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ジャンプ  作者: minami
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一歩だけ前へ

 


 マユは出来るだけ学校へ行ってそれから休学すると話した。赤ちゃんを産んでからはまた高校生として復学すると……純平は神楠学園に通いながらこれから生まれてくる家族の為に夜遅くまで働いている。

 綾はモデルの仕事だけではなく、春からはドラマにも出演するとみんなを驚かせていた。

 そして、省吾は大学に通いながら父親の経営している病院でバイトをしている。相変わらず勉強ばかりの忙しい日々。

 みんなそれぞれに自分たちの人生を歩んでいる。


 立ち止まっているのは自分だけ……


 

 みんなが帰ると部屋の中が急に寒くなったように感じた。さっきまでは笑い声が絶えず賑やかで暖かかったのに……

 結菜は自分の部屋に入るとベッドに潜り込んだ。


 みんな心配してああやって尋ねてきてくれる。それは単純に嬉しいことだ。

 でも……

 もしみんなに何かあったら?

 また自分のせいで誰かが傷つくことがあったら?

 そう考えだすと止まらなくなる。

 

 ヒカルのように……

 父親や母親のように……


 もう二度とないとは断言などできない。

 大切な人がどんどん自分の前からいなくなる――――


 怖い。


 人と関わりをもつことが怖くて仕方ない。



 最近、部屋に籠もることが多くなっていた。外に出ればマスコミに追われ、学園に行けば好奇の目を向けられるだろう。前まではそんなこと関係ないと強くいられた。それは友達や蓮が傍にいてくれたから。でももう誰にも頼ることは出来ない。いや。頼ってはいけない。

 自分は人の命を奪ってしまう死に神なのかもしれないのだから……





 自分を責め続けていたある日。ケイが家にやってきた。


「よう!結菜。お元気?」

 片手を上げてニシッと笑うケイは相変わらず軽そうだけれど、かえってそれに安心した。

「まあ。一応」

「あんだよそれ!全然元気そうじゃないじゃんか」

「そんなことないよ?あ。夕食食べていく?」

 ちょうど夕飯の用意をしていた。じっと家にいても広海は何も言わない。それが余計に後ろめたくて、いくら気分が落ち込んでいても家の家事は完璧にこなしていた。

「おお。結菜の手料理か食べる。ってか今誰もいねぇのか」

「うん。広海さん。最近はずっと遅いから」

「そっか」

 誰かと食べる食事は久しぶりだった。


「蓮くんは元気にしてるの?」

「なんだよ。やっぱり連絡もしてねえの?」

「うん……」

 結菜はそう言うと俯いた。

「電話してやれよ。それよか会いに行けば?その方が喜ぶ」

 そうだろうか……

 蓮はもう関わりたくないと思っているかもしれない。その証拠に自分の家に帰ってからは一度も連絡がない。

「会えないよ……」

「…………」

「もうこれ以上蓮くんに迷惑かけられない」

 蓮にもしもの事があれば、それこそ自分は生きてなどいられない。


「迷惑……ねぇ」

「蓮くんが元気ならそれでいいよ」

「お前。なんか勘違いしてね?」

 ケイはそう言うと煮物の里芋を箸で突き刺し口に放り込んだ。

「え?」

「迷惑とか。元気ならそれでいいとか。お前と蓮の関係ってそんなもん?そうじゃないだろ。それにヒカルは蓮にお前を託した。そんな兄貴の最後の言葉もお前は聞き流すのかよ」

 最後の言葉……

 それはヒカルからの最初で最後の告白……

 それをケイは知らないのだろう。

「だからかな。だから余計に蓮くんには会えないのかも」

「そんな顔してそういうこと言うなよ」

 両親が死んでしまったのも、私が我が儘を言ったから。ヒカルは私を助けるために自分の命を投げ出した。

 こうしてケイが近づいてくることもケイにとっては不幸という入り口に入ってしまうことになるのかもしれない。


「今日は来てくれてありがとう。でも、もうここには来ない方がいいよ」

 それはケイの為を思ってのことだった。

 でも、ケイは結菜の言葉が気に入らない様子で、見る見るうちに不満げな顔に変わっていった。


「なんだよそれ。ヒカルが守ったのはそんな弱っちい結菜だったのかよ!?それとも何か。結菜は誰かに責められたいのか?ヒカルを殺したのはお前だって。だったら言ってやるよ。そうだな、お前がいなかったらヒカルは死ななくてもよかったのかもな!」


「…………」


 返す言葉がなかった。

 自分でそう思っていても、面と向かって人に言われると胸の奥がえぐられるように痛くなる。


「でもな……お前がいたからヒカルの人生は二倍も三倍も楽しかったんだ。それにな…

蓮だってお前とおんなじことを思ってんだよ。自分が結菜と関わらなかったら、ヒカルが死ぬようなことはなかったんじゃないのか。結菜が辛い思いをしなくてもよかったんじゃないのかってな。ヒカルだってそう思ってたんだよ。中学ん時の自分を責めて責めて、責めまくった。ったくお前らは……」

 言葉を詰まらして俯いたケイは泣いているように思えた。

「ケイ……」

「どつもこいつもお互いのことばっかり……自分を押さえるばっかしやがって。そんなのいいわけないだろ!結菜はいつまでもひとりでいじけてんなよ。何を怖がってる。会いたいなら会いに行け。蓮は生きてるんだぞ!」

 ケイの怒ったような言葉が突き刺さった。

 生きている。蓮は生きている。だから……

「だから会いにいけないんだよ」

「そんなの間違ってる」

「そうだね……」

 きっと間違っている。

「ホント。お前は頑固だよな。でもオレはこのまま『はい。そうですか』って帰るわけにはいかねぇんだよ」

 ケイは結菜の腕を掴むと強引にキッチンの食卓から立たせた。そしてまた強引に手を引くと家の外へと連れ出した。

「ちょっとケイ?」

「乗れ」

 家の前に止めてあった車に結菜を無理矢理乗せると、ケイの運転する車は猛スピードで走り始めた。


「どこ行くの?」

「決まってんだろ。蓮のとこ」

「…………」

「ちゃんと顔を見て話しをするんだな。お互い偽りのない自分を見せ合え」


 頑固なのはケイも同じだ。


 蓮と会って何を話せばいいのだろう……蓮は何を言うのだろう。

 自分に対する蓮の反応が怖かった。


 

 白い塀の途切れた門の前に着くと、ケイが蓮に電話をしている。蓮は家に居るようで、すぐに大きな門が開くとケイは車を奥へと進めた。

 車が玄関の前に止まり結菜は仕方なく降りると、後ろからケイの声が聞こえた。


「結菜はごちゃごちゃ考え過ぎなんだよ。蓮の顔を見たら思ったままのことを言えばいい。それがお前らしいんだからな」


 振り返ると親指を立てたケイが笑顔で見送ってくれていた。






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