それぞれの戦い2
カレンは黙々と戦っていた。
紅の牙はサポートに徹底する。
カレン、ロミ、シズカは盾を持って強固に魔獣たちの攻撃をさばいている。
この魔獣たちには中級魔法ぐらいでは攻撃が通らない。
発動までに時間のかかる超級呪文を魔法使いたちが放つまで、ひたすら防御だ。
幸い魔法使いは三人いる。
ヘルハウンドをマナがエターナルフレアで倒し、リヨンがミノタウロスに止めを刺し、ロックバードの巨体に呪文の集中砲火を浴びせ倒した。
フェンリルとマンティコアは様子を窺っている。二匹とも知性のある魔獣だ。
前衛にケルベロスとワイバーンを出し、隙あらば攻撃をしようと言う腹だろう。
セルフィは覚えたばかりの重力魔法を使い、魔獣の体重を何倍にも増やし、動きを鈍くさせている。
リヨンが衝撃波を伴った攻撃でワイバーンを削っていく。
動きが遅くなった攻撃など、リヨンにとっては無いも同じだ。
躱し、打つ。
敵の間を縦横無尽に動き、たった一人で前衛を見事にこなしている。
マンティコア、フェンリルが唱える魔法も、届く範囲なら叩き潰していく。
衝撃波の出るこのガントレットは、ただでさえ強いオーガの肉体にさらなる攻撃力をもたらしている。
単なる魔獣の攻撃などリヨンには通用しない。
ついには魔法で弱ってたとはいえ、ワイバーンさえも衝撃波の餌食となりその場に崩れ落ちた。
残りはケルベロス、マンティコア、フェンリルだ。
ケルベロスは三つある頭で攻撃してくる。炎の息もあり、なかなか強い。
ケルベロスが出たとなれば、その付近の街道は通行止めになり、軍隊が出動しやっと討伐するほどの相手だ。
それを相手に、しかも優勢に戦えるなんて、カレン達ですら思っていなかった。
訓練の成果が出ている。オルターはさすがに我々の姫様が認めた男だ。この歳でまだこんなに強くなれるとは思っていなかった。
しかしさすがにリヨンも三つの頭には攻めあぐねている。
と、何かを思いついたか、リヨンはケルベロスと距離を取る。
そこから技を放つ。
“彗星拳”!!
ケルベロスが飛ぶ衝撃波に吹き飛ばされているのを、マリーナがアイシクルランスの呪文で頭を一つつぶした。
リヨンは今度は思い切り接近し、両手でのラッシュを放ち止めを刺す。
ケルベロスは倒れ伏した。
残りはフェンリルとマンティコアだ。
両方ともおとぎ話に出てくる伝説の魔獣だ。
皆、欠片も油断せずに身構えた。
突然ティーリンたちと戦っているブラックドラゴンが声をあげた。
「いつまで寝ている気だ。武闘家レンよ。もう傷はいえてるだろう。立ち上がって加勢しろ」
アンリとマナが驚愕の表情と共にミオが吹き飛ばし、壁にめり込んでいる男の方を振り向いた。
レンと言われた男は無言のまま起き上がる。
顔色は青く、どう見ても魔族なのだが、その顔をよく見ると確かに勇者のパーティの一人だった武闘家レンだった。
マナが呻く。ま、まさか……
アンリが、
「そんな馬鹿な! レンは死んだはず!」
思わず声をあげる。
ブラックドラゴンは楽しそうに、
「我らが魔王が魔核を心臓に打ち込み復活させたのだよ! まあ処置が遅かったおかげで記憶は何も残ってないがな」
レンと呼ばれた男は構えを取る。
ミオに鎧は破壊され、上半身裸の男の心臓の位置には、ドクンドクンと動く肉の塊があった。




