夢幻の墓場
一週間。
アンリは目を覚まさなかった。
僕らは宿屋の一階で朝食をとりながら話し合いだ。
「エリクサーで効果がないとなると、私にはお手上げだね」
マリーナはエリクサーを使ったが、それすら効果がなかった。
マリーナが匙をなげる。
ミモザが、
「心と体は何も問題がありません」
と言うことは、残るのは魂に問題がある、と言うことだろうか。
「魂に影響を与える魔法や道具、そんなものがあるんですか?」
マリーナに聞く。
「たとえば原因とみられる、女神降臨。これは魂さえ削って唱える魔法だね」
「と言うことは、魂のエネルギーが足りてない、と言うことですか?」
「まあそういう予測は立つが……。まてよ……。アストラルサイドからの回復か。ありうるな……」
マリーナは考え込んだ。
ふと、何か心当たりがあったらしい。一つ頷くと、
「レイスが持っている、かくりょの実。唯一、錬金素材で実態がよくわかってないものだ。効果は精神力を復活させる。が、しかしこれはかくりょの実の効果の一部らしい。この実は魂にすら影響があると言われている」
おお。さすがマリーナ。僕は答える。
「取りに行きます。どこに行けば?」
「狙って取ってくるならダンジョンしかないね」
カレンが呻く。
「まさか……。あそこですか。……夢幻の墓場」
マリーナが頷く。
「そう。全階層実体の無いモンスターの巣窟。ここで力尽きた冒険者はそのままゴーストとなって永遠にダンジョンをさまようという」
うわなにその最悪のダンジョンは。
「そのせいでもっとも人気のないダンジョンだね。全十階層と言われてるが、ダンジョンボスが何かわかってないからそれも眉唾だ」
カレンが懐から紙の束を取り出す。
「む、む、夢幻……。あ、ありました!」
カレンが取り出したのは夢幻のダンジョンマップだった。いつも持ち歩いてたのか……。
「場所はシーサの南東だね。行くメンバーは、オルター、ティノ、ミモザは決定で、紅の牙から僧侶ミランダいいかい?」
カレンが頷いた。と、マナが立ち上がった。
「私も行かせてください!」
マリーナは驚いたように、
「わ、わかった。では、オルター、ティノ、ミモザ、マナ、ミランダ。このメンバーだね」
「僕が竜になれば数時間で行って帰れます」
ラフェが口を出した。
「それは私がするわ。あなたはあんまり竜化しないほうがいい」
ラフェ居たのか。ラフェはしょっちゅういなくなるから、いるかいないかよくわからないんだよね。
僕はカレンからマップを受け取ると、
「わかった。じゃあラフェにお願いするよ。よし。おかみさんにお弁当作ってもらったら出発します。善は急げだ」
***
夢幻の墓場一階。
ここはごつごつした赤い岩肌のダンジョンだ。
カレンのメモによるとここのモンスターは、わずか四種類。
ゴースト、バンシー、レイス、ワイト、のみ。
ただし、ゴーストは生前の力をパワーダウンはするものの使うことが出来、魔法使いのゴーストなどは非常に厄介だ。
バンシーは、悲鳴を上げて、精神に直接ダメージを与えてくる。
レイスは掴まれると精神力を吸われてしまう。霊体であるから壁の中からいきなり出てきたりする。
ワイトは他のモンスターの親分格だ。王様のような恰好をしていて、他の悪霊たちに命令をすることが出来るらしい。リッチの幽霊バージョンみたいなものか。
一階から五階までは、ゴーストのみだった。
僕らはホーリーシンボルを掛けた武器で次々とゴーストたちを退けていった。
効きそうなのに、闘気剣は効かなかった。
しょうがなく、トンカチに直接ホーリーシンボルを掛けて殴っていく。
まあそれでも一撃で倒せてしまうので、もしかしたら最初から魔力を宿しているヒヒイロカネは、それだけで霊体にダメージを与えることが出来るのかもしれない。
試してみようとは思わないが……。
気配察知のスキルが役に立つ。
これのおかげで壁の中からいきなり現れるモンスターも、事前にどこから来るか知ることが出来る。
六階、七階はゴーストにバンシーが混ざってきた。
バンシーは霊体のくせに壁抜けが出来ないらしく、能力は厄介なのだけど、見かけた瞬間に遠くからホーリーライトの呪文で消滅させることが出来た。
やはり僧侶が二人だと安心できる。
八階への階段の前に休憩所があった。ここも、部屋になっていて、真ん中に小さな噴水がある。
今日はここで休むことにした。
次の階層から目的のレイスが出てくるのだけど、みんなの魔力もだいぶ減っているので、休ませることにした。
みんなで宿屋のおかみさん特性のお弁当を食べる。
「じゃ、順番で見張りにしましょう。ミランダさんからね」
「はぁい」
ミランダさんは紅の牙の僧侶だ。あんまり話したことはないけど、おっとりした性格だ。
あらあら言いながらメイスで敵を消滅していってた。
今日は、ミオがいないからなんかさみしいなぁ、と思ってティノの後ろに横になったら、マナが僕の後ろに丸くなってくっついてきた。
「今日は私がミオの代わりをしますね」
と耳元で小声でささやかれた。
ミモザがしまった! みたいな表情になってた。




