021.そうそう思ったようにはいかないね。
洞窟を抜け、元来た道を河沿いに遡って行く。
空には夜の帳が下り、前世では拝めなかったような満天の星が頭上で瞬いている。
ただ世界樹の枝で星空がひび割れているように見えるのは少し残念だった。
虫たちの涼やかな鳴き声があちこちから聞こえ、郷愁のようなものを感じる。
前世の私が住んでた場所はコンクリートジャングルだったので、懐かしさを覚えるのも変な話なんだけどね。
近所で虫とかあんまり見かけなかったしさ。
でも、これから80年くらいはこの自然の中で暮らしてくことになるんだよね。
【生命力】の数値を確認したら大体そのくらいだったからさ。
暗算とか苦手だから割と雑な計算なんだけどね。
そういえばステヴィアさんの【生命力】ってどれくらいだったかなと思った私は、前を歩くステヴィアさんのステータスをこっそり鑑定する。
昨日と数値が変わってるのかはわからないけど今の私より1600前後くらい少ない。
ステヴィアさんの見た目年齢って20代半ばくらいだから、その年齢になってからずっと【生命力】が減ってないのかな。
『不死』の才能の詳細を確認したら寿命を迎えることがないみたいな内容だったから【生命力】が減少しなくなってそう。
なんてことをステヴィアさんのステータスを眺めながら思っていたのだけど、技能の項目の最後に▶︎印が付いていてなんだろうかと指先で触れてみる。
すると別のページに移行してステータス画面内に収まりきらなかった技能のリストが表示された。
新たに表示されたステヴィアさんの技能は『暗視』『超感覚』『危機察知』『気配遮断』『自己催眠』『肉体活性』『瞬間再生』『全属性耐性』『状態異常無効』などがあり、いろいろと納得する。
真っ暗な螺旋階段を明かりもなしに行き来出来てたのは『暗視』があったからだとか、正体すらわからない地下から炎の魔法を放った相手を視認したわけでもないのにやたらと険しい顔をしていたのは『危機察知』によるものだったんだろうなってこととかね。
そういったことがわかって私は少し安心した。
楽観的だとは思うけど変に疑い続けてギスギスしたくないもんね。
というか技能ってどうやって覚えるんだろ。
魔法とは違うんだよね?
『暗視』とか便利そうだし、私も使えるようになればいいんだけど。
でもここは吸血鬼っぽく、蝙蝠的な技能とか欲しいよね。
なんて言ったっけ、超音波で周りの地形とかわかるようになるやつ。
確か、イルカとかクジラも似たようなこと出来るんだっけ?
えーっと、そうだエコーロケーションだ。
魚群探知機とかもそれと同じだったよね。
それなら探査蝙蝠で使えたりしそう。
風属性って大気の振動とかも操れるらしいし、超音波出したり受け取ったりするのも問題なさそうだしね。
そんな感じで魔法はそれでいいんだけど、技能の場合は違うよね。
技能ってステヴィアさんのステータス見る限り肉体的なことばっかりだし、私自身が蝙蝠みたいに超音波を感じ取れないと習得出来なさそう。
そんなことやろうと思って出来ることでもないし、難しいね。
取り敢えず意識的に全身で音を感じ取るようにしたらそういう体質になったりしないかな?
なんて安直な考えを実行してみたんだけど、なんだか周囲をさっきまでより鮮明に感じ取れるようになった気がした。
こういったのって思い込みで、そういう気分になっちゃうから不思議だよね。
と思っていたんだけど、どうやらこの世界ではそうじゃなかったらしい。
『【技能】『反響定位』を習得しました』
探査蝙蝠を習得したときと似たメッセージが脳内に響いた。
魔法もそうだったけど技能って、こんなに簡単に習得出来るものなの?
これってもしかしてアンジェリカさんの身体だから物覚えがいいとかそういうことあったりするのかな。
ほら、過去のアンジェリカさんの中に私と同じ魔法や技能を習得してたひとがいて身体が思い出したとかそんな感じだったりしそうじゃない?
わかんないけどさ。
まぁ、理由なんてどうでもいっか。
とにかく使えるようになった。
ただそれだけのことだよね。
使えるようになったんなら有効に使うだけのことだよ。
音波を知覚出来るようになったっぽいからエコーロケーションも自分の身体でやれそうだよね。
超音波を出したりするのは魔法になるけどさ。
螺旋階段で魔力を使い果たしちゃってたけど、あれから時間も経ったし、少しくらい回復してるよね。
試しに私は人間には聴こえない音を出す魔法を使ってみようと魔力をいじくり回す。
魔力は少なからず回復していたようで、1回くらい魔法を試すくらいなら充分そうだった。
試行錯誤の末になんかそれっぽいことが出来そうな予感を得て、早速魔法を行使する。
直後、足元から徐々に視界が広がるような感覚を得るとともに周囲数百メートルを全身で知覚した。
『【魔法】『音波投射』を習得しました』
習得メッセージを受け取り、魔法が成功したのだとはっきりと理解する。
そこまではよかったんだけど、前を歩いていたステヴィアさんが足を止めて両耳を手で押さえて私の方を振り向き尋ねる。
こちらを見つめるステヴィアさんの表情は苦痛に耐えているように見えた。
「アン。今、何をされたのですか?」
「たぶん探知魔法になる、のかな? 跳ね返って来る音で遠くの地形とか潜んでる魔物の居場所を調べたり出来ないかなって試してたんだけど」
「音でですか。その魔法の結果はどうでしたか?」
「成功だったよ。でも、私にはわからなかったけど何か問題あったのかな。ステヴィアさんの身体に悪い影響与えちゃってたりとかさ」
そう尋ねるとステヴィアさんは苦笑した。
「大変申し上げにくいのですが、頭の奥を掻き回されるような音でしたので出来れば……」
私は平気だけどステヴィアさんにここまで言わせちゃったとなるとこの魔法は封印した方がよさそうだね。
「あ、うん。今の魔法は封印するね」
「申し訳ありません。せっかくアンが新たに創り出した魔法だというのに」
「実害が出ちゃうんなら仕方ないよ」
他に使い道があるとしたら『音波投射』を敵対した相手に放って聴覚を滅茶苦茶にするくらいかな。
ひどい耳鳴りとかめまいを起こさせて、その間に逃げたりとかには使える……かも。




