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ジャンプ  作者: minami
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協力者

 綾の母親の静香から突然に過去の事実を聞かされた広海は、驚きのあまり言葉が出ない様子だった。

 大学時代に広海に彼女がいたのも驚きだが、二人の間に子供がいるかもしれないということも結菜たちにとっても驚愕する話しだった。


「そんな……でも、子供がいるなんて公表してないじゃない」

「それは私にも分からない。広海さんだって聞いているでしょ?菜穂さんが日本に帰って来るってこと。こっちで暫く仕事をするために所属する事務所を探していることも……」

 広海と静香は同じ業界で仕事をしている。話の内容から、広海の昔付き合っていた菜穂という女性はおそらくヒカルと同じ芸能関係だろうか……


「なあ。菜穂ってもしかして『安西菜穂』のことか?」

「ヒカル知ってるの?」

「ああ。ハリウッドで活躍している有名な俳優だ」


 安西菜穂あんざいなほ――

 日本では女優として少しずつ知名度も上がっていた彼女だか、十数年前に突如日本での芸能活動を休止し単身で渡米した。そこで一から演技について学び、全くの新人としてアメリカでのオーディションに合格する。そしてその演技力が認められハリウッドスターへの道のりを歩きだす。

 今では日本でも彼女の活躍が特集されるなど、知る人ぞ知る日本が世界に誇る俳優の一人なのだそうだ。

 

「子供のことは、菜穂さんに会って直接聞いてみることね」

 

 静香は広海にそう言い残し、そして綾を暫くお願いしますと頭を下げて上条家を後にした。


 

 ベッドの隣で寝ている綾も眠れないのだろうか何度も寝返りをしていた。結菜も目が冴えてしまい瞼を閉じても先程のリビングでの会話が頭の中を駆け巡っていた。

「結菜。起きてる?」

 綾の掠れた小さな声が、屋根に寄ってきた雀の鳴き声に混ざって聞こえてきた。

「起きてるよ。もう外は明るいね」

「うん……」

 結菜は綾の方に身体を向けると、既にこっちに向いていた綾と目が合い、お互いクスクスっと笑った。

 そして綾の顔からすっと笑みが引いていった。

「結菜……さっきずっと考えてたんだけど……」

「うん」

「もしかして、広海さんと菜穂さんて人の子供って……あたしじゃないのかな?」

「…………」

−え?

「だって、時期だってきっと同じぐらいでしょ?お母ちゃんが菜穂さんの子供を引き取った……とか?」

 綾は何を言い出すのかと思ったら……でも、そう思うのも仕方がないのかもしれない。母親に家から出て行かれてお金もなく何ヶ月も一人で過ごしていたのだ。挙げ句の果てに母親からあんな目を向けられれば、自分はこの人の本当の子供ではないのではないかと疑いたくなるのも分かる気がする。

「でも、時期で言ったら私だってヒカルだって怪しいってことになるじゃない」

「まさか……」

「可能性としてはあるんじゃない?」


 例えば私の場合だと、まず……

 上条の後を継ぐ弟夫婦には子供が出来なかった。そこへ菜穂が長男である広海の子供を産んだとの情報が入り、養子にもらった。

 ヒカルだって同じようなことを考えればいくらだって可能性はある。

 そう、そんなことを考えれば切りがないのだ。


 綾は大きく溜息を付いた。

「あたし、なんか大人になるのが嫌になってきた」

「私だってそうだよ」

 二人は顔を見合わせて笑った。




 一学期がこれで最後だというのに……ね、眠い。瞼が重く、先生の話が子守歌に聞こえてしまう。

 大あくびをすると先生に睨まれてへこみ、かろうじて目を開け、酷い形相で前を見ていると隣に座っている蓮がこっちを見てクッと笑っていて、ああ。また変な顔を見られてしまったと落ち込み、蓮を横目で見ながら、明日からあまり会えなくなるんだと思うと更に落ち込んだ……


「一緒に帰ろ」


 今日は授業もなくこれからだとお昼過ぎには家に着く。結菜は落ちている気持ちを持ち上げようと打開策を考えた。綾だって眠いはず。早く帰ってお昼ご飯を食べたら一緒に昼寝をしよう。そう安易に思い綾に声をかけた。

「あたしはバイトだから、結菜は先に帰ってて」

「これからバイトって……まだコンビニのバイトを続けるの?」

「うん。少しでも早く返したいからね……」

 綾は鞄に荷物を詰めていたその手を止め、こっちを向いて苦笑した。

 昼寝だなんて、自分はまた暢気なことを考えていたとまたまたへこんでしまった。

「そう……私にも何か出来ることってないのかな。結局何の役にも立っていないよね」

「そんなことないよ。一緒に話を聞いてくれてありがとな」

 綾はそう言うと鞄を持って教室から出て行った。

 綾の後ろ姿が見えなくなると自然と溜息がでてきた。


「佐久間となにかあったのか?」

「別に……」

 蓮になんて説明すればいいかわからない。綾だってきっと知られたくないだろうし、ここは言わない方が賢明だと思った。

 ふうん。と納得がいかないような頷き方をした蓮だが、すぐに純平が来て話が逸れたので、それ以上深く追求されずに済んでホッとした。

 もう帰ろうと鞄を掴んだとき、太もも辺りで携帯電話のバイブの振動が響いた。きっとマユかアッキーかのどちらかと思い鞄から手を離してポケットの中にある携帯電話を取り出した。

 二人には今朝、大体の事情をメールで伝えておいたのだ。もちろん綾の了承を得て。その返信だろうとケイタイを開いた。



 結局、詳しい話を聞かせろと二人に呼ばれた結菜はファミレスで待ち合わせをして20分ほど待たされた挙げ句、根掘り葉掘りと二人に聞かれ、眠気で動きの鈍い頭をフル回転させながら説明したのだった。

「そういう訳があったのね……」

 マユは運ばれてきたばかりのチーズケーキを頬張ると、うんうんと頷いた。

「で、ユイはこれからどうしようと思ってるの?」

 マユの隣でアッキーが腕組みをして結菜の発言を待っていた。

「何も考えてない……っていうか、その男には凄く腹が立つしお金も返してほしいと思うけど……」

「けど?」

「大人の話に私が首をつっこむのもどうかと思って……」

「へぇ。じゃあさ。綾と綾のお母さんはこのまま泣き寝入りしろって?」

 迫ってくるアッキーの目が怖い。

「そうだよ。私たちがその男について調べるから、ユイはどうやったら復讐できるか考えてて」

 復讐って……

 そりゃあ本音は、綾と綾ママを傷つけたその男には二人と同じ苦しみを味あわせて二度と誤ちを犯さないないように精神的に追い詰めてやりたい。出来ることならそうしたいって思う。でもどうやって?

「私一人じゃ思いつかないよ」

「じゃあさ。こうしよう。私たちが調べて相手のことが分かってから改めてみんなで作戦を立てるっていうのはどう?」

「分かったら連絡するよ」

 こういうことになるとマユだけではなくアッキーも張り切る。二人がタックルを組むと無敵だと思ってしまうのは自分だけだろうか……

 早速調べに行くのか、二人はそそくさと席を立ちファミレスを後にした。また一人残された結菜は取り敢えず自分も何かをしないといけないとノートを取り出し、その復讐とやらの案を思いつくままに箇条書きしてみる。


・呼び出して脅す。

・秘密を暴いてそのビラを街にばらまく。

・反対にお金をだまし取る。

・警察に逮捕してもらう。

……う〜ん。どれもいまいち。やっぱり一人ではこんなことしか思いつかない。


「これって、下手すりゃこっちが捕まる」

 いきなり耳元に低い声が響いてビクッと身体が硬直した。恐る恐る身体を離しながら斜め後ろを振り返った。

 そこには後ろの座席から身を乗り出してノートを覗き込んでいる蓮がいた。

「もう。蓮くん、脅かさないでよ……ってどうしてここにいるのよ?」

 いったいいつからそこにいたのか、蓮は結菜の座っているテーブルに移動してくるとノートを指さした。

「この中で、警察に逮捕してもらう以外は却下。危ないことはするな」

「だから。どうしてここに」

「様子がおかしかったから後を付けてきた」

 蓮はしれっとそんなことを言う。

「それってストーカーって言うんだよ。人の話を盗み聞きまでして……」

 もしかして、心配してくれたとか……

 結菜の言葉に明らかに不機嫌になった蓮はこっちを睨んでいた。

 やっぱり、そんなはずはない……か。


「ストーカーって……あのさ。お前達が大きな声で話してたから、話の内容は分かったけど、だからって復讐なんか考えるな。どうしてもっていうんなら、一発殴ればいいだろ。簡単なことだ」

 蓮は『大きな声で』を強調して言った。まあ。盗み聞きをしていたのは明らかだけど、ここはそこを追求して蓮を怒らせない方がいい。『断固反対』なんて言われたら動きようが無くなってしまいそうだ。

「一発殴るって……それじゃ簡単過ぎて絶対に反省しないよ。もっとこう。ネチネチドロドロと追いつめて、精神的に立ち直れないようにしてやるんだから」

「……お前。怖すぎ」

「怖くて結構。蓮くんも何か考えてよ」

「…………」

 何を言っても無駄だと思ったのか蓮は深く溜息を付き俯いた。

「協力してくれるよね?」

 蓮にばれてしまった以上、反対されるよりは味方でいてくれる方が断然いい。それに、あまり会えない夏休みにも何かと会える口実というズルイ打算もほんの少しだけあったりする。

 いやいや。そんなことよりも、蓮が協力してくれれば復讐の幅もかなり広がると思う。

 結菜の中ではそんないろんな想いが入り交じっていた。


「危ないことをしないって約束するなら、協力してやってもいい」

−やった!

 結菜は心の中でガッツポーズをした。




 そして、決行の日―――


「ねえ。あなたずっと一人でいるよね?待ち合わせ?もしそうじゃないんだったら私たちと一緒に遊ばない?」

 蓮は鬱陶しそうな顔をして目の前に立っている女を睨むが、その女達はしつこく言い寄ってくる。あまりのしつこさに追い払おうと口を開き掛けたその時、店の入り口の扉が開き、一人の女性が入って来るのが目に映った。


 カツン、カツン、とヒールの音を鳴らしながら、カールした長い髪を揺らし、大きくて少し寂しげな瞳にほんのりと色づいた頬。グロスで光っている少し開いた唇は、男達を惑わせるには充分すぎるほどだった。どこか陰のある、でも幼さも残るその雰囲気。女から見ても溜息が出るほど魅力的な女性が近づいてくる。店の中にいる客数人がその女性に気づき目で追っているのが分かった。


「蓮。待った?」


 その女性が蓮の前まで来ると、今まで蓮にまとわり付いていた女達は圧倒されたように仰け反りそそくさと退散していった。

−まったく、油断も隙もない。

「ちょっといない間に声を掛けられるなんて、蓮くんが物欲しそうにしてるから」

「…………」

 上から睨み付けて思いっきり嫌みを言ったのに、いつものような蓮の反撃は返っては来なかった。

「ねえ。どうよ。あたしたちの自信作!」

 アッキーとマユが登場しても蓮は固まったまま動かない。

「蓮……くん?」

 自分を見たまま、あまりにもビクともしない蓮が心配になって声を掛け、顔の前で手をちらつかせてみた。

「か、上条か?」

「そうだよ?え。わからないぐらい変わった?もしかして、へん?……」

 結菜は自分の顔に手を当て心配そうにマユ達の方を見た。

 長い髪は取り外しが出来るエクステを付けている。後はメイクをアッキーとマユが、ああでもないこうでもないと合作して仕上げてくれた。


「雨宮蓮もユイって分からないって、これでもう成功したも同じじゃない?」

「マユ。何言ってんのよ。これからでしょうが」

 


 そうこれから復讐が決行される……

 





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