月灯の下
真夜中、僕はふと人が動く気配を感じて、テントの中で上半身を起こした。
隣で寝ていたリヨンとミモザを、起こさないように気をつけながらテントを出る。
テントから出ると、満月が迫って明るい月灯の下で、動く影があった。
あの影は……。
僕は静かにその影に近づく。
「ハッ!ハッ!ハッ!」
その影は僕が近づくと振り返る。
「あ、起こしてしまいました?」
マナだ。マナが木の棒を手にどうやら剣の練習をしていたらしい。
「大丈夫。マナこそもう寝たほうがいいよ」
「ええ。なんだか眠れなくて」
マナの吐く息が白い。
「もう少し体を動かしますね」
そう言うとマナはまた素振りを始める。
切っ先鋭く、その動きはとても魔法使いだったとは思えないほど洗練されてきている。
どうりで戦士にもなれるはずだ。
「どうです?ちょっとは役に立てていますか私」
僕は岩の椅子に腰掛けながら、
「うん。すごい役に立ってるよ。マナがいてくれて助かってる」
マナは照れ、
「そう言ってもらえると嬉しいです」
月灯の下、マナの赤い髪の毛が白い雪の世界にひるがえる。
マナの持つ木の棒が、見えない敵を切り刻み、えいっという小さな掛け声とともに斬り伏せる。
そしてはぁはぁと息を弾ませながら、
「あの時。前にも言いましたが、魔王ゾルマに負けた時。私は一度死んだんです」
僕の隣に腰を下ろす。
僕は腰の魔法の袋から、ポットとコップを取り出し、湯気の出る、甘くしたチョコレートをコップに注ぎ、マナに渡す。
マナはありがとうございます、と言いながらそれを受け取り、一口飲む。
「そこから救い出してくれたのはあなたです」
そしてほぅ、と息をつく。
「あなたは希望なんです。私の。ううん、皆の、そして世界の希望」
マナが僕に寄りかかって来る。
「勇者のアンフィですら、あなたがいなくては魔王に勝てなかった」
そして、
「知ってますか?勇者と言うのは二種類いるんです」
寄りかかって来るマナの重さが心地いい。
「ううん。どういうこと?」
「それはですね。生まれながらにして勇者である人。アンフィがそう」
ぼくは先を促す。
「うん……それから?」
マナは人差し指を立て、
「もう一つは、功績を以って勇者と言われる人。……ずっとずっと未来の人たちが、この時代の事を話す時、勇者が二人いた時代、ときっと言う事でしょう」
僕は照れて、
「おだてすぎだよ」
「ふふ。きっと明日もうまくいきます。あなたがいるんですもの。リリアンだってきちんと取り戻して、そしてみんなで帰りましょう」
僕は頷く。
「うん。大丈夫。明日が終わればきっと、大変な冒険だったねってみんなで笑い合う事になるよ」
そして静寂の中、心地いい時間が過ぎる。
マナが、
「一つお願いがあります。私の勇者さま」
僕の目を見て言った。マナの琥珀色の目が月の光に照らされて美しい。
「うん。なに?」
マナが目を閉じて言った。
「キス……してください」
月灯の下、僕はマナにキスをした。




