020.私だからこそ出来ることがあるみたいで、よかった……かな。
ステヴィアさんと合流後、居住地跡に移動するために古代文明の遺跡の通路を戻って行く。
入り組んだ遺跡内部を先導するステヴィアさんの後に続いて通路を歩きながら何か引っかかるモノを感じる。
ただそれがなんなのかがわからない。
その答えが出たのは通路を抜けて天然の洞窟に入ってすぐのことだった。
洞窟内は暗く、外はもうすっかり日が落ちているのがはっきりとわかる。
ステヴィアさんは岩壁内のトンネルを抜ける際に使用していた球体の照明を取り出して浮遊させた。
それを目にした私は背後の近未来的な通路に視線を移す。
視線の先にある通路は決して明るいとは言い難いけれど、何も見えないほど暗いというわけでもない。
床・壁・天井は薄ぼんやりとだけれど、きちんと目で模様から色まで把握出来る。
でも照明の類は全く見当たらない。
遺跡自体がほのかに発光してるのかな?
それはそれでいいとして、遺跡内の通路や交配装置があった場所は暗くてちゃんと全体が見渡せないなんてことはなかったのに、螺旋階段があった場所だけは何故か真っ暗だったのである。
私が感じていた違和感のひとつはそれだとして、それと一緒にもうひとつの疑問が浮かび上がった。
螺旋階段を降りた先から放たれた炎に関してである。
私はてっきり螺旋階段のある場所が真っ暗で上にどこまで続いているのかわからないから炎で照らし出したのだと思っていた。
だけれどよくよく考えたら私は初めてあの場所を訪れたから螺旋階段の長さを知らなかったわけだけど、炎を放ったのが人間だったならダンジョンに向かうために一度は螺旋階段を降りているはずなのである。
なんでわざわざ炎で照し出す必要があったんだろう?
もちろんステヴィアさんの話が本当で幼い魔物だったのかも知れないけど、その可能性は今は置いておく。
炎でわざわざ照し出す理由として考えられるのは、以前は通路と同様に螺旋階段のあった場所も明るかった可能性。
それに関しては正直なところ微妙な気がする。
螺旋階段は探査蝙蝠が到達していただけでも300m以上もの深さがあった。
基本的に遺跡内部全体の壁や床自体が発光していたわけだから螺旋階段のあった部屋全部に誰かが手を加えて照明を使えなくするなんてのは現実的じゃない。
しかも古代文明の遺跡って魔法の効果を受け付けないらしいからステヴィアさんの魔法『錬成』とかでも出来るとも思えないんだよね。
だから遺跡が造られた時から照明なんてなかったんだと思う。
遺跡を造った人達が何を意図してそうしたのかはわかんないけどさ。
その辺りを考えるとダンジョンに向かった人が炎の魔法で螺旋階段を照し出すのは不自然な気がする。
螺旋階段の長さを知ってるならわざわざ吹き抜けに炎なんて放たずに自分の見える範囲だけを照らして階段を地道に昇って来ればいいんだしさ。
途中で疲れて残りどのくらいかなって考えて炎を放ったなんてこともありえるけど、あの炎って吹き抜けのど真ん中を真っ直ぐに昇って来てたんだよね。
たぶん一番下、地下の中心に立って真上を見上げて炎を放ったんじゃないかって思うんだ。
私の探査蝙蝠みたいに途中で向きを変えたりとかしてたかもだけど、今は細かいことは考えない。
そうなって来るとさ、あと考えられる理由って私と一緒で初めて遺跡の螺旋階段を訪れていた場合なんだと思うんだよね。
もしこの考えが正解だったとしたら、地下から炎の魔法を放った人物は別の場所からここのダンジョンに抜け出てきたんじゃないかな。
それも岩壁を越えた場所からね。
だとしたらダンジョンを潜るっていう方針は間違いじゃないのかもしれない。
竜に監視された土地から抜け出た先にアンジェリカさんの身体が抱えた問題を解決することの出来る古代文明の遺跡が存在している可能性は充分にありえそう。
ただ気になるのは先代の好奇心旺盛なアンジェリカさんがダンジョン探索をしなかったとは思えないのが気掛かりなんだよね。
なんだかよくわからない超科学満載な古代文明の遺跡が目と鼻の先にあったのに挑まなかったとは思えないけど……もしかして私が持ってないこの世界の知識を持ってたら別段珍しいものでもなかったのかな古代文明の遺跡って。
わかんないな、手っ取り早く聞こっと。
「ステヴィアさん、ちょっと聞きたいんですけどアンジェリカさんってダンジョンに潜ったことはないんですか? 探究心が旺盛だったっていう先代のアンジェリカさんとか特に興味を示しそうな気がするんですけど」
「確かに先代のアンジェリカ様も一度はダンジョンに挑まれましたね。私もお伴したですが、数年間探索しても最終階層にまで到ることは出来なかったんです。余りにも広大な空間が何階層にも渡って続いていますし、下階層への入口は決まった場所に留まっていませんでしたので」
数年間も迷うってダンジョンどれだけ広いのさ。
「え、そんな場所に行って、よく戻って来れましたね」
「それなんですが、帰りの通路は必ず壁面に存在して居ますのですぐに見つけられるんです」
「帰りは問題ないんですね。でも、数年かかっても一番下まで行けないってなるとちょっと考えちゃいますね」
「それなら大丈夫だと思いますよ」
何か根拠があるのかな?
下階層への入口がダンジョン内を移動して回ってるなら地図あったとしても意味なさそうだし、私には他に方法なんて思い付かないな。
「何か理由があるんですか?」
「アンが風属性だからですよ。風は全属性の中で最も探知能力に長けているんです。ですからアンが広範囲を探知する魔法を扱えるようになれば、戦闘さえ避けられたなら最速でダンジョンの最下層に到達するのも不可能じゃないはずなんです」
先代のアンジェリカさんは無属性だったから最下層にまで到達出来なかったのね。
「それって私の魔法の上達次第でダンジョン踏破出来るかどうかが決まるってことです、よね」
「そうなりますね」
ステヴィアさんは、ただ一言それだけ言って微笑んだ。
何とも言えない圧を感じた私は「あははは……」と力のない笑い声を暗い洞窟内に響かせた。




