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翌朝

「『マスク・ドール』? 何じゃそりゃ」


「18世紀頃かしらね。造られたのは」


翌朝、ソウマの店にはマカとルナ、そしてヒミカとキシが集まった。


ルナはソウマが出したイチゴのゼリーを食べながら、遠い目をした。


「最初に造ったのは、女性だったと言われているわ。何でも彼女は自分の美貌が自慢だったんだけど、病気でその美貌も崩れちゃったみたいでね」


当時、皮膚にまつわる病気が流行っていたらしい。


「それで恨みと怨念を込めて、例の『人形』ことマスク・ドールを作った。元々が人形を作る家だったみたいでね。彼女もそこそこの腕の持ち主だったというわ」


「で? 何で造った人形が、ああなった?」


「どうも彼女は魔女だったらしいわ。マスク・ドールは力を得て、動き出したの。当時は今と同じように、顔剥ぎ殺人事件が多発したらしいわね」


「魔女…」


マカは口の中で呟き、険しい顔をした。


「当時わたしは用があって、イギリスに住んでたの。そこでマスク・ドールのことを知ってね。討伐に力を貸したのよ」


「イギリス…。魔女の本家本元ね」


ヒミカも難しい顔をしている。


「ええ。でも当時はあんな立派なモノじゃなかったわ。木製だったしね。わたしの糸と炎で倒せたんだけど…まさか最新式になって、よみがえっているとはね」


参ったというように、肩を竦めるルナ。


「でもその『人形』の造られた意味はなんですか?」


キシが苦笑しながら、ルナに問いかける。


「彼女は自分以外の美貌の持ち主と、才能ある女性を妬んだ。その嫉妬心がマスク・ドールに宿り、そういう女性を狙うようになったの。顔剥ぎはその嫉妬の為、魂はマスク・ドールの動力源として吸い取られてしまうの」


「ならマスク・ドールを破壊すれば、魂は解放されるんだな?」


「マカの言う通り、と言い切りたいけど…ちょっと難しいのよ。何せ魂を直にエネルギーとしているからね。かなり魂に傷がつくみたいで、完全に直るのに時間がかかるみたい」


マカは眉間を指で押さえた。


「…どっちにしろ、破壊するしか道はないだろう。問題は現代の製造者だな。恐らく、当時の『人形』の設計図が残っていたんだろう。誰が何の為に復活させたのかは知らないが、ほっとくわけにもいかないだろう」


「そう、ね。でも目的ならば、ちょっと想像がつくわよ」


「何だ? ルナ」


「能力者を作る為、よ。しかも美しく、才能がある能力者を人工的に作るつもりなんでしょう」


「能力者? だが形は人外なんだろう?」


「だから顔が必要なのよ。どういう造りかは知らないけれど、あのマスク・ドールの名はただの通り名じゃないわ。顔を剥いだ後、マスク・ドールは自分の顔に貼り付けるの。そうするとその人物そっくりになれるのよ」


「はあっ!?」


「そして顔の持ち主の記憶も才能も全て、自分の物にしてしまう。そこが一番恐ろしいところね。当時は被害者の体も上手く隠されてて、見つけるのに苦労したもの」


「つまり…被害者に成り代わってしまうのか?」


「…ええ。だから仲間だと思っていても、いつの間にか入れ替わっている可能性があったの。前回は囮捜査で何とか見つけられてものだし」


「それは昨夜、アタシがやったわ。…まあ何にせよ、能力者を作るってのは分かるわね。顔と共に魂も奪って、より強力な能力者を造るのか…。でも魔女がそんなことをして、何をするつもりなの?」


「さあね。魔女の知り合いはいないことはないけど、あんまり関わりたくないもの」


「同感だ」


ルナとマカはイヤそうな顔をした。


「だが今回のマスク・ドールは被害者の体をそのまま放置しているな。成り代わりができないんじゃないのか?」


「でも時間が経ち、他の土地でなら通用するわよ。恐らく一通りの顔を集めたら、身を潜めるでしょう。その前に、狩らなきゃこちらの負けよ」


「~~~っ! どっかの愚弟と重なるだけ、腹が立つっ!」


愚弟と言う言葉に、全員が失笑した。


マカはぐしゃぐしゃと頭を掻き毟ったが、ふと我に返った。


「どれだけのノルマがあるのかは知らんが、かなりの数の被害者は出ている。そろそろ終わるかもしれないし、こちらも全力で取り組もう」


「そうね」


ルナも慎重な面持ちで頷いた。


「でも具体的にはどうやって? 昨夜みたいに囮捜査は通用しないんじゃないの?」


ヒミカは腕を組み、眉をしかめた。


「囮捜査なんて必要ないわよ。糸はまだ切れていないしね。たどっていけば、マスク・ドールに当たるでしょう」


ルナは人差し指を立てる。


「そこで製造者に出会えればいいがな」


マカは深く息を吐いた。


「まあ本当は出会わない方がいいかもなんだけどね。魔女の使う魔法は、こっちの世界じゃ分からないものばかりだから」


「むぅ…。しかし動いているのは、実際一体だけなのか?」


「多分ね。あのマスク・ドール、動かすにはかなりの魔力を消耗するらしいから。最初の製造者である女性も、最後は魔力を搾り取られて亡くなったわ。見つけた時はミイラになっていたもの」


「…まあグダグダ考えてても仕方あるまい。とにかく糸が切られる前に、決着をつけよう。今晩はルナ、頼むぞ」


「はいはい」


「ちょっと待って。アタシだって戦力になるわよ」


「ヒミカ…」


キシが心配そうにヒミカを見る。


「お前はダメだ。昨夜、歯が立たなかったんだろう?」


「それはっ…!」


「それにお前とキシには調査のみを頼んだ。戦闘は頼るつもりはない」


「…じゃあマカとルナだけで行うつもり?」


「予防線として、カルマとナオを呼ぶつもりだ。二人の戦闘能力はお前よりは上だ」


「マカっ!」


ルナに叱られるも、マカは真っ直ぐにヒミカを見る。


「…分かった。それじゃあアタシとキシは帰るわね」


「ああ」


「でっでは、後はお願いしますね」


ヒミカはキシの腕を掴み、店を出て行った。


「ヒミカ…」


「いいの。分かっているから」


心配そうに自分を見るキシの視線を感じながら、ヒミカは俯いた。


「アタシの力は、血・肉を食しなきゃ発揮できないもの。しかもあれだけの強敵相手じゃ、それこそ大量に食さなきゃならない。…マカはそこを気遣っているんでしょう」


「ヒミカは血・肉を食することを、嫌っていますもんね」


キシはヒミカの手を握った。


「…ええ。だから外されたのよ。それにカルマやナオが戦闘タイプなのは本当のことだしね」


「ボクは正直、ほっとしてますよ」


「えっ?」


驚いて顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべたキシの表情があった。


「昨夜も正直なことを言えば、あなたを止めたかったんです。でも聞いちゃくれないでしょう? だから行かせたんですけど、心臓に悪いんですよ」


「だって…アタシの仕事だし」


「ええ、存じていますよ。だから協力しているんです。でも本音を言えば、危険なことをしてほしくないんです。恋人としても」


ヒミカは顔を伏せ、キシの手を握り返した。


「だから戦闘から外されて、ボクは嬉しいんです。きっとマカさんもそれを分かってて、ヒミカを外してくれたんだと思います」


「…多分、ね。それとアタシの力不足が原因ね」


「ヒミカ…」


困り顔をするキシに、ヒミカは苦笑して見せる。


確かにキシの言う通り、心配という理由もあるだろう。


しかしヒミカは血・肉を食しなければ、力を振るえないという欠点がある。


しかも時間が経過するうちに、その力も薄れてしまう。


長い時間の戦闘が不可能なので、外されたというのあるだろう。


マカは多くを語らない。


語ることを、自ら封じてしまっているからだ。


そんな彼女を不憫に思う反面、信用されていないのかとも思ってしまう。


血族の幹部達は、次期当主であるマカの片腕にとヒミカを望んでいるらしい。


力では大きなハンデを持つヒミカが望まれているのは、マカのそういう部分を察してやることができるからだろう。


ならば今はマカが望むとおりの働きをしよう。


「…でもそのうち、先に動いてやるんだから」


「ん? 何か言いましたか? ヒミカ」


「ううん。とりあえず、今日は早めに休むことにする。疲れが残っているしね」


「そうですね。では軽めの物を作りましょう」


「ううん。戦ったから、お腹スッゴク空いてるの。ステーキかスペアリブが食べたい」


「…寝る前に食べると、太りますよ?」


ヒミカの顔がすぐさま険しくなり、キシの足を踏んだ。


ドカッ!


「うぐっ!」


「さっ、買い物に行くわよ」



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