4 俺の怒りと、絶対突っかかってくる馬鹿
「人は思ったよりいないんだな」
その言葉通り、ギルドの中は何人かの冒険者らしき奴らとギルド職員達しかいなかった。
「今の時間帯はほとんどの人が出払っていますから」
「なるほど、説明ありがとミカ」
「・・・(褒められた、えへへ)///」
なんかもう俺がかまうだけで幸せそうな顔するなミカは。
「いちゃいちゃするなと言っただろう、まったく。おーい、ライラさーん!」
「はーい?あ、アリアさん!」
アリアが呼んだ受付嬢らしき人物はこっちに全速力(?)で走ってきた。まるで飼い主に走り寄る飼い犬のような・・・いやなんでもない。それにしてもトテトテって擬音が付きそうなくらい危なっかしい走り方でめちゃくちゃハラハラするんだけど。
「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ、それでどうしたんですか?」
「うむ、彼らの冒険者登録と我らのパーティの加入登録を・・・「ちょっと待ちなよ、アリアちゃーん」・・・また来た」
アリアがすごいげっそりした顔になった、人の顔ってあんなに変わるもんなのかってくらい。
「ミカ、そんなめんどくさい奴らなのか?こいつら」
「・・・リターズ伯爵家の次男、ヴィンセントです。前から私たちにパーティに入れろと言ってきてたんです、その時は男子禁制のパーティだって言って、追い返してたんですが・・・」
「ふむ、俺が加入するって知ってこれ幸いと突っかかってきた訳だ」
「・・・そうです」
俺とミカがそんな話をしてる間もアリアとデブ貴族の会話はヒートアップしてた。
「おかしいなぁ、男子禁制だから僕らは入れなかった筈だよ?それなのに彼を入れるのはおかしいんじゃないかなぁ」
「それは、彼がミカがずっと探していた人物で・・・」
「あれあれ~、アリアちゃん、ミカちゃんに罪を擦り付けるんだ?それってアリアちゃんが大嫌いな言い訳して逃げる奴と一緒なんじゃないかなぁ」
「そ、それは・・・くっ」
・・・どうも押されてるらしい。これは助けるしかないよな?。
「ちょいと失礼、お二人さん」
「ク、クロム?」
「・・・あぁ君か、特徴が無いせいで全く気づけなかったよ。まぁ君のおかげで僕はやっと彼女らを手に入れられるよ。一応、礼を言っておくよ、ありがとう。」
こいつがそんなことをほざいた瞬間、後ろですすり声が聞こえた。
「・・・うぅ」
俺の後ろではミカが嫌悪通り越して恐怖で泣く寸前になってた。
「・・・・・・・・・」
「ひっ」
アリアが唐突に恐怖の声を上げた、そんな恐ろしいもんがここにいるのか?
「・・・おい」
デブ貴族に話しかけたら思ったよりも低い声が出てしまった、どうやら俺はかなり怒ってるようだ。
「なんだい君は、君と話す事はもうないだろう。さ、向こうへ行きたまえ」
だというのにこの馬鹿は全く気付いていない。大物なのか馬鹿なのか。・・・多分後者だな。
「何だ、このパーティに入るのにテストがいるってことは知ってんのか。ならこっち来い、テストしてやる」
「はぁ、君は何を言っているんだい。そんなものは・・・「あるぞ」・・・何?」
「ある、と言った。テスト内容はその男に勝つことだ、テストに合格すれば問答無用で加入させてやろう」
おお、ナイスフォローだアリア。さて、こいつがこんな見え見えの罠に引っかかってくれるかどうかだが・・・。
「っはは、言質はとったよ、これで大手を振って加入できる」
おし、やっぱこいつかなりの馬鹿だ。報酬に踊らされてやがる。と、思ってると、デブ貴族はこっちに来て小声で、
「君も災難だねぇ、彼女らに顎で使われて。でももう大丈夫だよ、君がわざと負けてくれれば今度は僕らが彼女らを自由に使えるようになるよ。君にとっても有益だろう?だからさっさと負けを認めてくれよ?」
と話してきた。
多分俺とあいつらを仲違いさせて勝ちを得ようとしてるんだろうが、残念ながらその程度じゃこの俺は買えないぜ?
「では勝負を始めようじゃないか」
「あぁ、お手柔らかに頼むぜ」
この俺に勝負を挑んだこと、後悔させてやろう。
「では、僕からだ、火球!」
人の頭くらいある火球がデブ貴族から放たれる、なかなか能力は高いんじゃないか?
俺はあえて避けずに受けることにした。
ドゴオオォォン!
周囲が爆発して発生した黒煙に覆われ見えなくなった。
残念だったな、デブ貴族。このコートは魔法カット率100%なのさ。炎が凄まじい火球も物理ダメージは何てことない、押された程度だ。
「っ!!!いやああぁぁぁ!!!」
ミカの叫び声が聞こえる、しまったこれじゃあ俺が倒されたようにしか見えないよな。ミカを泣かせたいためにやったわけじゃ無いし、そろそろネタバラシするか。
「突風」
俺は込める魔力に気を付けながら、煙を吹き飛ばす程度の魔法を放った。
クククッ、驚いてる驚いてる。そりゃそうだ、魔法が直撃した奴が完全無傷で出てきたら俺でも驚く。
「次は俺の番だな」
「ま、待て!ちょっとま・・・「恐怖乃王」ひっ、ひぃいぃいいい!!!」
クックックッ、「死」の王から奪った技はヤバいだろう?こいつは食らった奴が一番恐怖する光景の幻覚を見せ続けるんだ、延々とな・・・。
「いやだああぁぁぁああ!!!誰か、誰か僕を助けろぉ・・・」
誰も助けられはせんさ、なにせ使った奴ですらこれを解くことはできないからな。
「タ・・ス・・・タス・・・ケ・・・」
じゃあな、デブ貴族。二度と出会わないことを祈るぜ。
デブ貴族は部下らしき奴らに抱えあげられてギルドから出ていった。
後に残ったのは、ざわざわしてる他の冒険者達やギルド職員と、
すごいキラキラした目で見てくるセレンと、
同じようなキラキラした目で見てくるロゼと、
立ったまま寝てるアンジェラと、
さり気なくアンジェラを支えてるアルと、
涙目にハートマーク浮かべてこっち見てるミカと、
そんなミカを不思議そうな顔で見てるロキと、
やっちゃったって言いたそうな顔してるアリアと、
アリアと似たような顔してる俺だった。
やっちまった・・・