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勇者の弟12歳  作者: 山吹向日葵
第五章
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港町カザリア

遅くなってすみません。

毎日更新がちょっと辛くなってきましたが、頑張ります。

 私は森の中の獣道を走っている。


 魔族に捕まるわけにはいかない。


 飼いならされた魔獣が私を追いかける。


 私は人の潜在能力まで100%フルに使って走る。 


 逃げる。


 走り、隠れ、逃げる。


 森林の中を、林の中を、樹海の中を。


 普通の動物なら私の味方だけど、ここに住む生き物のほとんどは魔物だ。


 文字通り泥水をすすり、木の皮を食べる。


 食べられるものならなんでも口に入れる。


 新芽、木の実、野草。木の皮。木の根。


 幸い、私には食べられるものと食べられないものの区別がつく。


 街道を避け、道なき道を進む。


 けもの道を、進む。


 服はすり切れてぼろぼろだ。


 それでも私は歩を休めない。


 絶対に逃げなければいけないのだから。

  

 この体を利用させてはいけない。


 この体を凌辱させるわけにはいかない。


 伝えなければならないことがある。






 行かなければ。






 彼の元へ。





 


 オルター・ドヴェルグの元へ。




 


 だって私は。






 女神なのだから。 






 ***






 マナは目を覚ました。

 心臓がどくんどくんと早鳴りしている。


 夢を見た。

 すごいリアルな夢。

 

 夢の中で私は女神様だった。  

 魔獣たちに追いかけられて、必死に逃げている女神様。


 隣のベッドを見てみる。

 ミモザが布団の中でもごもごと動き、上半身を起こした。

 目をこすりながら、私の方を見て、言った。


「……女神様?」


 部屋の中がやわらかい朝の光で満たされていく。

 私とミモザはお互いにベッドに腰掛け向き合っていた。


 私の夢の話を聞いたミモザは、


「それはお告げかもしれません。確かにマナさんに女神さまの力を感じました」

 

 と言った。


「でもなぜ聖女の私がいるのにマナさんに……」


 と、そこまで言って、ふと何かを思い出したのかミモザの顔が真っ赤になった。

 部屋の中を視線が泳ぐ。


「どうしたの?」


「いいいや、何でもないです」


 ミモザがいきなりヒーリングを唱えた。ミモザの手が白く光る。

 それでなにやら安心したらしい。


 真剣な顔になって何かを考えているようだ。


 それから私の目をまっすぐに見ると言った。


「もしかすると、聖女アンリが生きているのかもしれません」





 ***





 朝食の時間。みんな集まって朝食をとる。

 今日の朝食はやわらかい白いパンに、目玉焼きと野菜を挟んだものと、玉ねぎのスープだ。


 ミモザがみんなに話しかける。


「みなさんいいですか。まだ推測なのですが、聖女アンリが生きてるかもしれません」

 

 なんだって!? 全員の手がぴたりと止まる。

 思わず声に出た。


「なにがあったんですか?」


 ミモザは僕の目を見ると言った。


「マナさんが今日の朝お告げをもらいました。お告げと言う名の、助けを呼ぶメッセージのようなものです。マナさん」


 マナが朝見た夢の内容を説明し、ミモザが補足する。


「本来なら私がお告げをもらうのではないかと思ったのですが、聖女アンリが生きているならば、アンリを知っているマナさんにお告げが行ってもおかしくないと」


 ミモザは続ける。


「私がちょうどマナさんが起きた時に、一緒に起きたのですが、言われて見れば誰かに起こされたような気もするのです。マナさんを見た時に確かに女神さまの力を微弱ですが感じました」


 マリーナがふむ、と頷く。


「これは出発を早めたほうがいいのかもしれないね」

 

 マナが言う。


「夢の中で私は、とにかくオルター様に会わなければ、と思ってました。何か伝えることがあった気がします」


 マリーナが呻く。


「このタイミングでそのお告げは意味深だね。伝えることがあるとなると、もしかすると魔王の事で、このまま戦ってはいけない、という風にもとれる」


 ああ、なるほど。これは難しい。

 僕は少し考えて言った。


「女神さまは魔物ではない生き物がいれば、命令が出来るんですよね?」


 マナは頷く。


「ええ、そんな風に思ってました」


 ティーリンが口を挟む。


「ちょっといい? その夢が魔島の事なら、海にさえ出ればオルカや鯨に助けてもらえる可能性があるわね。海に魔物はほとんどいないのだし」


 それは思いつかなかった。それしかない気がしてきた。マリーナのほうを向いて僕は言った。


「それで、どこを目指すかとなると、やはり灯台のある港町カザリアになる……のかな?」


 マリーナが言う。


「森林や樹海があるとなると、やはり魔王城の東だね。西は岩山だし。無事に海に出れたとしたら、位置的にカザリアに着くだろうね」


「カザリアか。行ってみようか。幸いここからそう遠くない」


 僕は頷いた。


 よし、次の目的地は港町カザリアだ。



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