港町カザリア
遅くなってすみません。
毎日更新がちょっと辛くなってきましたが、頑張ります。
私は森の中の獣道を走っている。
魔族に捕まるわけにはいかない。
飼いならされた魔獣が私を追いかける。
私は人の潜在能力まで100%フルに使って走る。
逃げる。
走り、隠れ、逃げる。
森林の中を、林の中を、樹海の中を。
普通の動物なら私の味方だけど、ここに住む生き物のほとんどは魔物だ。
文字通り泥水をすすり、木の皮を食べる。
食べられるものならなんでも口に入れる。
新芽、木の実、野草。木の皮。木の根。
幸い、私には食べられるものと食べられないものの区別がつく。
街道を避け、道なき道を進む。
けもの道を、進む。
服はすり切れてぼろぼろだ。
それでも私は歩を休めない。
絶対に逃げなければいけないのだから。
この体を利用させてはいけない。
この体を凌辱させるわけにはいかない。
伝えなければならないことがある。
行かなければ。
彼の元へ。
オルター・ドヴェルグの元へ。
だって私は。
女神なのだから。
***
マナは目を覚ました。
心臓がどくんどくんと早鳴りしている。
夢を見た。
すごいリアルな夢。
夢の中で私は女神様だった。
魔獣たちに追いかけられて、必死に逃げている女神様。
隣のベッドを見てみる。
ミモザが布団の中でもごもごと動き、上半身を起こした。
目をこすりながら、私の方を見て、言った。
「……女神様?」
部屋の中がやわらかい朝の光で満たされていく。
私とミモザはお互いにベッドに腰掛け向き合っていた。
私の夢の話を聞いたミモザは、
「それはお告げかもしれません。確かにマナさんに女神さまの力を感じました」
と言った。
「でもなぜ聖女の私がいるのにマナさんに……」
と、そこまで言って、ふと何かを思い出したのかミモザの顔が真っ赤になった。
部屋の中を視線が泳ぐ。
「どうしたの?」
「いいいや、何でもないです」
ミモザがいきなりヒーリングを唱えた。ミモザの手が白く光る。
それでなにやら安心したらしい。
真剣な顔になって何かを考えているようだ。
それから私の目をまっすぐに見ると言った。
「もしかすると、聖女アンリが生きているのかもしれません」
***
朝食の時間。みんな集まって朝食をとる。
今日の朝食はやわらかい白いパンに、目玉焼きと野菜を挟んだものと、玉ねぎのスープだ。
ミモザがみんなに話しかける。
「みなさんいいですか。まだ推測なのですが、聖女アンリが生きてるかもしれません」
なんだって!? 全員の手がぴたりと止まる。
思わず声に出た。
「なにがあったんですか?」
ミモザは僕の目を見ると言った。
「マナさんが今日の朝お告げをもらいました。お告げと言う名の、助けを呼ぶメッセージのようなものです。マナさん」
マナが朝見た夢の内容を説明し、ミモザが補足する。
「本来なら私がお告げをもらうのではないかと思ったのですが、聖女アンリが生きているならば、アンリを知っているマナさんにお告げが行ってもおかしくないと」
ミモザは続ける。
「私がちょうどマナさんが起きた時に、一緒に起きたのですが、言われて見れば誰かに起こされたような気もするのです。マナさんを見た時に確かに女神さまの力を微弱ですが感じました」
マリーナがふむ、と頷く。
「これは出発を早めたほうがいいのかもしれないね」
マナが言う。
「夢の中で私は、とにかくオルター様に会わなければ、と思ってました。何か伝えることがあった気がします」
マリーナが呻く。
「このタイミングでそのお告げは意味深だね。伝えることがあるとなると、もしかすると魔王の事で、このまま戦ってはいけない、という風にもとれる」
ああ、なるほど。これは難しい。
僕は少し考えて言った。
「女神さまは魔物ではない生き物がいれば、命令が出来るんですよね?」
マナは頷く。
「ええ、そんな風に思ってました」
ティーリンが口を挟む。
「ちょっといい? その夢が魔島の事なら、海にさえ出ればオルカや鯨に助けてもらえる可能性があるわね。海に魔物はほとんどいないのだし」
それは思いつかなかった。それしかない気がしてきた。マリーナのほうを向いて僕は言った。
「それで、どこを目指すかとなると、やはり灯台のある港町カザリアになる……のかな?」
マリーナが言う。
「森林や樹海があるとなると、やはり魔王城の東だね。西は岩山だし。無事に海に出れたとしたら、位置的にカザリアに着くだろうね」
「カザリアか。行ってみようか。幸いここからそう遠くない」
僕は頷いた。
よし、次の目的地は港町カザリアだ。




