深夜
深夜、女性は1人で家路を歩いていた。
まだ20代で、スーツに身を包んだ女性は美しい顔立ちをしていた。
10代の頃は読者モデルもしたことのある女性は、しかし今は不安そうな表情を浮かべていた。
すでに日にちは変わり、電車も終電が終わった時刻。
残業で遅くなり、同僚からはタクシーで帰るように言われた。
けれど給料日前で手持ちが少なかった為、いつものように電車に乗って帰って来た。
しかし駅からでもタクシーに乗れば良かったと後悔していた。
駅から住んでいるアパートまで、歩いて15分程度。
だからタクシーを使うこともないだろうと思ってしまった。
しかし暗い道、すでに人気は無く、近くにある家の電気も消えている所が多い。
それが余計に心細くさせる。
カバンを強い力で掴み、早足で歩く。
しかし…背後から気配を感じていた。
ヒールの音は、女性のもの。
他には何の音もしないのに、気配だけが感じる。
後ろから、じっと見られていることが分かる。
「いやっ…いやっ!」
女性は恐怖に顔を歪め、ついには走り出した。
それでも足音は自分の分しかない。
やがて自分のアパートが見えてきた。
ほっとした女性の口が、何かで覆われた。
「っ!?」
悲鳴を上げるヒマもなく、女性は街灯のない暗い道に引きずりこまれた。
そして―
バリバリッ
ビジャッ
何かを引き裂き、何かが飛び散る音が闇の中に響いた。
女性を暗い道に引きずり込んだのは、大きな人型のモノ。
道に女性を押し倒し、両腕を大きく振るっている。
道に倒された女性はすでに動かない。
そのモノが動くたびに、道路には女性の血が飛び散る。
やがてその手に、女性の顔の皮が―。
そのモノはゆっくり立ち上がり、両膝を曲げ、高く飛んだ。
家の屋根を飛び移りながら、その場を後にした。
後に残されたのは、顔の皮を剥ぎ取られた女性の死体のみ。
そして一部始終を、離れたビルの屋上から見つめているモノがいた。
黒づくめの服装をしたマノンだ。
「…ふぅん。また厄介な事件になりそうだね」
いつもなら笑顔で語るマノンだが、今は眼が険しい光を帯びている。
「まっ、姉さんの相手じゃないな」
そういうと己の影に自分自身をかぶせ、姿を消した。