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ジャンプ  作者: minami
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蓮 Side  3

長らく留守にしていてすみません。まだ、なかなか早く更新できないとは思いますが頑張って書き進めていますので宜しくお願いします。

 進藤はいつまでここに閉じ込めておくつもりだろうか。

 もう何日たったのか分からなくなり、明るかったソラの表情も曇ることが多くなった。

 こんな小さな子が母親と離れ、どこかも分からない場所で不安に過ごすことはもう限界なのかもしれない。


 ソラが熱を出した時、確信したことがある。それは、この部屋にも隠しカメラか盗聴器が仕掛けられているということ。そうでもなければ、森のじいさんが都合よくここに来るはずがない。

 いつも二人が居ない時を見計らって食事の用意がされているのもまたその可能性を窺わせている。


 ソラと一緒に風呂に入ると俺は人差し指を口に当てて、喋らないでという合図をした。

 湯船に浸かりながら、持ち込んだメモ用紙とペンでソラに話しかける。

『あしたのあさはやく、ここからだっしゅつする』

 するとソラが俺の持っていたペンとメモ用紙を取ると、何かを書き始めた。

『だっしゅつってなに?』

『ここからにげるってことだ』

『どうやってにげるの?』


 何度も打ち合わせを重ね、明日の本番に備えソラを早く眠らせる。

 湯船に浸かる時間が長かったせいか、ソラの身体は赤く染まっていた。


 明日になれば母親の所に返してやるからな。


 子供のことはよくは分からないが、4歳ぐらいの小さな体でソラはすごく頑張っている。

 上条の元で幸せに育てられたんだろうな……

 ソラの隣に寝転んだ俺はそのまま眠りについた。



 早朝。ソラを起こすとドア越しにテーブルに食事が運ばれている音に耳を澄ます。

 俺が合図を出すと、ソラがお腹を抱えて唸る。


「誰か!ソラの様子がおかしい!!」


 鍵のかかっているドアを叩きながら叫ぶと扉の向こうから足音が近づいてきた。

 俺は壁に張り付き、ドアが開くのを待った。

 鍵を外す音が聞こえ扉が開くとお腹を抱えて蹲っているソラに男が駆け寄る。

 俺は後ろからその男の首元目掛けて手を振り下ろすと、男は簡単にその場に伸びてしまった。

 驚いて固まっているソラを抱えて寝室を出ると、そこには食事の支度をしている男があと二人いた。

 抱えていたソラを降ろすと一人は足蹴りでもう一人は肘鉄を食らわし、またソラを抱え出口のドアに向かって走った。

 出口付近に何人いるのかは分からなかったが飛び出すと中の様子が変だと気付いた男がエレベーター付近から走ってきているのが見える。


 俺はソラを抱えたまま、男に向かって走って行った。


「ソラ。摑まってろよ!」


「うん」


 首にしがみ付いているソラの手に力が入るのを確認してから足を上げ走る勢いを利用して壁を蹴り走り寄ってきた男に空中で蹴りを食らわす。


「サーカスみたい」


 次々と襲ってくる男たちを恐れるどころかどこか楽しんでいるような声をしたソラを抱えて戦うのには限界があった。

 俺はソラを壁際に下ろすと「合図するまでここにいろ」と告げ、起き上がってきた男に向かっていった。


「そこまでです」


 一人で五人の相手をしている時、声をした方に目をやると暴れるソラを片手で軽々しく抱えている進藤が立っていた。


「ソラを離せ」


 男たちを跳ね除け今度は進藤に向かっていくと進藤はソラにナイフを突きつけた。

 ソラは自分に向けられたナイフの先を見て今にも泣きそうになっている。

 進藤の行動で俺の足は止まり構えていた手が下りた。


「私もこんなことはしたくはありませんでした。ですが致し方ない。蓮さんには部屋に戻って頂きます」

 ソラを抱えた進藤の前を通り先に部屋に入ると、すでにナイフを仕舞った進藤が床にソラを降ろした。

 解放されたソラは進藤から隠れるように俺の後ろに回り込むと太もも辺りに抱きついてきた。

 そして目をギュッと閉じると顔をすり付ける。

 余程怖かったのだろう。

 

「汚い真似しやがって」


 俺が睨みつけても顔色一つ変えない進藤にイラつく。

 自分の欲でこんな小さなソラを監禁し恐怖させた進藤が途轍もなく許せなかった。


「あなたはまだご自分の立場が分かっていませんね」

「立場……そんなもんクソ喰らえだ」

「蓮さん……いえ。社長は今しがた空さんを危険に晒そうとされた。そのことを分かっておりません」

「危険に晒したのは俺じゃない。お前だ」

「わたくしだと仰るのでしたらそれでも結構ですが。社長に警告したことをお忘れのようですからもう一度報告させて頂きます。今、裏の組織に何らかの動きが見られます。それは社長だけではなく結菜さん、そして空さんまでもが狙われている可能性があるのです。勿論それはわたくしの思い過ごしなのかも分かりませんが、警戒したことにこしたことはありません」

「危険だって言うんだったら上条は何故ここにいない」

「それは……もう少し時間が経てばご報告できるかと思います」


 それ以上は口に出さない進藤との睨み合いが続く。

 俺の足もとで震えているソラを寝室に連れて行ってから再度進藤との話し合いを続行する。


「ですからもう少しお待ちを……」


 何を言ってもそう言い返されるだけで、俺の話などまともに取り合わない。


 こいつ一発殴ってやろうか……


 進藤相手に暴力で勝てるとも思えないが、もう我慢の限界だ。

 本気でそう考えていた時進藤の携帯電話が鳴った。


「はい……はい。そうです……」

 電話に出た進藤は神妙な顔で相槌を打っている。

「そうですか。ありがとうございます。それでは至急そちらに伺わせて頂きます」

 携帯電話を切った進藤が真っ直ぐ俺を見た。


「これよりお二人を解放致します。しかしくれぐれも用心なさってください。迎えが来るまでもう暫くこちらで待機されますよう」


 さっきの電話が何だったのかも聞かされず進藤が部屋から出て行った後入れ替わるようにスーツ姿の見慣れない男が入ってくると、俺とソラはようやく監禁生活から解放された。





 俺とソラを乗せた車は上条の待つOMURASUに向かっている。

 久しぶりの屋外と母親に会える嬉しさでソラは車の窓に張り付くように外を眺めていた。

「ソラ。着いたぞ」

 車がOMURASUの前に駐車されると、緊張した面持ちで歩道に降りる。

 上条があの中で待っている……

 そう思うと心臓の鼓動が忙しなく動く。

 ソラが店のドアを勢いよく開けると大きな声で「ママ!」と叫んで入って行った。


「あら。ソラちゃんいらっしゃい。ママと待ち合わせなのかしら?残念ね。ママはまだ来ていないのよ」

 トレーを持った女の人がソラに微笑み、後ろにいた俺に気付くと「いらっしゃいませ」と席に案内してくれた。


「あの……ソラちゃんとは」


 ソラが俺の横にちょこんと座ると、水の入ったグラスを置きながら女の人が不思議そうに聞いてくる。

「蓮くんはママのお友達なの。もうすぐしたらママがソラを迎えに来てくれるんだよ」

 笑顔が零れ落ちそうなほどニコニコと笑うソラを嬉しそうに見た女の人が、注文も聞かずにカウンターの裏に入って行った。


「ここにはよく来るのか?」

「うん。おばちゃんもおじちゃんも、すっごく優しいんだ」

「そっか……」


 ここは上条との思い出の場所でもある。

 最初俺が上条をここに連れて来たんだよな……

 口いっぱいに頬張ってオムライスを食べていた上条を思い出して思わず微笑む。


―――僕が立候補してもいいかな?結菜ちゃんの彼氏に


 そういやあの時、省吾も一緒だった。


「蓮くんもママに会うの嬉しい?」

「え?」

「だって、今笑ってたから」


 俺に笑顔を向けたソラに微笑み返す。



「ソラと一緒だな」


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