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ジャンプ  作者: minami
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危険な放課後

 蓮が同じ屋根の下で暮らすようになってから、早一ヶ月が過ぎようとしていた。


 その日々の中には、マユや純平、アッキーに綾達を招いて庭でバーベキューをしたこともある。マユと純平の幸せそうな顔を見ると周りにいる自分たちまでそのお裾分けを貰った気になったりして。

 

 こうして友達と一緒に過ごす休日はほんのひとときの安らぎで、みんなの笑った顔を見ていると今までの出来事が全部無かったように感じられ、普通の高校生に戻った気がした。


 蓮との時間も大切だけれど、自分にとってはとても貴重な時間だった。

 今や何社もの専属モデルをしている綾も、忙しい時間をかいくぐって来てくれる。アッキーもバイトを休んで駆け付けてくれる。

 

 マユのお腹を触る純平は満面の笑みを浮かべていた。


 

 純平に誘ってもらった省吾は、大学と病院のバイトで忙しく一度も顔を出すことはなかった。

 そして。

 ヒカルと蓮も相変わらずの関係らしく、顔を合わせても会話すらない日も珍しくなかった。男同士はそんなものだろうか?女の自分には分からないとこなのかもしれない。

 それでも一緒に暮らしているのだから少しずつでも距離を縮めてくれればいいと安易なことを思っていた。









 二学期も中盤に差し掛かり、何の変わりもない平穏な1日を過ごしていた。

 いつものように蓮と登園し、いつものように授業を受け、そしていつものように放課後を迎えた。


 ただ、普段と違っていたのは蓮が放課後担任に呼ばれていたということ。

 蓮は言っていた。話しというのはきっと雨宮グループに関してだろうと……



 蓮が上条の家に引っ越してきた次の日。蓮と広海が話していたように、雨宮グループに属していた裏の組織に警察が捜査に入った。その後、進藤は警察署に呼ばれ、何度か事情聴取を受けた。

 雨宮グループが裏の組織と完全に分裂したのは蓮の父親が病気になってから。つまり三年前ということになる。今は全く関係がないと言っても、グループに所属していた当時から依頼を受けていたのは確かなこと。進藤がどこまで関与していたのかということまでは分からないけれど、そのことで雨宮グループが打撃を受けたのは一目瞭然だった。


 株価は下落し、会社を支えているトップの役員は一人また一人と辞職。今や八方塞がりといったところだった。蓮は会社については何も話してくれないけれど、きっと気に病んでいるに違いない。



 それなのに私ときたら……


 蓮が傍に居てくれるというだけで舞い上がって、きっと自分だけ幸せな顔をしている。

 







「教室で待ってて、すぐに戻ってくるから一緒に帰ろ」


 そう言って蓮はいつものように、頭の上に手を乗せた。


 いつものように自分に向けられた優しい蓮の顔。


「うん……」


 教室から出た廊下では勉強から解放された生徒たちが楽しそうに話しをしながら、通り過ぎて行く。


「上条?」

「あ、うん。待ってる」


 そう納得しているのに、自分の手は蓮の裾を掴んでいた。


「子供みてえ」

「ははっ。そうだね」

「すぐに帰ってくるよ」


 蓮の困ったような笑顔を見て、やっと手が離れた。





 なんだろう……

 胸の奥がざわつく。





 今、蓮と離れたらいけない気がした――――






 蓮の背中が見えなくなるまで廊下で見送ってから教室に入った。


 先程の嫌な予感はなんだったのだろう……


 きっと気のせいだ。

 そう思い、結菜は椅子に座って蓮が言ったように大人しく教室で待つことにした。

 日が陰ると少しだけ冷やされた空気が窓から教室になだれ込んでくる。開いていた窓を閉めると、携帯電話を取りだしてヒカルにメールを送った。


『今日はヒカルの好きな煮込みハンバーグだよ。お仕事頑張ってね』


 するとヒカルからすぐに返信がきた。

 メールを開くとヒカルの顔を歪ませた変顔写メが貼り付けてあり、思わず声を出して笑ってしまった。


『楽しみにして帰るよ』


 ヒカルの気持ちは知っているけれど、この二人の関係もいつもと変わらない。きっとずっとこのままなのだとそう思う。






「楽しそうだね」






 そう―――――


 この時までは。



 色々なしがらみがあっても、それを乗り越え、ずっとこの幸せが続くとそう思っていた。

 


「ユイちゃん」



「紫苑……」



 誰もいない教室に紫苑が立っている。日本人離れした整った顔は目立つけれど生徒達と同じ制服がそれを少しだけ緩和していた。

 

「久しぶりだね」


 そう言って何かを含んだ笑顔を向ける。紫苑の笑っていない目の奥に鬼気を感じた。


「紫苑。今までどこにいたの?」


 結菜は席を立ち、紫苑を警戒しながら後退りをした。


「そんなこと話してる時間ないんだ」


 逃げる隙もなく詰め寄られると、紫苑の手にスタンガンが握られているのが一瞬だけ見えた。


-ヤバイ!


 そう悟った時にはもう並んでいる机が歪み、天井がうっすらと見えると同時に結菜は意識を手放した。


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