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010.魔法ってなんなんだろうね?

 ステヴィアさんは何もない中空からちいさな球体を取り出すと前方に軽く放った。


 すると球体は彼女の数メートル先で静止し、発光する。


 あれって、この世界での懐中電灯みたいな道具なのかな。


 なんてことを思っている間に階段に足を踏み出していたステヴィアさんの後を慌てて追う。


 光る球体はステヴィアさんと一定の距離を維持したまま浮遊して足元を常に照らし出してくれている。


 どんな仕組みで宙に浮いてるのかもわかんない謎技術に関心しながら階段を黙々と降りて行く。


 かなり長いこと階段を降りているけれど、終わりはなかなか見えてこない。


 ふとどれくらい進んだのか気になって背後を振り返ると私たちが降りて来た階段は途切れ、のっぺりとした岩肌に通路が塞がれていた。


 超技術過ぎて意味がわからなかった。


 なんでもありだね、魔法って。


 私は少し足を早めてステヴィアさんの隣に並ぶ。


 トンネルの感じからしてずっと一本道みたいだから周囲を警戒してステヴィアさんの後ろを歩かなくても問題ないだろうしね。


「ステヴィアさん、このままこのトンネルを通ってコウノトリまで行くんですか?」


「このまま遺跡付近まで行ければ危険も少ないのですが、ある程度進んだら森に出ます。私の魔力も枯渇してしまうでしょうし、それに加えて魔法の干渉を受けない場所が所々ありますので」


「魔法が使えない場所もあるんですね」


「使えないというわけではなく、効果を発揮しないと言った方が正しいかも知れません。古代文明と関わりのある土地には特殊な加工が施されているらしく、魔法の効果を受けないのです」


 超技術としか思えない魔法を無効化することが出来るなんて古代文明ってなんなんだろ。


 魔法も古代文明の人達が創ったモノだったりするのかな?


 私も使えたら便利そうだけど、魔法というものがそもそもよくわからない。


「私も魔法って使えるんですかね。ステータスの【魔法】項目には何もなかったんですけど」


「使えるはずですよ。ステータスに何も記されていないのはアンが魔法を使用したことがないからでしょうね。魔法や技能スキル才能タレントと違って肉体にではなく、魂に刻まれる情報ですから過去のアンジェリカ様達が使用されていた魔法などはステータスから削除されているのだと思います」


「それなら私にステヴィアさんの使っている様な魔法を教えてください。何もしないで歩いてるだけなのもなんだか時間が勿体無く感じちゃって」


「お教えするのは構わないのですが、アンの属性は私と同じ金ですか?」


「ううん、風だよ」


「風ですか。それですと私と同じ魔法を使うことは出来ませんが、3代目のアンジェリカ様が使用されていた魔法に関することをお伝えするくらいなら」


 てっきり魔法でならなんでも出来るのかと思ったけど属性ごとに出来ることって違うのね。


「風だと何が出来るの?」


「大気に働きかけて風を起こしたり、周辺地形を把握したり、空気を振動させて離れた場所で音を鳴らしなりなどでしょうか。あとはそうですね空中に幻影を創り出すなんてことも出来たはずです」


 逃げ隠れしたりするのには便利そうだけど、ステヴィアさんの魔法みたいに生活の中で活用してくのは難しそう。


「どうやったら使えるのかな?」


「私とは属性が違いますので具体的な感覚をお伝えするのは難しいですが、風の場合は大気を身体の一部として認識して空間知覚を拡張する様に働きかけるイメージでしょうか」


 漫画とかでよくある自然と一体になる的な感じなのかな。


 身体からオーラ的なモノが出てたりして、それが眼に視えたらわかりやすそうだけど。


 そんな私のイメージが反映されたのか身体からもわもわと白い湯気の様なものが溢れ出した。


 なんか冬のお風呂上がりみたい。


 幻影が創れるとかって話だったし、コレがそうなのかな?


 それならと形にしたいものを思い浮かべる。


 すると私の前に丸々とした体型のマスコットめいたコウモリが現れ、ちいさな羽をパタパタとさせて飛んでいた。


 ほら、私って吸血鬼だからやっぱりマスコットとか出すならコウモリかなって。


「上達が早いですね、アン」


「魔法と相性がよかったのかも」


 ステータスも魔力の項目だけ他より飛び抜けてたしね。


 私はコウモリをトンネルの先に飛ばす。


 十数秒後、壁にぶつかったのかコウモリが消えしまったのを感じた。


「そろそろ外に出ましょうか、魔法で干渉出来ない地域に入った様ですので」


 私の飛ばしたコウモリが消えちゃったのもそれが理由かな?


 そこから数段降りると階段は終わり、トンネルは平坦なものとなる。


 突き当たりまで真っ直ぐ進み、左に一度折れると大きな両開きの扉の正面に出た。


 私達が近付くと自動で扉が開く。


 扉向こうには鬱蒼とした樹々が生い茂る景色が広がっていた。


 どこからともなく得体の知れない鳥や虫の鳴き声が聴こえてくる。


 少々不気味に感じ、足を止めているとステヴィアさんが数歩先に進んでから振り返って手を差し出す。


「大丈夫ですよ、私が居ますから」


「うん、頼りにしてる」


 私は差し出された手にちょこんと軽く触れ、未知なる外の世界へと一歩踏み出した。

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