初等部1年Bクラス 山本千鶴(やまもと ちづる)
今日は、魔法の実習日です。
私たち初等部の1年生は、入学したてということもあり、まだまだ魔法をうまく使えません。
ですが、スタンビートというものが発生するということで、普段よりも多く魔法の実習を入れているそうです。
少しでも早く魔法をうまく使えるようになりたいと思っていたので、とても嬉しいです。
同じクラスの加奈ちゃんや、智香ちゃんも嬉しがってます。
私たち三人は昔からの友達です。
加奈ちゃんはとても元気な女の子で、智香ちゃんは静かだけどとても賢い女の子。
そんな二人と一緒に、学園近くの森に向かいます。
魔物と戦うときは最低でも三人一組で行うように、というルールが決められています。
それもあって、魔物と戦うときはこの二人がいつも一緒にいます。
「今日はどんな魔物だっけ?」
「確か、鳥型の魔物が近くで発見されたと聞いてます」
実習では、それぞれのグループで目標の魔物が違います。
魔物の取り合いもなく、それでいてしっかり魔法の練習もできるため、一石二鳥なんだそうです。
ちなみに、ここの森に出てくる魔物くらいだったら、そこまで苦にもならずに倒すことが出来ます。
「鳥型かー。じゃあ、遭遇したら二人に任せようかな」
そんなことを言う加奈ちゃんですが、実は遠距離の魔法を使うのは苦手みたいで、そういった魔物は大体私たち二人に丸投げにしています。
「加奈ちゃんは、ちゃんと練習しないとダメだよ」
そう言ってたしなめますが、多分無理かなぁ。
ずっとこんな感じだし。
「待って、何か聴こえる」
智香ちゃんの言葉で歩みを止めます。
もしかしたら、魔物の足音とかかもしれません。
「こっち、ついてきて」
智香ちゃんの先導で森を進みます。
「………た………けて」
小さな声だけど、私にも聞こえました。
これはそうとう緊迫した状況なようです。
加奈ちゃんと智香ちゃんに目で合図を送り、声の方へと駆け出します。
そこには、魔物に襲われている女性がいました。
色々と考えている余裕はありません。
『炎よ、矢となりて敵を貫け!』
呪文を唱え、魔物めがけて魔法を放ちます。
「逃げられたっ!」
加奈ちゃんが叫びました。
けど、魔物と女性を引き離すことには成功したようです。
すかさず、間に割って入ります。
女性の方を見る限りでは怪我はしてないようで安心しました。
智香ちゃんが女性に話しかけようとしているので、大丈夫だろうと判断して魔物の方に目を向けます。
「あれはターゲットの魔物で間違いないよ」
「オッケー。私に任せて」
そう言うと、加奈ちゃんは魔物に向かって走り出しました。
加奈ちゃんの支援をしつつ、魔物が女性の方に行かないように注意を払います。
ふと、智香ちゃんの声がしないことに気が付きました。
女性を落ち着かせるために何かしらの話をしているはずなのに、一切話し声が聞こえてきません。
そんなに離れていないのに、おかしいです。
気になった私は、そっちに目を向けました。
この行動は、はたして運が良かったのか。
それとも気づかない方が良かったのか。
目の前に映し出された風景に、頭の中が真っ白になっていきます。
「智………香………ちゃ………ん?」