黒幕
「アララ、破壊されてしまったか」
屋敷を見下ろす山の上から、リリスが一部始終を見ていた。
マカ達が来ることを予想し、一足先に逃げ出していた。
あの屋敷を『マスク・ドール』に任せ、四人相手にどのぐらいまで戦えるか見物していたのだ。
「さすがマカ先輩、わたしのお人形を傷付けることができるなんて…」
「だからと言って、ボクのマカを狙っちゃぁ困るなぁ」
リリスのすぐ後ろに、マノンが現われた。
「アラ、はじめましてね。マノン先輩?」
「同じ学校にも通っていない上に、年上にそう呼ばれるとムカつくからやめてくんない? それと―」
マノンは黒き影を大きく動かし、リリスを威嚇した。
「マカには手を出すなよ? アレはボクの獲物だ」
「ちょっと難しい相談ね。わたしも彼女が狙いで、日本に来たようなものだし」
そう言ってクスクス楽しそうに笑う。
「…やっぱり最終目的はマカだったか」
「ええ。彼女の力と存在はとても大きい。わたしのお人形になってもらえれば、とても喜ばしいことだったのだけど。やっぱり試作品ではムリだったわね」
「それはキミ一人の意思? それとも…魔女の一族が望むこと?」
「どうかしら? でも彼女の地位も魅力的だけど、やっぱり力が一番ね。枯れぬことのない力を生み出す存在は稀であり、貴重。…でも今は何かしらの制御を受けているみたいね。全力では戦えないみたいだし」
ふとリリスの表情が曇った。
マカが全力で戦えたのならば、『人形』はすぐにでも破壊できただろう。
しかし戦闘を見ていた時に気付いたのだが、どうも上手く力をコントロールできていないようだった。
「姉さんの力は強力だ。まだ彼女自身でもコントロールできていないんだよ」
「…まあそういうことにしときましょう」
すぐにリリスは笑顔を浮かべる。
「お話は済んだかしら? お二人とも」
そこへマリーが現われた。
人間の姿で。
「あら、お久し振りね。マリー」
「ええ、リリス。また珍しい再会よね。異国の土地で会うなんて」
「そうね」
マリーはマノンに視線を向けた。
「あなたの用事は済んだのでしょう? ならもう帰るべきだわ。もうすぐ陽も昇るしね」
マリーの言う通り、すでに空は白くなり始めている。
マノンは失笑すると、影を操った。
「まっ、今日はここまででいいか。でも忠告はしたよ? 次があれば、絶対に見逃さない」
声と表情に静かな怒りを込め、マノンは姿を消した。