせた。
相手と出逢った直後に手を打つべく、探査蝙蝠が変身した私に挨拶をさせる。
「おはようございます」
返事はない。
もしかして言葉が通じてない?
と思ったけれど、単に探査蝙蝠とのやり取りに時間差が出てたみたい。
『あー、おはよおさん。お前さん、この辺に住んでる人かい?』
「昨日、引っ越して来たばっかりですけどね」
嘘言うと辻褄合わせとか大変だし、嘘は言わないにしてもホントのことはぼかすようにしとこ。
『そうかい。それはそうとこの辺りに住んでんのはみんなお前さんみたいな感じなのかね?』
「私みたい?」
翼がなかったり、角がなかったりってことかな。
『いやな、どうにもお前さんの声が遅れて聞こえるもんでな。この辺じゃ、そういう喋り方が普通なのかと思ってよ』
やっぱり遠隔操作で私の幻影を喋らせるのは無理があったか。
「あー、これって私だけだと思いますよ」
「ほーん。まぁ、なんだ。聞いていいのかわかんないが、お前さんってもしかして幽霊ってやつかい?」
「幽霊? 私がですか?」
『その口振りじゃ違うみたいだな。にしても変わってんな』
「話し方以外もどこか変ですか?」
『変っつーか、なんつーか。人間じゃねぇっぽいな。生きてる人間から感じるような気配とか微塵も感じねーし、何より匂いがしねーんだよな』
「匂い?」
『そ。お前さんからは体臭も何も嗅ぎとれないんだよな』
魔法を使って話していると明かしてもいいかどうか迷うね。
ステヴィアさんもそろそろ戻ってくるだろうし、切り上げ時かな。
私の幻影を使う際の問題点なんかもわかったし、収穫としては充分だよね。
「臭いを嗅がれるのはちょっと……」
『あぁ、わりぃ。どうにも癖になっちまっててな。昔、相方にも注意されちゃいたんだがどうにもな』
「はぁ、そうなんですね。そのお連れさんも近くにいらっしゃるのですか?」
『いや、随分と前に死んじまったな』
「あ、ごめんなさい」
『んあー、わるい。そうだよな、んなこと聞かされても困るわな。今のは聞かなかったことにしてくれ』
ここまで話してみた感じたと悪い人ではなさそうかな?
「わかりました」
『助かるわ。あたしももうちょい考えてしゃべんねぇとな』
そもそもこのひとは何が目的でここに来たんだろう?
「ひとつ聞いてもよろしいですか?」
『なんだ?』
「ここへはどうやって来られたのですか。崖を越えて来られたなんてことはないですよね? 竜の縄張りになってますし」
『ダンジョンだよ、ダンジョン。近場のダンジョンの最下層にあった転送装置に入ったらこの近くのダンジョン最下層に飛ばされたのさ』
やっぱり崖向こうのどこかにダンジョンが繋がってるんだ。
「あそこのダンジョン、やっぱりどこかに繋がってるんですね」
『まぁ、どこかにゃ繋がってんだろうな。ただ繋がってる先がどこかはわかったもんじゃねぇだろうな』
「繋がってる先がわからない?」
『どうにも転送先が個人個人で違ったみたいでな、一緒に探索してたやつらも転送装置を使ったんだが、どうにも私だけ別の場所に飛ばされたらしくてな』
転送先が定まってないっていうのは正直困る。
転送された先でひとりになっちゃったら目も当てられないよ。
『そんなわけでどうにかあたしの居た遺跡に戻る方法がねぇかと思って情報収集にダンジョンの外に来たってわけさ』
「だったらご期待には添えないかもですね。この辺りでダンジョンの最下層まで到達した人なんて誰も居ないですから」
『そいつがマジなら困っちまうな。崖には竜が居やがるんだろ。だとすっと河沿いに下ってくしかねぇかな』
そういえば河の下流ってどうなってるんだろう?
なんて疑問を抱いていると背後から答えが告げられる。
「それはやめておいた方がよろしいかと」
振り向くとステヴィアさんが居住地跡から戻って来ていた。
「ステヴィアさん、お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
「それはそうとやめておいた方がいいって、どういうことなんです?」
「そちらにも居るんです、竜が」
ステヴィアさんと言葉を交わしていると謎の人物さんの声が割り込む。
『急に一人二役やり始めたのかと思ったが、そういうことか。あたしの目の前にいるお前さんは魔法で造った幻か』
と言った相手は探査蝙蝠の身体を指先で突く。
「この辺りでは見かけない風体でしたので念のため……」
『ま、当然だろうな。あたしもその手の魔法が使えるなら同じことするだろうしな』
気分を害してしまったかとも思ったけれど、相手は別段気にした様子はなかった。




