西園寺家令嬢付きメイド 増田佳奈子(ますだ かなこ)
三回目のスタンビートは、とうとう街を飲み込み始めました。
私の主人である西園寺波奈様は、赤く染まりつつあるそれをヘリコプターから悔しそうに見つめています。
今は、この街から離れるための準備をしているところです。
これは、お嬢様のお父様である西園寺家当主の意向です。
最初は反対していたお嬢様でしたが、最終的には、渋々ではありますが了承されていました。
噂では国連軍は壊滅、学園の生徒も半数以上を失ったとか。
事実かどうかは分りません。
が、魔物がここまで来てしまっているということが、それの信憑性を裏付けています。
『魔法は脅威ではあるが万能ではない』
とある科学者の晩年のセリフが頭に浮かびました。
それを、まざまざと実感させられています。
「運転手!離陸までの時間は!?」
そう聞くと、五分だと返事が返ってきました。
この場所も、そろそろ危険が迫ってきています。
外で西園寺家の私兵が戦っているとはいえ、スタンビートの数に押されてしまえば、あっけなく崩れてしまうでしょう。
五分という短い時間が、やけに長く感じられます。
「離陸可能です!」
私兵を飲み込んだ魔物たちが姿を現したのは、そのセリフと同じタイミングでした。
「私が時間を稼ぎます!すぐに離陸して下さい!」
そう言って、ヘリコプターから飛び降ります。
「佳奈子っ!」
お嬢様が私を引き留めようとしますが、それに応えることはできません。
「お嬢様、どうか私の分まで強く生きて下さい」
言いたいことはたくさんありましたが、時間がそれを許してくれません。
「佳奈子ーーーっ!」
ヘリコプターが遠ざかっていく音に、お嬢様の叫び声が交じって聞こえてきます。
たくさんの思い出が、走馬灯のように頭をよぎります。
泣きたくなるのを我慢し、近づいてくる魔物たちを睨みつけます。
「私は西園寺波奈様のメイド、増田加奈子!お嬢様の為なら、この命、喜んで差し上げましょう!」
そう叫び、魔物の群れへと飛び込んでいきます。
これでも魔法使いの端くれ!
ただでは殺されません!