5/5
忘れものを掬う。
何かを忘れてしまった。
そんな気がする。
でもそれは気がしているだけで、
本当に何かを忘れたかどうかわからない。
だって忘れてるから。
もし何かあったのだとしても、
忘れられてしまっているから、
どうせよくわからない。
それで何かを失っているのか、
何かを手に入れたのか。
そのどちらのような気もするけど、
それもわからない。
もし忘れていないのなら何も手に入れてないし、失ってもいないのだろうし。
僕はそれを確かめようとしない。
目を凝らすと淡くなり、
目を背けるとその存在が色濃くなる。
目をつぶると輪郭までもはっきりし、
夢の中では感触すら感じる。
そして言葉にしようとすると
現実からこぼれ落ちる。
それは川の水を手で掬うよなものだ。
いまは掬った水をただ手のひらで揺すろう。
だってさ、いつかは石ころか砂金が
姿を現すのかもしれない。