強奪
これはどういう状況だ!?
「その子をどうする気だっ!」
カレンだ。
この場に居るのは“紅の牙”のメンバー、すなわちカレン、シズカ、ロミ、シルフィ、ミランダの五人か。
カレンが僕に気が付いて声を上げる。
「オルター様!申し訳ありません。リリアンを攫われてしまいました……」
邪神アラクは、
「カハハハハハっ。良い、良い。これこそまごうことなきアルハーラの血筋!」
そこかしこで燃え上がるテントが、あたりに陰影をつけていく。
「ふんっ、ここまで追って来たか。だがもう我の目的はすんだわ。アルハーラの血筋を連れて来てくれたことには礼を言おうぞ」
くそっ、リリアンを抱えている以上、こちらからは手を出しにくい。
「リリアンをどうする気だ」
アラクはくつくつと笑いながら、
「いいだろう、気分がいい。教えてやろう。これには我が妻を向かい入れる器になってもらう」
「妻だと!?」
「そうだ。狂喜の月の女神、それがこの肉体で復活するのだ」
僕は絶句する。
「そんなことは……させないっ、リリアンは返してもらう!」
額に汗が流れ落ちる。
僕は六本の腕に構えた武器を強く握りしめた。
「クハハハッ、次の満月までにまだ間があるな。返してほしくばそれまでにやってこい。くくく楽しみが増えたわ」
アラクはそう言うと、黒いオーラで自身を包み込む。
そして、次の瞬間。
黒いオーラの残滓だけを残し、邪神アラクの姿が掻き消えた。
僕は呆然とその黒い残滓を見つめることしかできなかった……。
夜襲は白虎軍に多大な犠牲を出した。
白虎軍の五将軍のうち、二人がこの夜襲で討ち死にしていた。
ほぼすべての敵が黒い骸骨、龍の牙から作られた竜牙兵だった。
疲れを知らないこの骸骨どもを、全滅させたのは辺りが明るくなってきた頃だった。
それでも敵襲があってからすぐに前線へ飛び出したミオ、ミモザ、マナ、リヨン、ティーリン、レンが大活躍してくれたおかげで、犠牲者はだいぶ抑えられたらしい。
姉さまは轟炎と一対一で戦い、決着が着かずに轟炎は撤退していったようだ。
「すぐに助けに行くべきにゃ!」
ミオが声を上げる。その隣でリヨンがうんうんと頷いている。
「言うのは簡単だけど、今回は王と王妃の時のようにはいかないだろう」
カレンが言う。
「待ち受けるのは邪神だ。それも勇者殿とオルター殿の攻撃をはじき返したというじゃないか」
ああ。確かにあいつは全然本気じゃなかった。
それであの強さか。勝てるのか?僕たちは。
でもリリアンの事を思うと胸が締め付けられる。
勝てるのか、ではない。勝たなければならないんだ。
何をしてでも。
「すこし、いいですか」
皆が注目する中、話し合いに混ざっていた白虎軍将軍の蘭青が口をはさんだ。
「次の満月まであと十二日あります。それまでに過去に邪神を倒した勇者の武器を取りに行くというのはどうでしょう」
僕らは驚く。
「そんなものが……?」
「はい。玄武族の領地に保管されているそうです。勇者が現れるまでは封印されているはずです」
姉さまが身を乗り出す。
「前の勇者が邪神を倒した武器ね。確かにそれがあればあいつに勝てるかもしれない」
蘭青将軍は一つ頷き、
「ええ。早速玄武へと使いをやりましょう。それと、ええと、あなた」
ミオに向かって言った。
「はいにゃ」
「今よりもっと強くなりたくはありませんか?」
と。




