理事長 橘 朱里(たちばな あかり)
「………以上が、ここ数カ月で起きた魔物の発生状況です」
その報告を聞き、私は思わず顔をしかめた。
「やっぱり、避けられそうもない………か」
それまで散発的だった魔物の発生が、この一年で徐々にではあるが増えてきている。
それが意味することは、魔物の次のターゲットがこの地になったということだ。
これまでも、世界各地にあった魔導学園が同じ状況になって消滅している。
「現在の状況ですと………」
「早ければ、あと一カ月後にはスタンビートが来るわね」
「………」
報告者は訂正も肯定もしない。
あれに気づくのはほんとに難しい。
異変に気づいたときには終わってしまっているも同然だ。
早めに気づけば対策できるかどうかと言われれば、それはまた別の話だけど。
とはいえ、このタイミングで気づけたのは、ひとえに彼女のおかげだろう。
「まぁ、あなたの命は最優先保護事項だと上から言われているから、安心してもらってもいいわよ」
そんなセリフが気に入らなかったのか、彼女は顔をしかめる。
「………理事長はどうなされるんですか?」
「私?そうねぇ………」
顎に手をやり少しだけ考える。
「脱出用のヘリは、外に準備させてるわよ」
「なっ………!」
彼女をここに連れてくるかわりに出された条件が、その生命を優先させるというのだから、従うほかない。
それに、私がここでどうなろうと、彼女に教える必要はないだろう。
「次はヨーロッパ連合国か、北アメリカ連合国か………。どっちに行くにしろ悪い扱いは受けないでしょうよ」
これで話は終わりだと言わんばかりに、報告者から目を背ける。
「………っ」
まだ何か言いたそうだったが、諦めたようで報告者は部屋から出て行った。
扉の閉まる音を聞いて、ため息をついた。
「とりあえず、生徒会長の呼び出しに市民の避難準備………やることが山積みだわ」
なんとなしに窓から外を見ると、嵐の前の静けさのような平穏がそこにはあった。