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023.もしもし、私です。

 ステヴィアさんは居住地跡を前に何やらしているようだった。


 あの雛の観察でもしてるのかな?


 直接出向いて尋ねようかとも思ったけれど、試したいこともあったので私は探査蝙蝠をステヴィアさんの元に近付ける。


 するとステヴィアさんは私が飛ばした探査蝙蝠に気付いたようで、顔をこちらに向けたのを知覚する。


 注意を引けたのがわかった私は、探査蝙蝠を糸電話のように使ってみる。


 音が拾えるんだから届けることも可能だよね、たぶん。


「ステヴィアさん、こんな朝からどうされたんです」


 率直に尋ねてみると少し間があり、通信に失敗したしたかと思ったけれど遅れて言葉が返って来た。


『お早いですね、アン。それにこの魔法』


「あ、うん。ステヴィアさんが糸に繋いだ針を魔法で形を変えたりしてたからさ。私も蝙蝠に糸を繋いだら風属性ならではのことが出来るんじゃないかと思って試してみたんだ」


 ステヴィアさんは口元に手を当てて探査蝙蝠をまじまじと見つめるような姿勢をとる。


『これは私の姿も見えているのですか?』


「ううん、形だけは感じ取れてはいるけど見えてはいないよ」


『アンの魔法は色々と応用が利くようですね』


 口振りからしてアンジェリカさんはこういった使い方はしてなかったのかな。


「何が出来るかわからないから思い立ったら何でもすぐに試していってるからね。でも、使える魔法自体はほとんどこれだけなんだけどね」


『魔法は拡張性があるかどうかの方が重要ですからそれでいいと思いますよ。限定された使い方しか出来ないものは扱いに困りますからね』


「そっか。それなら今の感じで魔法を使えるようになってけばよさそうだね」


『えぇ、そうですね。この上達速度でしたらダンジョン探索に挑むのも、そう遠くなさそうです』


「うん。探知系の魔法はこれで何とかなりそうだけど、問題は私が自分の身を守るにどうしたらってことくらいかな」


『私が絶対の安全を保障出来れば良いのですが、何事にも不確定な要素は付き物ですからね。そういったときに対処出来る手札はいくつかお手元に持っていてくださると私も助かります』


 私としても守られてるだけってのは気が重いし、どうにかサポート出来るくらいにはなりたいけどステータスからしてかなりの差があるから並び立つのは難しいにしても邪魔にはならない程度には立ち回れるようにしなきゃね。


「任せといて」


『はい、期待しております』


「ありがと、期待しといてね。それでなんだけどステヴィアさん、そっちで何してるの? あの黒い雛の様子を観察に?」


『すいません。冒頭に訊かれていたことにお答えせずに随分と脱線をしてしまいました』


 ステヴィアさんは探査蝙蝠を相手に頭を下げた。


「いいよいいよ。別の機会に同じ会話とか今後することもあったと思うし、それを前倒しでやったみたいなものだから話をする順番が変わっただけだよ」


『お気遣い、ありがとうございます。それで先程の質問に関してですが、しばらくこの地に逗留することになりましたし、すぐ側にある居住地が不衛生なままなのも気になりましたので清掃を』


 あの数キロ四方はある居住地跡をひとりで?


「それなら私も手伝いますよ」


『大丈夫ですよ。既に終わりましたので』


「あの、もしかして夜通しでやってたんですか?」


『いいえ、そのようなことはしていませんよ。そんなことをすればアンは気に病むでしょう』


「ですね。でも、そんなにすぐに片付くものなんですか。かなり広いですよね、そこって」


『私が金属性だったからこそですね。金属性は生物には作用しませんので動物たちに遠慮する必要もなく、魔法を広範囲に展開出来ますからね』


 水車小屋を直したときにも屋内のホコリとかを魔法で別の物に作り変えたりとかしてたのかな。


 長いこと放置されてた建物だったのにステヴィアさんが魔法を使った後の水車小屋は全く汚れてなかったもんね。


 珍しい属性だって話だし、あんな能力ちから持ってたら多くの人に協力を求められたりしそうだけどアンジェリカさんとずっとふたりで過ごしてたのかな?


 生まれてすぐはひとりで森の中で魔物たちの観察とかしてたみたいだけど、どうなんだろうね。


「ステヴィアさん、この後は何をする予定なんです?」


『居住地の清掃が終わりましたので、一旦そちらに戻りますよ』


「わかりました。それじゃ、水車小屋で待ってますね」


『では、後ほど』


「うん」


 通話を切って、私は探査蝙蝠をステヴィアさんに追従させながら移動させる。


 それとは別に遠くに放っていた他の探査蝙蝠の拾った音から周辺の地形を把握して、危険な場所が近くにないか確認しながら順々に蝙蝠を消して行く。


 その中の一羽、古代遺跡の方向へと飛ばしていた探査蝙蝠から受け取った情報に眉根を寄せる。


 どうも生き物がこちらに向かって来ているようなのだけれど、その姿が明らかに人型だと私は知覚していた。

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