vs魔華四天王セス
7/19日、全体的に書き直しました。
セスは食事中だった。
即席の玉座のような椅子に座って鹿を一頭、まるかじりしている。
血抜きもしていないのか鹿の血が流れ出て、それを口で受け、うまそうにごくごくと飲み下す。
セスまで十メートルと言ったところか。
戦場が見渡せる小高い丘なので、戦いが始まれば兵に気づかれてしまうことは必須だ。
僕は超級魔法のバーニングエクスプロージョンを神級並みの魔力を使い唱える。
ティーリンも同時に精霊帝の召喚の呪文を唱え始める。
呪文を唱え始めた瞬間に、透明化の呪文は解ける。
ここからは時間との勝負だ。
透明化の魔法は戦闘などの行動をとると勝手に解けてしまう。そして透明化は相手に見られていると掛からない。
もうセスをやるしかない。
行くぞ!
――――超級魔法“バーニングエクスプロージョン”
僕の周りに巨大な火の玉が通常の四個ではなく、二十個生まれ、それが僕を中心に螺旋状に着弾していく。
すさまじい轟音と共に僕から十メートルほどの敵を焼き尽くす!
轟音が連続で鳴り響き、爆炎と土砂が巻き上がる。
同時にティーリンは魔法陣から火の精霊帝を出現させた。
セスは無傷だ。魔法を受け付けない鎧と言うのは本当だったのか。
「ぐぎぐぎぐぎ。おもじろい余興だな、ニンゲンよ」
セスは焦るどころか、この状況を楽しんでいるようだ。
食べかけの鹿を投げ捨てると即席の玉座のような骸骨の椅子から立ち上がる。
腕で血だらけの口を拭う。
身の丈三メートルの巨人はガチガチに鎧を着こんでいる。
セスは椅子の横に立てかけてあった巨大な鋼の鎚を持ち上げる。
鎧も鎚もうっすらと黒いオーラをまとっていた。
「我と戦うのに二人で良いのガ?」
僕が無言でトンカチを腰から外し、右手にスティック、左手にオリハルコンのトンカチを構える。
直後セスから圧倒的な威圧が吹き出る。
「よおおおおおおおおおおじ! いぐゾ!!! 」
炎の精霊帝がセスに殴りかかるが、ダメージを受けた様子がない。
精霊そのものが肉体ではなく、魔力の塊なので魔法耐性の鎧のせいでダメージが通らないのだ。
逆に鎚の攻撃を受け、吹き飛ばされる。
その間に僕の魔法の準備が終わる。
もう一度、今度は一点集中だ。
――――超級魔法“ライトニングスパーク”
破裂を伴う電撃がセスに向けて発射され、セスに触れると散ってしまった。
「やっぱ魔法はだめか」
セスが鎚をぶんぶんと振り回し、ティーリンに襲い掛かる。
鎚を振り回す攻撃を、避ける、避ける、避ける。
避けると同時に、いつの間に抜いたのかレイピアを鎧と鎧の隙間に突き入れようとするが弾かれる。
「鎧をどうにかしないとだめね」
ティーリンは渋い顔だ。
ティーリンを相手にしてる間に、僕は斜め後ろの死角からわき腹にトンカチで殴りつける!
一瞬で五発!
失敗!
もう一度!
「ニンゲンチョコマカとうるざい! 」
隙を見てまたわき腹にトンカチを叩きつける。
成功だ!
金属が折れる甲高い音が響いた。
「うるさいハエメ!! 」
しかしティーリンが執拗に目を狙ってレイピアを突き入れるので、僕を相手にする余裕がない。
僕は後ろから回り込み、反対側も同じようにトンカチで連打する!
成功だ!
大ぶりの槌の攻撃を避け、今度は背後から取りつき、次は肩にトンカチを連打する!
そして、肩にあったそれを破壊する。
僕が狙ってたもの…それは留め具だ!
ズドォォン
セスの胸と背中の鎧は、大きな音と共に地面に落ちた。
「セ、セコイゾニンゲン! 」
ここぞとばかり炎の精霊帝が鎧のない胸を殴る。
本来なら表情が動くはずのない精霊がニヤリと笑った気がした。
「グッ オ、オマエモカ! チ、チカラで勝ってコソ……」
そこで僕の魔法の準備が終わる。先ほど効かなかった超級魔法バーニングエクスプロージョンをもう一度だ。
今度も一番最初に撃った二十発バージョンだ。
―――――超級魔法“バーニングエクスプロージョン”
いくつもの爆発が次々とセスを襲う!
セスの胸と背中をなんどもなんども炎の爆発が襲い、皮を焼き、肉を焼き、炭化させる。
僕はトンカチを右手に持ち替えて構える。
「ぜ、ぜめでオマエだけでも…」
セスは口から血をまき散らしながら鎚を振りかぶり、僕に向かって振り下ろす!
「力で負ければ納得がいくのかい?」
僕に振り下ろされた巨大な鎚に向かって、オリハルコンのトンカチを振り抜く!
「ガッキィィィーーーーーン!」
という音とともに、トンカチがセスの槌に大穴を開ける!
たかが鋼の武器などにまける僕のトンカチではない!
まあちょっとだけ心配だったけれども!
計算どおりだ、う、うん。
セスは驚愕の表情で鎚を見る。
そして僕を見る。
セスは目を回し、そのままズドォンと仰向けに倒れたのだった。
僕は、あ、これ力で勝ったわけじゃないわ。
自分で自分にツッコミを入れた。