竜の試練13
夜にもう一回続きアップします。
僕らは樹海を抜け、草原に出る。
ここからはレッドドラゴンの縄張りだ。
いつ襲われてもおかしくはないが、これだけ見晴らしがいいとこちらからも簡単に発見できるだろう。
気配察知を強く意識しながら僕らは草原を歩く。
まだミオはびくびくしてる。
「く、くるにゃらこい! 」
シュッシュッ! ミオはシャド―しながら歩いている。
「ミオ、あんまり緊張してるといざって時に動けなくなるぞ。」
「ご、ご主人様はすごいにゃあ。尊敬するにゃあ」
僕が落ち着き払ってるのを見て、ミオの中の僕の評価がまた上がったみたいだ。
「じゃ、そろそろ昼飯にしようか。肉がもう食べないとダメかもだし。煙が出ればレッドドラゴンが来るかもしれないしね。」
「来てくれないことを祈りたいにゃ……」
僕は準備をする。と言っても魔道具の金床と肉を出すだけだけど。
土竜の肉と黒パンを袋の中から取り出す。
焼いた肉を黒パンに挟んで出来上がり。
ミオも同じのを作る。さすがに生肉をパンに挟むのはどうかと思ったので、ミオのは少しだけあぶる。
「こうやって食べるのもたまにはいいにゃぁ」
ミオは美味しそうにばくばくと食べる。
ん? 僕とミオの動きが止まる。
「きた」
「くるにゃ」
殺気が迫ってくる。
「どこだ!?」
「あっちにゃ」
ミオが目を細めて睨んでる。
なるほど。赤い点が近づいてきている。
急いで袋に金床をしまう。そして呪文を唱え始める。ここから魔力を溜め始めればかなり大きな魔法も使える。
僕は虹色のトンカチを構え、魔力を溜める。
ミオもオリハルコンの爪を装備し、体中に闘気を巡らせる。ミオの体が薄い青色のオーラで覆われる。
間違いなくレッドドラゴンだ。
ものすごい勢いで一直線にこちらへ向かってくる。
あと、
1000メートル。
500メートル。
もうちょい……
100メートル。
いまだ! 先手必勝! 僕は練りに練った魔法を解き放つ!
“トルネード!”
今回使った魔力は通常の1000倍だ。かなり勢いは削がれてるだろうが、十分の威力を持ったトルネードがレッドドラゴンに迫る。
レッドドラゴンに魔法はほとんど効かないという話だが、さすがに僕の魔法は効くはずだ。
レッドドラゴンは急ブレーキをかけたようだが、遅い!
トルネードに頭から突っ込む!
「グギャオオォォオォ! 」
すさまじい魔力の嵐がレッドドラゴンをもみくちゃにする。翼が片方あらぬ方向に曲がり、レッドドラゴンは地面に落ちる。
レッドドラゴンの墜落した衝撃で地面が揺れる。
僕とミオはレッドドラゴンへ走る!
走りながら防御魔法を二人に掛ける。虹色の結界が二人を包む。
「先行くにゃよ!」
ミオが僕を抜いてレッドドラゴンへ迫る!
その恐怖に勝った横顔は凛々しく美しかった。
おっと見とれてる場合ではない!
近くに来ると、さすがにでかい!二階建ての一軒家ぐらいあるぞ!
だがやるしかない!
僕は走りながら唱えていた魔法を解き放つ。
土水竜王戦を活かして考え付いた戦術だ。
“ストーンウォール!”
ただのストーンウォールじゃない。ストーンウォールを円い棘状にし、レッドドラゴンを突き刺す!
“ストーンウォール!”
“ストーンウォール!”
“ストーンウォール!”
“ストーンウォール!”
レッドドラゴンを中心に円形にストーンウォールの棘を展開する。突き刺すのはおまけだ。突き刺さらなくても問題ない。
これの目的はミオの足場を作ることだ。
これは正解だった。
ミオが手の届くところに斬撃を入れていく!
肩に、腕に、足に、胸に! 背中に! 翼に!
打合せ通り、とにかく手あたり次第に攻撃していく。
レッドドラゴンが暴れるたびに何本もストーンウォールを折られるが、それを上回る速度で作る!
ミオは棘からレッドドラゴンに飛び降り、一瞬でオリハルコンの爪で攻撃し、また棘へ逃れる。
棘から棘へと飛び回りながら頭を狙う!
何度目かの攻撃のあとに、頭に届いた!
瞼の位置にオリハルコンの爪を突き刺し振り抜く!
「グギャオオオオオオオオオオオオオォオォォォ!」
瞼から血を吹き出しながら!レッドドラゴンが吠える!
全力で暴れまわる!
しかし僕らには届かない。
平静を失っているドラゴンなど怖くない。
僕はミオの足場がないところへストーンウォールを作りだし、足場にする。
「グギャオオオオオオオォォォ」
とレッドドラゴンが叫んだあと、突然レッドドラゴンが真っ白な光に包みこまれた。
まぶしい光に思わず目をつむりそうになるのを意志力で抑え込み、薄目で見届ける。
レッドドラゴンの輪郭がぼやけ、光が収まるにつれ、輪郭が小さくなっていく。
光が収まったあとには、レッドドラゴンの姿はなく、真っ赤なマントを着た人間が立っていた。