↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャンプ  作者: minami
PR
69/176

妄想劇

 夜遅くに広海がホテルに帰ってきた。

「たくさんの人がいたから、ゆっくり話せなかったわ」と言いながらも、出て行ったときとは違う爽快な顔をしている。ヒカルと一緒に、広海の背中を無理矢理押してみたものの、ガックリと沈んで帰ってきたらどうしようと、内心焦っていた。行って良かったのだと、その顔を見てまずは一安心。

 でも、人がたくさんいたと言うことは、当然、子供のことを聞くことは出来なかったらしく、広海もそのことについては触れず、こちらからも聞くこともなかった。

 そして。

 蓮の言った通り、広海の口から、明日には上条家に帰るようにと言われ、約一週間の雨宮家での居候生活は幕を閉じたのだった。



 翌朝。

 ヒカルの体調もすっかり回復し、四人を乗せた広海の車は蓮の家へと向かった。

「こいつを送って来ただけだろ?なんで、結菜と広海が降りる必要がある?」

 蓮に続き、車から降りていると、ヒカルにそう尋ねられた。

「なんでって?荷物を取りにきたんだけど?」

「誰の荷物?」

 結菜は、勿論自分のと言いかけると、蓮が「あ……」と首を竦めた。

「もしかして、蓮くんに聞いていなかったの?まあいいじゃない。今日帰るんだから」

「なんのことだ?」

 広海は呑気にそう言うと、車のドアをバタンと閉めた。雲行きが怪しくなり、結菜は蓮を促して家に入ろうとしたが、ヒカルも車から降りてきてしまった。

「この一週間。ここにお世話になっていたのよ」

「だれが?」

「誰がって……結菜ちゃんがよ?」

「結菜が。こいつの家に?」

 ヒカルは車のドアに手を掛けたまま、蓮を睨むように見ていた。

 蓮も、あ?何か文句あるのかよ。みたいな顔でヒカルを睨んでいる。

−なんか。やばそう……

 結菜は、バチバチと火花が散っていそうな二人を交互に見ると、それを遮るように、蓮の前に立った。

「どけよ」

 ムッと一段と機嫌が悪くなったヒカルを見て結菜は溜息を付いた。

「何してるの?早く終わらせて帰りましょうよ」

 開いた重厚な玄関ドアの奥に進みながら、広海がそう言うと、ヒカルも「それはそうだな。こんなとこ、早く帰ろ」と嫌味を織り交ぜると、結菜と蓮の前を通過し、先に家の中へと入っていった。


 蓮とヒカル。

 この二人が一緒にいると、どういう訳か……


 疲れる。




「ここが結菜の部屋か?お。なんだあれ?カメラが付いてる。

おおっ。ここには風呂まであるのか。すげぇな」


 結菜が荷物の整理をしていると、子供のように、ヒカルはひとり賑やかにはしゃぎながら、部屋の中を見て回っている。

 広海は進藤に挨拶をしてくるからと、結菜とヒカルだけ二階へやり、蓮と一緒に進藤の所へ行っていた。


「もう!少しは手伝ってくれないかな?」

「いいぞ。下着とか入れてやろうか?」

「結構です!」

 

 一週間しか居なかったのに、いつの間にか増えている荷物。結菜はそれを用意してくれた箱の中に入れると、使用人の女の人から雑巾を借り、掃除を始めた。

「そんなことしなくてもいいじゃん」

 することが無くなり、ベッドにゴロゴロと寝転がっているヒカルは、仰向けになりながら、器用にこっちを見ている。

「立つ鳥跡を濁さずって言うでしょ。お世話になったんだからこれくらいしないとね」

 少しの間しかいなかったけれど、ここにはもう居られなくなるんだと思うとやっぱり寂しくなる。

 気に入っていたこのグリーンの壁。白い机の上には一度も開くことがなかった数冊の参考書がきれいに並んでいる。このベッドで初めて眠ったときは、スゴイ格好だったなとか……いろんなことを思い出した。

 それから……

 ずっと一緒だった蓮とも離れてしまう―――

 学園に行けば会えるのに、寂しくて涙が出そうになった。


「上条。また明日」

 暫くして広海が部屋まで迎えにくると、蓮に見送られながら雨宮家を後にした。

−また明日。

 そうだよね。ただ、普通の生活に戻るだけ。また明日になれば会えるよね。

 

 ずっと、これからも…… 


 




***



「広海さんも何を考えてんだ?」


 教室で新聞を広げ、綾は眉間にシワを寄せながら首を捻っている。

「そうでしょ?私にも分かんない」

 結菜も綾の広げた新聞を覗き込みながら、小さく息を吐いた。


 新聞の一面に自分の姿が載っている。自分だけではなく、蓮と、そして何故かヒカルも。

 広海のマスコミ対策として、蓮とスタジオに連れて行かれた。そこで、無理矢理と言うか、強引に写真を何枚も撮られたのは記憶にあるけれど、自分も蓮も撮られることには慣れていなくて、顔は引きつっていたと思う。

 でも、しかし。目の前にあるこの写真は、二人とも、飛び切りの笑顔をして見つめ合っている。

 そして何故か、そんな二人を応援しているような、嬉しそうに微笑むヒカルの姿が隣にあった。

「最近の修正や合成ってよくできてんな」

「ホントだ。蓮が別人だ」

「あ?なんか言ったか?」

「ほら。全然違う!ねえ。結菜ちゃん」

 話しに蓮と純平も加わり、純平は新聞の笑顔の蓮をムッとしている蓮の顔横に並べて「いつもこんな顔してればいいのにね」とからかっている。

 修正に合成か……

 写真はともかく、問題はその中身。真ん中に三人が仲むつまじく載っていて、上にデカデカと書いてある見出しは―――


『包み隠さず、すべて話します』……だ。


 そして、質問されたことに三人がそれぞれ答えている。

 が。

 そんな質問も、それに対しての返答も、全く身に覚えのないこと。おそらく、すべては広海が勝手にデタラメを書き綴ったに違いない。


「それにしても、これって絶対に蓮が言いそうにないことばっかだな」

「どれどれ」

 綾も純平と一緒に記事を食い入るように見ている。


記者:『婚約と聞いてお互いどう思いましたか?』

蓮:『俺は単純に嬉しかったですね。結婚するなら結菜さんしかいないって思っていました。結菜さんは僕にとって掛け替えのない人です』

結菜:『婚約と聞いて、最初戸惑ったけど、蓮くんとは以前から付き合っていたから、嬉しかったですね』

記者:『HIKARUさんは、妹思いの兄で有名だとお聞きしましたが、お兄さんのHIKARUさんとの仲はどうですか?』

蓮:『ヒカルさんとは本当の兄弟のように仲がいいです。時々、結菜さんが嫉妬するぐらいなんですよ(笑)』

HIKARU:『僕も、弟ができて嬉しいですね。泣き虫な妹が兄離れしてくれて、蓮には感謝しているんです』


 ウソにも程があるというものだ。


 記者と結菜を綾が読み、蓮とヒカルのところを純平が朗読していた。

 そのうち、綾も純平も堪えきれなくなり、笑いを噴出している。

 でも、そんな記事が、新聞の一面にぎっしりと載っているのだ。そして最後には、マスコミに宛てたメッセージで締められていた。


『これで全部です。私たちをこれ以上、追いかけないで下さい』……と。


 本当にこんなウソまみれの記事で、静かになるのかと半信半疑だったが、今日に至っては、報道陣の姿はみていない。

 ってことは成功?


「まだ、分からないよ。今日は安西菜穂の帰国後初のお披露目があるらしいから、そっちへ行ってるかもしれないし。それよりさあ。結菜ちゃん」

 ちょっと。と純平に教室の隅に呼ばれ、蓮の視線を気にしながらも、席を立った。

「何?」

「覚えてるよね。明日の兄貴の誕生日」

「あ……」

 そうだった。

 あれは、二週間前のフリースローで負けた罰ゲームの命令。純平からは、省吾の誕生日に塚原家に来るようにという内容だった。

「驚かせたいから兄貴には言ってないけど、もちろん蓮にも内緒でヨロシク」

「分かってる」

 このことを蓮が知れば、行くなと言うか、俺も行くと言うかどちらかだろう。行くなと言われればケンカになるかもしれない。この間仲直りしたばかりだから、それは是が非にでも避けたいところだ。

 全く姿を見せない省吾のことは気になるし、かと言って何も無いのに会いに行く勇気はない。でも、このまま放っておくことは出来ないと思っていたから、この機会は本当にありがたい。なにせ誕生日なのだから、会話もてんこ盛り?だと思う……たぶん。


『誕生日おめでとう。これ……プレゼント』

 取り敢えず、用意していったプレゼントを省吾に渡す。

『驚いたな。純平の奴……結菜ちゃんありがとう』

 省吾は戸惑いながらも、笑顔で受け取る。

 暫くは、プレゼントで場を持たせる。

『先輩。久しぶりだね』

『ホントだね』

『元気そうで良かったよ。純平くんが、変なこと言って脅かすから』

『変なこと?』

 和んだところで、少しずつ会話を持って行く。

『省吾先輩に元気がないって。それって私と蓮くんとのことが関係あるのかなって……』

 ちょっと気になって。と小さく言ってみる。

『やだな。そんなこと気にしてたんだ。純平と結菜ちゃんの思い過ごしだよ』

 と省吾は明るく返す……?


 妄想劇では、いくらでも都合のいいように省吾との会話が繰り広げられている。

 

 結菜は純平に教えられた家の前に着くと、手を広げ深呼吸をしてみた。

 腰ぐらいの鉄製の門から見える玄関先には、かわいい鉢植えに、スイートアリッサムやプリペットシルバー、パンジーなどが寄せ植えをしてあるものが幾つもあり、きれいに手入れをされている。左側の庭を見ると、芝生の上にラブチェアーの木のブランコが冷たい風に押され少しだけ揺れていた。白い壁の家前で、もう一度大きく息を吸い込んだ。


 そして、久しぶりに会う元気な省吾を想像して、結菜はインターホンを押した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。