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「そうだな」
マカは右手を上げた。
黒い模様が浮かび上がり、宙に浮き、黒き剣となった。
「やれやれ…。こんなのを相手にするとはな。人生何が起こるか分からないものだ」
「何が起こるか分からないからこそ、おもしろいんでしょ?」
「否定はしないが、賛成もしかねるな」
「お二人とも、避けてくださいね!」
ナオが二丁拳銃に気を込め、『人形』に向かって打つ。
パンパンッ!
しかし『人形』は軽く飛び上がり、両手・両足を恐るべきスピードで回転させ、弾丸を弾いた。
そして弾かれた弾丸は、マカとルナのいる方向に飛んできた。
「のわっ!」
「ぎゃあっ!」
二人はくしくも、ナオの言った通りに避けた。
「そんなっ!」
自分の放った弾丸が弾かれたことに、ナオは呆然とした。
その隣でカルマが鎌を構え、『人形』に降りかかった。
ガキンッ!
しかし腕一本で、鎌は防がれてしまう。
「くっ! 思ったより、固いですね」
カルマが苦心の表情を浮かべる。
「おいおいっ。昨夜ヒミカが戦った時より、強化しているのか?」
「かもしれないわね。でもあの後、狩りはできなかったはずだから、やっぱり一皮剥けたことによって、より強力的になったってことでしょうね」
「じゃあお前のせいじゃないかっ!」
「まさか一皮剥けるなんて思わなかったのよ! 昔はそんな性能無かったし!」
マカとルナが喚いている間に、カルマが徐々に押されてきた。
「くぅっ!」
ついには押し負け、鎌は弾かれる。
それとほぼ同時に、『人形』のもう一本の手がカルマに襲い掛かった。
「カルマっ!」
ルナが慌てて糸を伸ばし、『人形』の体に巻きつけた。
カルマはその隙に、『人形』から距離を取った。
糸は幾重にも『人形』の体に巻きつくも、今度は四肢の刃が糸を切り裂き始めた。
「うそっ!? 昨夜は通じたのに!」
仰天するルナだが、糸はあっと言う間に切り裂かれ、『人形』は自由になった。
「おいおいおいっ! ウチの血族特製の武器が、何一つ通用しないなんてありえるのか!」
「目の前のことを、現実として受け取るならありえるわね」
さすがにマカも目を丸くしている。
「おい、まさかと思うが…。あの『人形』、対血族用に作られたんじゃないだろうな」
「…かもね。そういうふうな仕様になっているのは、まず間違いないでしょう」
「チッ! 魔女どもめ! 忌々しいのはその存在だけにしといてほしいものだな!」
マカの目が赤く染まり、握る剣に気を込める。
そして『人形』に向かい、剣を振りかざした。
ガキンッ!
またもや腕一本で防がれる。
「なめるなよ!」
剣により強力な気を込める。
徐々に『人形』を押していき、ついには腕にヒビが入った。
それをチャンスと見たマカは、一気に力を入れた。
バリンッ
腕は砕け散った。
マカは『人形』の胴体を蹴り、元の位置に戻った。
「やったじゃない! マカ! あなたの力なら、通じるわ!」
「それが…そう上手くもいかない、んだ」
戻って来たマカは、激しく力を消耗していた。
「まさか…腕一本破壊するだけでっ、こんな…」
ふらつくマカの目から、赤い色が消え始めている。
「ちょっ、ちょっとちょっと!」
慌ててルナが駆け寄った。
「コレじゃあヒミカを連れてきても、同じだったな。パワーやスピードが上がっていちゃあな」
しかしマカは気力を振り絞り、立ち上がる。
「ルナ。魂が収容されているのは、あの胴体か?」
「えっええ、昔と設計が変わっていないのなら…」
「しかしあの胴体の方が、固そうだな」
額から溢れ出る汗を拭い、再び剣を構える。
そして『人形』の胴体を狙って剣を振るうも、もう片方の腕に止められ、足で蹴られそうになり、『人形』から離れざる終えない。
「ルナ! やつの残った手足の動きを止めろ!」
「分かったわ!」
ルナの手から3本の糸が伸びて、『人形』の腕一本と両足に絡みつく。
「よし! カルマ、行け!」
「はい!」
カルマが鎌を胴体に向かって振るう。
しかし予想通り、刃は傷一つ付けられなかった。
「くぅっ!」
刃を胴体に当てるも、引くことができない。
「やっぱり私でなければダメか…。カルマ、引け!」
「はい!」
カルマはすぐさま後ろに引いた。
入れ替わるように、マカが剣を胴体に当てた。
ガンッ!
剣は少しだけ、胴体に入った。
「やあああっ!」
思いっきり気を込め、剣を引く。
バキバキッ
胴体に少しずつ割れ目が広がる。
「マカっ! 逃げて!」
しかしルナの糸が切られ、『人形』の腕がマカに振り下ろされた。
「「マカさんっ!」」
カルマとナオの声が、悲鳴のように響いた。