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ジャンプ  作者: minami
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子供のケンカ?

閑静な住宅地を抜けると、大きな公園がある。その公園を取り囲むように桜の木が植えられている。今年、早めに咲いたその桜は満開を通り越し、今はすでに散りかけていた。時々吹く強い風に花びらが舞い散る。



結菜は早めに家を出ると、待ち合わせ場所にすでに来ていた親友の綾と合流した。まずはお互いの制服姿を褒め合い、歩く学校までの道のりは新鮮で、あらゆる景色に目がいく。



そして、もう一度結菜は隣を歩く綾を見た。



長いサラサラのストレートの黒髪は女らしさを強調しているようで……そして、すらっと高い身長に抜群のプロポーション。勿論顔の造りも完璧で、制服のブレザーのせいか、より魅力的に見えた。この前まで中学生だったとはとても思えない。


−羨ましい。


綾と歩くことがなんだか無性に恥ずかしく思えた。

その証拠に……



「今の人、綾ちゃんのこと見てた」



もう何人目になるだろうか。すれ違う人が綾を見て、その美しさに驚き、そして、その様子を凝視している結菜と目が合うと、慌てて視線を逸らす−−−−

見事に同じことを繰り返していた。



「結菜、ちゃんと前を見て歩いてるか?」



今、まさに目が合った男の人が通り過ぎ、結菜は思わず振り返ると、その背中を睨んでいた。

綾は気づいているのだろうか。


「でもさ、この高校へ行くのをよく広海さんが許してくれたよな」


綾はいつもと変わらない男の子っぽい口調で、独り言のように呟いた。



確かに最初は反対していた。広海さんはもっとレベルの高い学校へ行けと。ヒカルは女子校へ行けと。

広海さんの考えは、きっとこうだ。上条家を継ぐ立場になるのだから、出来るだけ良い学校をとでも思ったのだろう。

ヒカルは……単純に、男のいないとこならどこでもいい。といったところだろう。

すべて、私の想像だけど……

でも、私は誰に反対されようが、この学校にどうしても行きたかった。



「あれ?綾ちゃんに言ってなかたっけ」

「何を?」

「この学校、私のパパとママの母校なの」



同級生だったパパとママはこの学校で初めて会い、そして……恋に落ちた。

二人が青春を謳歌したその場所で、私も一生心に残る思い出を創りたい。


「そうか、そうか」

綾は結菜の頭に手を乗せると、そのまま髪をくしゃくしゃにした。


「酷い〜」

乱れた髪を手で整えながら抗議の目を綾に向けた。

分かっている。多くを語らなくても、綾は自分のことを誰より分かってくれている。


だから、一緒にいると安心する。


「結菜、ぼーっとしてると、置いてくよ!」

いつの間にか数歩先を行く綾の背中に追いつこうと、鞄を抱えて小走りに走った。

それに気づいた綾は、追いつかれまいとまた距離をあける。 



「綾ちゃん待ってよ。意地悪!」



結菜は、半分拗ねた声で訴える。綾はそれを楽しむように振り返りながら笑顔で逃げていた。



結菜をからかうことに飽きたのか、綾は息を切らして追いついた結菜が隣に並ぶのを確認すると口を開いた。



「広海さんってほんと、心配性だね。あっヒカルさんもか」

「なあに?綾ちゃん今更」



二人が異常なまで心配性で過干渉なことは、中学からの三年間で綾は嫌と言うほど知っている。そして、そのことで綾にきりがないほど迷惑を掛けているはずだ。

「もしかして、あの二人、また何かした?」

恐る恐る聞いてみる。

綾は一瞬躊躇したが、一度頷いて口を開いた。


「どうせ、ばれると思うから言うんだけど……今朝、来たんだ。あの二人」


あの二人……?


考えなくても分かる。


−広海さんとヒカルだ。朝出掛けたのって綾ちゃんのとこだったの?

でも、今朝ということは……


「今朝って」

「そう、運悪くお母ちゃんがいた」

綾は苦笑いを浮かべているが、それを隠そうとおちゃらけて、舌を出した。



広海さんと綾の母、綾ママは頗る仲が悪い。綾ママは有名なスタイリストで広海さんと同じ業界で働いていると思うのだが。私も綾ちゃんも何故二人が犬猿の仲なのか真相を知らない。知りたくても、広海さんも綾ママもそのことに触れると堅く口を閉ざすのだ。二人に聞く他に真相を知るすべのない私たちは、何も分からないのだ。


「広海さんとヒカルさんは、あたしに結菜のことを頼みに来たんだけど、案の定お母ちゃんと広海さん、喧嘩になってさ」

「…………」

二人の言い合いが目に浮かぶようだ。


「あたしとヒカルさんとで、止めに入ったんだけど」

まあいつものことよと綾は笑い飛ばす。


「綾ちゃん……ごめんね」

「なあに結菜が謝ってんだよ。あたしが言いたかったのは、うちのお母ちゃんがいるかもしれないって分かってるのに、あえて結菜のことを頼みに来る広海さんって凄いなと」


「…………」


「あーもう!そんな顔をさせるために話したんじゃないのにな。こっちこそ、悪い。ってなんで謝りあってんだ?この話はもう終わり」


強制的に話を終了した綾は、気まずい雰囲気を打破しようと、結菜にいろいろと話しかけてくるが、「うん」とか「そうだね」とか曖昧に返事を返すだけで、頭には入ってこなかった。



なぜか、いつもそうだ。綾ちゃんも私も二人の仲悪さの原因を知りたいと思っているのに、妙に気まずくなって、話しづらくなってしまう。最近はこんな感じだ。

前はそうでもなかった。始めのうちは二人で興味津々という感じで気軽に話をしていた。


広海と綾ママの喧嘩、といっても、周りが唖然とするほど馬鹿馬鹿しいもので、俗に言う子供のケンカと言うものだ。

綾ママの『オトコオンナ』という広海を罵倒する言葉から始まり、『バカ』だの『アホ』だの、いい大人が今更口にしないであろう言葉をお互い投げつける。


でも、その言葉の中に引っかかるものがあった。

それは、綾ママが言った一言……


−『あなたって昔からそうよ!女心をわかってない!』


好奇心旺盛な私たちは、さっそく分析した。と言っても、想像であれこれ言うものだけれど……


どうやら二人は昔からの知り合いらしい。

どの時点からの知り合いだろうか。

『女心』とは……


もしかすると、昔、二人は付き合っていたのではないか。そして、喧嘩別れをした……


そこまで想像すると、はっとして、結菜と綾は眼を合わせた。


−今きっと同じことを考えてる。


「あたしって、お母ちゃんに似てないよね?お父ちゃん似かな?」



不意に綾が言った言葉で確信する。



確かに綾は母親似ではない。目がぱっちり二重で美人というよりは、可愛らしい母親に対して、綾の目は奥二重で、全体の雰囲気からしても可愛らしいではなく美人。目の感じは広海に似てないこともない。




−綾ちゃんのお父さんって、もしかして……




「んなわけないじゃん。あの広海さんだよ?」と爆笑する綾ちゃんだったけど、心の奥では引っかかっていると思う。勿論、私も。



そこからだ、二人の喧嘩について触れると、気まずくなるのは。

何とかしなくては、と思うだけで、現実はそう簡単にはいかない。




「結菜、聞いてる?」




綾が結菜の顔を覗き込んできた。

気がつくといつの間にか学校の門を潜っていた。



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