013.たぶんソックリさんです。
アンジェリカさん(仮)の容姿を客観的に目した私は、どこか納得をしていた。
正直なところ私がアンジェリカさんの身体を乗っ取ったような状態にあるという話を聞いて以降は、今の顔を鏡などで直接見るようなことは避けていた。
写真のように客観的にアンジェリカさんの姿を見れるならまだしも鏡などで私ではない誰かの顔を私として目にしていたら私は本当に私なのかわからなくなりそうな気がしていたというのが大きい。
自撮りならまだしも他人の撮った写真なら自分の写真だったとしても『これって本当に私?』くらいには思えるからね。
ほら、写真写りが微妙な卒アルとかそんな感じじゃん。
なんてことは今はもういいとしてアンジェリカさんは前世の私とそっくりだったわけですよ。
これってアレだよね、世の中には同じ顔をした人が3人は居るってやつだよね。
いや、アンジェリカさんは私とは別世界の人だからそれと一緒かは微妙だけど、私がなんでアンジェリカさんの身体を乗っ取るようなことになったのかはなんとなく納得出来た。
なので今はそれを一旦横に置いて写真をステヴィアさんに見せ、尋ねる。
「ステヴィアさん、この写真──」
そこまで言った辺りでステヴィアさんは私の言葉に被せるようなして答える。
「これはアンジェリカ様とステヴィア様ですね」
ステヴィアさん自身が写っているらしいのに、どこか他人のような物言いに首を傾げる。
その理由を補うようにステヴィアさんの言葉は続く。
「その写真は私とアンジェリカ様が出会う切っ掛けとなったもので、アンジェリカ様の隣に写っているのは私ではないんですよ」
ステヴィアさんのソックリさんということだろうか?
私もアンジェリカさんのソックリさんだったのでなくもないのかな。
ステヴィアさんは写真写ってる人のことをステヴィア様なんで呼んでるし、名前まで一緒だなんてかなりの共通点多いよね。
「ステヴィアさんもアンジェリカさんと同じで生まれ変わってたりしてるんですか?」
「いえ、そういうことではありませんよ。私は才能もひとつしか持ち合わせていませんからね。生まれ変わっているのであれば才能をふたつ持っているそうですので」
「それじゃあ、私とアンジェリカさんと同じで写真のステヴィアさんのソックリさんってことなんでしょうか」
そんなことを尋ねるとステヴィアさんはしばし考え込んでいた。
「アンはアンジェリカ様と似ていらっしゃるのですか?」
「この写真に写ってる子がアンジェリカさんで間違いないなら子供の頃の私とそっくりですね」
「そうですか、そうでしたか」
ステヴィアさんはどこか感慨深く、ひとりごちた。
それから深く熱い吐息をもらしてから私の方をどこか優しげな表情で見つめてくる。
「もしかしたらアンは月の世界で夢見ていた本物のアンジェリカ様だったのかもしれませんね」
ステヴィアさんの瞳は私ではなく、アンジェリカさんに対して熱い眼差しを送っているようで居心地が悪い。
アンジェリカさんではなく、私を優先してくれると言っていた彼女の言葉はすっかりどこかへ消え去ってしまっていた。
「もし、もしそうだったとしても今の私はアンです。アンジェリカさんじゃないですよ」
「申し訳ありません。そういう約束をしたのでしたね」
私の否定的な発言を受けたステヴィアさんの瞳は動揺を示すように揺らいでいた。
そんな様子を目の当たりにして私自身が受け付けられないということ以上に、ステヴィアさんの考えを受け入れるのは、かなり危うい気がする。
アンジェリカさんの存在を通して私とステヴィアさんが共依存の関係になるのは、私がアンジェリカさんの身体が抱えている問題を解決出来ないままこの世界を去ってしまったときにどうなってしまうかわかったものではなかった。
考えもなしにしてしまった私とアンジェリカさんと似てるって発言は完全に失敗だった。
訂正しようにも既に手遅れであることは否めない。
私がアンジェリカさんの生まれ変わりでない根拠を示せるようなものがあればいいんだけど……と深々と考えてふと気付く。
「ステヴィアさん、私思うんですよ。私がアンジェリカさんと似てたってことは、私の前にアンジェリカさんになった人達もアンジェリカさんと似てたんじゃないかって。それにステヴィアさんも写真の子と似てますけど、生まれ変わりってわけじゃないんですよね?」
「そう、ですね」
ステヴィアさんは目に見えて落胆していた。
「ごめんなさい。私とアンジェリカさんが似てるなんて変なこと言ったばっかりに」
「いえ、気になさらないでください。私が勝手に思い込みで先走っただけですので。故人は故人なのだと受け入れられていない私の弱さが原因ですからアンが謝る必要はありませんよ」
しばしの沈黙の後にステヴィアさんはつくった笑顔で告げる。
「先を急ぎましょうか、野外で夜を迎えるのは危険ですから」
「ですね」
私はステヴィアさんが数歩先に進むのを待ってから彼女の背中を追った。




